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特集 / 麗しのコーラフロート
中本 晋輔

コーラフロート。なんという甘美な響きであろう。説明するまでもなく、コーラの上にアイスクリームの乗ったアレである。コーラだけでも冷たいのに、アイスだけでも甘いのに、それをいっしょにしてしまうなんて!まさにコーラの贅沢の極みである。その上コーラとアイスクリームの相性がやたら良いのだからたまらない。どんな高価な食材をコーラに浮かべたところで、これ以上の至福を得ることは不可能だろう。

コーラフロートの起源については良くわからないが、一昔前には「クリームコーラ」と呼ばれていたことから、日本独自のクリームコーヒー〜クリームソーダのラインの延長に生まれたと言う説がある。しかし「浮かぶ」を意味するフロート(float)の名はアメリカからやってきたと言われている。確かに日本人にはなかなか思いつかない趣のある語感であるし、「Classic Cooking with Coca-Cola」という米国の料理本にもCola-Floatの名が登場している。

コーラフロートの魅力の一つに、食べ方の難しさがある。アイスが液体上に乗ったフロートは非常に不安定であり、そのエントロピーを維持したまま食べていくには細心の注意が必要となる。フロートを食べるには2つの道具、ストローとスプーンが必要である。どちらか一方でも欠けていれば、待っているのは大惨事である。スプーンが差してある場合はそれを引き抜かねばならないのだが、この時点で戦いはすでに始まっているといえる。下手に引き抜いたためにスプーンの先がアイスクリームに引っかかり、貴重なコーラをこぼしてしまうような事態だけは避けたいものだ。

図1 無事にスプーンを取り出せば、フロート攻略へ進む事ができる。ここで多くの人はアイスクリームから攻めるのだが、これは非常にリスクが高い。この時点ではアイスはまだ硬く、スプーンで押すとアイスが下がりコーラが溢れてしまうからだ(図1)。まず隙間からストローを差しこんでコーラを飲んで、全体の水位を安全なレベルまで下げておくことが重要である。ここで注意しなければならないのはコーラを飲みすぎないことである。フロートにおけるアイスクリームの軟化はコーラとアイスの熱の移動によって加速されるからだ。特に逆円錐型のグラスのものは同じ径のトールグラスの1/3の容量しかないので注意されたし。

ついにアイスを攻略するのだが、多くの場合この時点でもアイスはまだ硬い。ここは異性を口説くつもりで根気良く機が熟すのを待つようにしたい。急ぐとアイスは奥に入り込んでしまうし、逆に待ちすぎると溶けたアイスが炭酸と混ざってアワアワになって大変見苦しい。いかに食べ頃のタイミングを見つけるかがフロートの醍醐味といえるだろう。

手間がかからず、また飲み物とデザートの両方を兼ね備たフロートは喫茶店にとって集客効果の高い重要なメニューである。コーラフロートはフロートの中ではややマイナーだが、それでも置いている店は意外に多い。ここで個性的なコーラフロートが食べれる店を大阪を中心に紹介してみよう。評価はフロート(アイスクリーム部分)とコーラ、総合の3つについて5段階で行ってみた。(この取材は8-9月に主に行ったものなので、現在と状況が異なる場合があります)

□ コーラ・フロート
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店名 平野屋
価格 600円
フロート □□□□
コーラ □□□]
満足度 □□□□]

始めに紹介するのは大阪・恵比寿橋筋に店を構える老舗喫茶・平野屋のコーラフロート。屋上の小象の像がちょっと不気味だ。ちなみにこの喫茶店は内装がやたら立派で、一人で入ってフロートを食った私はちょっと落つけなかった。

流石老舗だけあって、ここのはまさに王道中の王道。たっぷりと注がれたコカ・コーラの上にまんまるのアイスクリームが乗ったその姿は、日本人のコーラフロートに対するステレオイメージの具現化と言ってもいいだろう。アイスクリームがよく冷えていてなかなか溶けず、じっくり駆け引きを楽しむことができる。価格はやや高めだが、決して損はしない逸品だ。


