コーラ白書
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コーラ津々浦々「タイ・バンコク編」

中本 晋輔

2月中旬の修士発表がおわると、理系の修士学生にはしばしの自由が与えられる。それは4月に就職を控えたものにとっては学生生活最後の休みであり、「卒業旅行」という言葉が頻繁に聞かれるのもこの頃である。

我々の研究室でも卒業するメンバーを中心に卒業旅行が計画された。行き先は微笑みの国・タイ。バンコクには以前うちの研究室で研究していた友人がおり、せっかくだから彼女に会いに行こうという話になったのである。それはつまり現地でガイドを雇わなくてもよい、ということでもある。

嵐のような修士発表の終わった2月末、我々は学生最後の旅行を満喫すべく関空へと集結した。というわけで今回の津々浦々はタイ・バンコク編である。

暑いんですけど

バンコクは、暑い。空港の建物を出たとたん、2月の朝6時だというのに湿気た生ぬるい空気が肌にまとわりついてくる。有名なバンコクのスモッグだろうか、遠くのビルが霞んで見える。我々は旅行会社の用意してくれたバンに乗り、とりあえずホテルへと向かった。

今回のメンバーは4人。何故かリーダー扱いされている私のほかに佐藤、中西、土肥(全て仮名)という構成である。前二人はは海外旅行の経験が豊富だし、土肥(仮名)は英語が堪能なのでなかなか心強い(ちなみに彼はコーラ四季報1月号でモデルとして登場している)。ただみんな私の趣味についてはあまり理解を示してくれず、コーラ探索に関しては厳しい旅になりそうだ。

悪名高きバンコクの渋滞に巻き込まれることなく、バンは快調に早朝のハイウェイを走る。ハイウェイからの景色は看板がタイ語なのを除いて日本のそれとあまり変わらないが、しばらくして車が高速を降りると入ると町の印象は一変した。埃っぽい町並みには人が溢れ、やたらと細く入り組んだ道では露天商が果物や串焼きにした肉を並べている。ここまで来てやっとタイに来た実感が湧いた。

タダガイドの代償

ホテルの部屋のテレビで「オカマショー」などを見て時間を潰していると、今回のホストであるソビロ(仮名)が迎えに来てくれた。彼女は服装からもわかるように敬虔なイスラム教徒で、我々の研究室にいた時期も祈りやラマダン(断食)などを欠かさず続けた強者だ(お昼のお祈りは「方角的に良い」との理由で電顕部屋で行われた)。

私はよく「実はハゲなんちゃう?」などとからかっては蹴られたものだが、後日彼女はタイでも同じような扱いを受けていることが判明。この手の笑いは万国共通なのかもしれない。

昨年できたばかりというモノレールに乗って彼女の所属するマヒドン大学へと向かう。ちょっと緊張気味の私。というのも、事前にソビロ(仮名)の研究室に遊びに行くと連絡を入れたところ、どこでどうなったのか大学で1時間のセミナーをすることになってしまったのだ。修士の学生によるセミナー?何それ?かなり困惑してしまったが、相手はかなり本気の様子。しかたないのでソビロ(仮名)5日間のレンタル料と割り切ることにする。

発表に関しては単語"slope"をど忘れするなどアクシデントもあったが、半分以上が同じ研究室の学生(つまりサクラだ)だったこともありつつがなく終了。公演時間1時間のところ、質問を入れても40分ぐらいで終わってしまった。

ガラス瓶復活?

その後マヒドン大学の教授といっしょに食事へ。連れていかれたのはバンコクで最も高いビル「バイヨーク」の最上階展望レストランである。うおお、絶景!なんか招待公演者なみの待遇じゃないッスか。ああ、あんなしょぼい発表でごめんよー。

タイ料理を中心に各国の料理が並んだビュッフェは素晴らしかった。貧乏人根性でやたら炭水化物系のものばかり取ってしまう私。腹いっぱいになりながらもアイスクリームを山ほど取ってきて食っていると、話のはずみで教官の一人がこうのたまった。

「そういえばコカ・コーラのガラス瓶がコンビニで売り出されましたね」

む、むむ。それは聞き捨てならないぞ。その一言で招待公演者気分はすっかり抜けてしまい、私はいつものコーラ馬鹿へと戻ってしまった。世界的に缶への移行が進むなかであえてボトルを、それをコンビニで復活させるなんて面白いじゃないか。

先生方に礼を言って、今度は知り合いの先生のいるチュラロンコン大学へと向かう。マヒドン大からバス停まで歩いていくと、セブンイレブンを発見。ここならさっきのガラス瓶があるかもしれない。普段なら小躍りしながら突撃する私だが、今回はなんせ団体行動だ。そこでリーダーである私は強権を発動してみんなにこう提案した。

「なあ・・・、のど渇けへん?」

30度を越すバンコクの気候も味方して、わたしの提案はすんなりと受け入れられた。

入ってみると、飲料棚の前にボトル用のラックが設置されているではないか。入り口付近にもボトルが並んでおり、コンビニでも主力扱いのようだ。飲む用と保存用に2本即購入。

新製品はコカ・コーラ、スプライト、ファンタの250mlボトルで、全てワンウェイタイプ。コカ・コーラはもちろんホブルスカートボトルで、エンボスされたロゴがいい感じだ。王冠には大きく「8」と入っているが、これは一本8バーツ(約24円)のため。普通の缶が12バーツ(36円)であるのを考えると、かなりの割安感である。ガラス効果も手伝って、とても美味しかった。

この後バンコクの街を歩いていると、「8」と書かれた王冠がそこらじゅうに落ちていた。バンコクの皆さん、ちゃんとゴミはくずかごに捨てましょう!

