コーラの歴史 1 「コーラ誕生前夜」


現在世界的に発展し、清涼飲料の王座に君臨するコーラ。 本書の読者であればコーラを飲んだ事のない方は恐らくいないだろう (もしいれば¥110持って最寄りのコカ・コーラの自販機に走るように)。 しかし,コーラがどのように生み出されたかを知る人は意外に少ないと思う。 この連載では,その知られざるコーラの歴史に光を当てていきたい。 この第1回は,「コーラ誕生前夜」と題し, コーラという飲み物が生まれた歴史的背景について述べる事にしよう。 コーラ誕生の瞬間については,第2回でお届けする予定である。

舞台は19世紀終盤のアメリカ合衆国。 南北戦争が終末を迎え、ネイティヴアメリカンとの戦いも収束に向かいつつあった頃である。 移民が急増し、混乱を伴いながらもアメリカは豊かで強力な国家へ確実に歩み始めていた。 そのような流れの中、今までにない新しい「飲み物」が出現しはじめる。 この動きの発端となったのが,炭酸水の発明と,薬剤師たちによる売薬ブームである。

最初のポイントである炭酸水そのものは,古くから天然に存在した。 天然の湧水の中には二酸化炭素を含んだものがあり, 薬として珍重されていたようである。 しかし1767年,ジョセフ・プリーストリーによって炭酸水が工業的に生産されるようになると, 色とりどりのソーダ水が新しい刺激的な飲み物としてアメリカ人の生活に溶けこんでいった。

当時ソーダ水は薬局のファウンテンで売られていた。 ファウンテンというのは,今風にいえばマクドナルドでジュースを注いでくれるような, あの機械である。 で,南部の夏の日差しで喉がからからになったり, 前日少し飲みすぎて頭がガンガンしたりするときに薬局のカウンターに立ち寄り, 透き通るようなソーダ水の感触を味わったり, 近所の人と世間話を楽しんだりしていたようである。 だから薬局とはいっても現在の薬局とは少し違って, 今でいうところの喫茶店やパーラーの性格も併せ持っていたようだ。

もう一つのポイントは,売薬ブームである。 この頃は医者が不足し、戦争からの帰還兵が家で薬を服用することが多かったため, 薬で一財産を築くことができたのだ。 当時は国家による薬の統制がなく、薬剤師は自分の知識と経験と直感で薬を調合する事ができた。 そのほとんどはアルコールや薬草、例えばコカの種や生姜の根などを混ぜ合わせた原始的なもので、 多くは「万能薬」として売られていたとされる。 万能薬とはいっても二日酔いや風邪を治すとか,疲労回復とかいった程度のものだったようだが, それでもこうした「万能薬」でもって巨万の富を築いた薬剤師もいたようで, それゆえいっそう多くの薬が売り出された。

もっとも当時コカインやカフェインの使用が流行していたことを考えると, 確かに二日酔いの苦しみを紛らわすくらいの効能はあったのかもしれない。 その中には後にコーラの父となるDr.Pembertonの「FRENCH WINE & COLA」も含まれていた。 これはその名の通りフランス産のワインに,コカの葉とコラ・ナッツの抽出物を混ぜたもので, 恐らくは他の薬草(ハーブ)も含まれていただろう。 コラ・ナッツは成分にカフェインを多く含む木の実で,コカ同様当時流行していたものである。 コカの葉とコラ・ナッツについては次回以降さらに詳しく説明することになるだろう。

しかしこの売薬ブームにも転機が訪れる。 1869年に禁酒党が結成されるなど、 酒類を違法にしようとする動きが全国的に高まってきたのである。 これにより多くの薬剤師が禁酒用飲料の開発にこぞって乗り出しはじめた。 ここに来て炭酸水と,コカを含む数多のハーブが必然的に出会うことになる。

ここで当時開発され、今にその姿を残す飲料を紹介しよう。

まずはROOT BEER。BEERといっても現在ほとんどがノンアルコールである。 アメリカでは大手A&Wをはじめ多くのブランドが販売し、 大人から子どもまで広く親しまれている。 炭酸水に砂糖と数種類の植物の根の抽出物を加えたもので、 ほかの清涼飲料に比べて非常に薬臭い。(個人的には好きなんだけど。) 誕生は1876年、企業家チャールズ・ハイヤーズによって調合されている。 この「ハイヤーズ・ルート・ビア」は16種類の植物の根のエキスを含む薬で 謳い文句は「血をきれいにし、薔薇色の頬をつくる」だった。

日本では沖縄以外では非常に手に入りにくいが, 一部輸入食料品の店で購入できることがあるらしい。 機会があればお試しあれ。 なお現在では飲んでも頬は薔薇色にならないので安心である。 ちなみに左の写真は FANTA ROOTBEER。 「リゲインの味がする(中橋)」と言わしめた逸品である。

そして忘れてはいけないのが Dr Pepper。 Dr Pepperは1885年,アメリカはテキサス州のWacoという街で発明された。 発明したのは Charles Alderson という薬剤師である。 効能は「消化を助け、精力、活力をよみがえらせる」というもの。 赤まむしのようである。 当時 Charles は Morrison's Old Corner Drug Store というところで働いていた。 Dr Pepper という名前はそこのオーナーである Morrison が 若いころ初めて薬剤師として働いた薬局のオーナー Dr. Charles Pepper にちなんだものだという。 なんだかとてもややこしい。 ちなみに発売当初の "Dr.Pepper" にはピリオドがあったが, 1949年にロゴデザインを変更した際に取り除かれ, 現在の "Dr Pepper" になったという。

日本でも東京,沖縄なら簡単に手に入る。 その他の地域に関しては いっちゃんのホームページ の「地方発送のお部屋」から通信販売を申し込むといいだろう。


参考文献

コカ・コーラ帝国の興亡 / 100年の商魂と生き残り戦略
マーク・ペンダグラスト 著、古賀林 幸 訳
徳間書店
ISBN4-19-355169-5
原著: FOR GOD, COUNTRY AND COCA-COLA by Mark Pendergrast
コカ・コーラの歴史を詳しく(そして多分かなり公平に)描いた良書。 本連載はこの本の丸写しになるかもしれない。

http://www.DrPepper.com
Dr Pepperの公式サイト。Dr Pepper のスクリーンセーバーをダウンロードしよう。

http://aust.DrPepper.com
Dr Pepper Australiaの公式サイト。 Dr.のピリオドが抜けた理由については http://aust.drpepper.com/time/timem7.html を参照。

http://www.DrPepperMuseum.com
Waco,TX にある Dr Pepper Museum のサイト。 Dr Pepper のふるさとである Morrison's Old Cornet Drug Store の建物をそのまま使っているとか。 歴史についても詳しい。


[3月号表紙]
コーラ月報3月号

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