□ クリームコーラ
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店名 グルメ
価格 530円
フロート □□□□
コーラ □□
満足度 □□□□

サンドイッチ・レストラン「グルメ」のコーラフロートがこれ。ここの特徴は何と言ってもアイスクリームが贅沢にも2つ入っていることである。これは新機軸だ。

普段と同じようなつもりで食べているとアイスクリームが丸々1個残ってしまったりする。フロート2倍と言うのは数字以上のボリューム感であるようで、むしろパフェなんかに近いイメージだ。肝心のアイスクリームもなかなかの高レベルで決して飽きさせない。だたコーラのほうが一体何なのか判別できなかった(コカ・コーラではないと思うんだけどなぁ)。


□ コーラフロート
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店名 Sweden
価格 500円
フロート □□□□
コーラ □□
満足度 □□□

巨大ソフトクリームで有名な阪急3番街のソフトクリーム専門店「SWEDEN」のコーラフロート。当然フロートはソフトクリームタイプ。流石専門店だけあってフロートにコクがあり、かなり旨い。ただコーラの味が安っぽく、量自体も少ない(氷ばっかりだった)のは減点材料。ソフトクリーム好きの方にはお薦め。


□ コカ・コーラフロート
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店名 ブレーク
価格 280円
フロート □□□
コーラ □□]
満足度 □□□□

Whity梅田をはじめ結構いろんな処でみかけるセルフサービス型喫茶店「ブレーク」のコーラフロート。驚くべきはこの価格、280円!普通の喫茶店でコーラ単体を頼むより安いのだ。またちゃんとCoca-Colaをアピールしているのもなかなか嬉しい配慮だ。

この値段なら大した物は出てこないだろう、と高をくくっていたら、コーラが上から見えないほどのフロートのボリュームにいきなり圧倒されてしまった。ただやはりというべきか、ソフトクリームはやや水っぽく大味。また折角のコカ・コーラも味が薄くてマクドのコークっぽかったのも残念。でも量は多くの場合において質を凌駕するもの。このボリュームで300円以下、まさに庶民の味方である。


□ コーラ・フロート
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店名 Goody's
価格 280円
フロート □□]
コーラ □□□
満足度 □□□

JR西宮駅前「FRENTO」地下1Fにあるファーストフード「Goody's」のコーラフロート。こちらも価格は280円だが、こちらのフロートはアイスクリームタイプ。ここのフロートは必要以上に黄色く香料のたっぷり入った昔ながらのバニラアイスで、ハーゲンダッツに慣れた舌には却って新鮮に感じられた。下のコカ・コーラの量が結構多いのも嬉しい。容器が薄っぺらいプラスチック製だったのは少し寂しいが、この値段ではしかたがないだろう。


□ コーラフロート
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店名 cafe 北欧館
価格 680円
フロート □□□□□
コーラ □□□
満足度 □□□□]

明るい雰囲気が印象的だったナビオ阪急南端2Bの喫茶店「北欧館」のコーラフロートがこちら。この店はパフェ/サンデー系のボリュームが高めで、「コーヒーシェイク」を頼むとソフトクリームが半分以上を占めるコーヒーが出てきたりして結構楽しい。

ここのフロートは、アイスクリームとソフトクリームの上に生クリームが乗っかった超豪勢なもの。その上アクセントにペパーミントまで付いていて、なんだかケーキを食べているような気分だ。盛り付けも綺麗で、洗練されたコーラフロートに仕上がっている。味に関しても申し分なく、見た目以上のボリュームを楽しむ事ができる。難を言えばコーラの量が少なかった事ぐらい。お薦めの一品だ。


□ Cola Float
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店名 Hard Rock Cafe Osaka
価格 780円
フロート □□□□]
コーラ □□□□]
満足度 □□□□□