その後チュラ大で知り合いの先生と会い、ちゃっかり夕食をおごってもらった我々は上機嫌でホテルへと引き上げた。寝る前財布を見ると、今日一日で200円しか使っていない事が判明。まるでたかりのような一日であった。

黄金寺院とペプシコーラ

翌日はソビロ(仮名)の案内でバンコクの寺社仏閣めぐりへと赴いた。ご存知の通り、タイの寺はやたら派手である。前面が金ぴかだったり、ガラスやビーズがぎっしり埋め込まれていたりとまさに豪華絢爛。そのうえご本尊がエメラルドでできていたりする日には、もう謝るしかない(誰に?)。

あんまり手が込んでるものだからメンテナンスも大変で、大きな寺院になるといつでもどこかで補修工事をやっている。修理はもちろん全て手作業で、職人さんが細かい道具を手に像や欄干と向き合っている。

さぞ神経を削る作業なのだろうと覗き込んでみると、なぜか職人さんはペプシ飲みながら片手で金の像を修理しているではないか。それはちょっと余裕見せ過ぎでは?それともこいつは片手で十分仕事ができるぐらいの熟練工なのか?そもそもこれは仏教的にはOKなのか?

などとバカな事を考えていたら、置いて行かれてしまった。

チャオプラヤ水上決戦

ひととおりポー(寺院)見物を終えた後、チャオプラヤ川のほとりの食堂で昼食をとることに。唯一クーラーのある部屋に陣取ってメニューをみるもさっぱり分からず、とりあえずソビロ(仮名)に希望だけ言って任せる。

私はタイ料理がかなり好きなのだが、中でも現地の屋台や食堂で出されるものは素晴らしい。香辛料をたっぷり効かせた海老や鶏肉、肉団子のスープ、トムヤムなどが卓に並べられ各自ご飯と一緒に食べるのだが、美味しいのでご飯がどんどん進む。みな腹いっぱい食べて清算してみると一人300円弱。やはりパラダイスかも。

腹ごなしにちょっとその辺を散策する。食堂のとなりは渡し舟の桟橋になっていて、何度もペンキを塗りなおされたような船が対岸との間をゆっくりと行き来している。のどかな風景だ。なんだか時間がゆっくり流れているようにすら感じる。

・・などと一人なごんでいると、川上のほうから轟音を響かせながら一艘の船が川面を驀進してくる。屋根のある細長い船体と後部のむき出しの船外エンジン。チャオプラヤ名物・ロングテイルボートである。

この船はスピードがウリでがんがん飛ばすもんだから、水飛沫がすごい。そのため船の側面には飛沫よけにビニールシートが貼られているのだが、この船のシートには青い「PEPSI」のロゴが一面に入っていた。すげー。とりあえず「驀進ペプシ号」と命名。

こんな所まで広告を出すなんてさすがペプシ、などと感心していると、今度は川下からもう一隻がさらにでかい轟音と共にぶっ飛んできた。そしてその側面には「Coca-Cola」のロゴが!凄い勢いですれ違う青と赤の長尾船。コークとペプシの対決はこんなところでも展開されているのか。てゆうか雰囲気ぶちこわしなんですけど。

ぐにゃぐにゃコーラの謎

このあとの2日もソビロの案内で、アユタヤで寺回りをしたり水上マーケットでラーメン食ったりバナナボートに乗ったりとひたすら遊び倒した。コーラに関するものはあまりなかったので今回は省略するが、ソビロ(仮名)のプランのおかげでバンコクを存分に堪能する事ができた。ありがとう、ソビロ(仮名)!