アメリカンフードの総本山・ご存知Hard Rock Cafeにもちゃんとコーラフロートはありました。ここのホームメイド・ブラウニーを食べたことのある人なら「さぞかし凄いボリュームのものに違いない」と思われるかもしれないが、意外と典型的なアイスクリーム・タイプであった。

ここのコーラフロートの特徴は何と言っても「アイスクリームが美味しい!」に尽きる。クリーミーでリッチな食感はハーゲンダッツを髣髴させる。コーラは当然コカ・コーラで、量が多いのも魅力的。値段は高いが、それに十分応えるほどのポテンシャルを備えたコーラ・フロートであった。

またHRCでは上記のオプションとして、プラス770円でロゴ入りHarricane Glass(またはピルスナーグラス)に入れてくれる。このお洒落なグラスは持ち帰ることができるので、ちょっとしたお土産には最適だ。彼女との楽しいひとときの思い出にプレゼントするのもいいかも。(持ち帰るといってもちゃんとレジで新品をくれるので、飲んだ後の物を持って帰らないように)。ハリケーングラスは背が高いため、付属のスプーンが完全に埋没していることがままある。まあこの辺はご愛嬌、である。


□ Cola Float
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店名 Hard Rock Cafe Atlanta
価格 $3.99 U.S.
フロート □□□□
コーラ □□□□]
満足度 □□□□

アメリカのハードロックカフェにもコーラフロートはあった。こちらは$3.99で、量もほとんど同じとコストパフォーマンスがなかなか高い。これに限らずアメリカのHRCは値段が結構リーズナブルで、普通のレストランで食事をしているような感覚だった。

コカ・コーラの本拠地アトランタHRCのコーラは意外にもPEPSI。当然このフロートも同様だった。アイスクリームが日本のものに比べてかなり甘くて重くて、そのためかコーラが圧倒されている。ペプシを使ったフロートは珍しいだけに、ペプシらしさを実感できなかったのは残念。良くも悪くもダイナミックで非常にアメリカらしいコーラフロートだった。


□ Coke Float
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店名 Haagen-Datz
(Atlanta, Lenox Square)
価格 $4.46 U.S.
フロート □□□□□
コーラ □□□]
満足度 □□□

さらにダイナミックなのがレノックス・スクエア2Fのハーゲンダッツだ。名前からもわかるように、コカ・コーラとハーゲンダッツというまさに王道の組み合わせ。ポスターの写真もいかにも美味しそうである。

このフロートは注文するとその場で作ってくれるので、制作過程が見れてなかなか興味深い。まず500mlくらいのコップにコーラを1/4ほどいれて、そこに鬼のようにアイスクリームをほうりこむ。その数普通のアイスクリーム約5個分!その隙間にコーラを注いで出来あがりなのだが、すでにアイスが底までぎっしり詰まっているので浮いて(Float)さえいないのだ。こんなに食えるか!

恐るべきことに、私が注文して大苦戦を強いられたこのフロートはスモールサイズでしかない。さらに40セント払えばさらに大きいサイズが注文できるのである。一体どれくらいのボリュームなのか見当もつかない。やはりこの国の食文化は何かが絶対おかしい。


★ ★ ★

私がサボっているあいだに葉もすっかり色づき、フロートにはやや寒い季節になってしまった(反省)。しかし冬にアイスが美味しいのと同様、冬のコーラフロートも趣があっていいものだ。喫茶店ではいつもブラックと決め込んでいる貴方も、一度コーラフロートを頼んでみてほしい。きっとコーラの意外な一面に出会える事だろう。

最後にこの場をかりて、取材協力してくれた佐藤 "J" 舞(仮)と二宮久美子(仮)両女史に御礼申し上げる。さんきゅー。


[四季報 1999年10月号] [コーラ白書] [HELP] - [English Top]
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