そして最終日。パンティト・プラザで土産を買いあさった我々は、旅の最後を締めくくるべくウィークエンド・マーケットへと向かった。これはチャトゥチャック公園で土日のみに開催され、「手に入らないものはない」とまで言われる巨大マーケットだ。

つくりは「屋根つきフリーマーケット」といった風情なのだが、とにかくデカい。四畳半ほどの店が数知れず軒をつらね、迷路のように入り組んだ通路には買い物客が溢れている。ガイドブックには「全部見るには半日かかる」とかいてあるが、それがウソでないのは明らかだ。

店頭の品物も洗剤などの日用雑貨からタイシルクやアンティーク、銀細工までさまざま。楽しく店先を覗きながら歩いていると、やっぱりありましたよコカ・コーラグッズ専門店が。店内にはライセンスグッズが所狭しと並べられ、店全体が赤く見える。と、その店頭で面白いものを見つけた。

それはコカ・コーラのホブル瓶をかなりダイナミックに変形させたオブジェ(?)だった。ボトルを加熱して変形させたものはそれほど珍しくはないのだが、本品にはなんとコーラが中に入っているではないか。中身入りの瓶は加熱すれば当然爆発するし、加工した後コーラを入れたとすると純製の王冠は妙だ。むー。製法をいろいろ考えたのだが、よくわからない。かなり興味を引かれたもののあまりにも壊れやすそうなので購入は断念した。

ビニール袋入りコーク

巨大マーケットの中を小一時間歩いていると、みんながどんどん無口になってきた。長旅による不仲ではない。暑いのだ!先も述べたようにこの市場には屋根があり、風が全く入らない。その上この人ごみである。暑くないわけがない。だんだんグロッキーになってくるひ弱な日本人を見かねてか、いっしょに来ていたメイちゃん(仮名)が声をかけてくれた。

「何か飲み物いるか?」

うむ。このままでは死んでしまう。とりあえずコーラを買ってきてくれたまえ。しばらくするとメイちゃん(仮名)が手に何か引っ掛けて帰ってきた。

「おー、コーラ」

「おー」というのは彼女がやたら連発する言葉で特に意味はないのだが、その手には何か妙なものが握られていた。それは金魚すくいでよく見るようなひも付きのビニール袋で、中にコーラと思しき黒い液体と氷が入っている。ここにストローをさして飲むのがタイ・スタイルということらしい。確かに瓶のデポジットなどを考えるとこの方が都合が良いのだろうが、何か凄く爽やかじゃないぞ。

喉が渇いていたので一気に飲んでしまったのち、氷がめいっぱい入っていたことに気付く。タイでは氷にする水は煮沸していない事が多く、出来るだけ口にしないようにと言われていたのだ。結局は大丈夫だったのだけど、その後3時間ぐらいはドキドキだった。

「目を覚ませ!」

このマーケットはいくつかのセクションに分かれていて、それぞれ扱っているものが異なる。タイシルクや銀細工のセクションを抜けていくとアンティークを扱う一角に行き当たる。前のビクトリアの旅からアンティークづいている(→四季報4月号・津々浦々)私にとってはかなり気になるエリアだ。家具や装飾品がメインだが木の質感をそのまま使った素朴なものが多く、カナダのものとはずいぶん雰囲気が違う。

と、ある店のショーウィンドーの中に昔のペプシの瓶があるではないか!それもダブルドットのロゴに赤・青・白の配色という、60年代製の人気の高いタイプである。値段は800バーツ(約2400円)とだいたい相場くらいだが、交渉次第で値段は下がる。買おうかどうか悩んでいると、横にいた中西(仮名)がこうのたまった。

「空瓶に800? 目を覚ませ!」

はうっ!きびしいツッコミだ。反論しようとしたが、おそらく何を言っても通じないだろうと思うと何も言えなくなる。黙っていると今度は土肥(仮名)が「その辺で拾ってきた奴ちゃうか」などと追い討ちをかける発言。孤立無援の中本、ピーンチ!強引に行こうかとも思ったんだけど、値切って時間をかけるとみんなの機嫌がさらに悪くなってしまう(暑さのためみんな既に機嫌が悪かったのだ)。しかたなく今回は見送ることにした。しくしく。

だた黙って去るのは悔しかったので、その店にあったコカ・コーラのキーホルダーを50バーツ(150円)で購入。3センチくらいの金属製のボトルで、大きさの割に結構重い。真鍮の金色とロゴの赤とがいかにもタイらしい。思った以上に私好みのアイテムだったので、ちょっと気が晴れた。

バンコクの日は暮れて

この後は特にアクシデントもなくKFCで夕食をとった後ホテルからバスで空港へ向かい、23時58分のタイ航空58便にて帰路へついた。ソビロ(仮名)らと別れるときはさすがに感傷的になったが、それだけ旅が充実していたと言う事だろう。

今回最終的にトランクに入ったコーラは記念缶を含め全部で7本。北米旅行の半分以下であった。これは別に私の行動が制限されたからではなく、タイにローカルコーラが存在しないためだ。日本はもちろん中国や韓国でも国産コーラがある程度健闘しているのだが、ここはコカ・コーラとペプシの寡占市場になってしまっている。タイの国内メーカーには奮起を期待したいところだ。

今回は一般人(註)と一緒だったおかげで、久々に観光旅行らしい観光旅行をすることができた。またソビロ(仮名)や大学の方々の案内で旅がとてもスムーズに運び、今まで知らなかったタイの様々な面を満喫できたのも大きい。この場を借りて旅行のメンバーとお世話になったタイの方々に感謝したい。

でも今度来るときは、心ゆくまでペプシのボトルを値切ってみたいなぁ、とも思った。

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