コーラ白書
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今月の一冊「The COLA WARS」

中本 晋輔

コーラの歴史については名著「For God, Century and Coca-Cola」をはじめ様々な研究書が出版されてきた。しかしそれらの多くはCoca-Colaの視点に立ったものであり、PEPSIの歴史にスポットを当てたものは決して多くない。特にPEPSIがCokeを猛追した大戦直後から1980年代までの期間については系統的な資料に乏しく、"知将" A. N. SteeleやD. M. Kendallら当時のカリスマ的リーダーの活躍について知る術はほとんどなかった (註1)。私が海外のオークションで何気なく落札したこの本は、その「ミッシングリンク」をつなぎ合わせる上で極めて貴重な資料であった。

「The COLA WARS」というかなりベタなネーミングの本書は2つの章に分かれている。第一章では大戦までのコーラ市場の発展の軌跡を、また2章では60-70年代の情勢を、タイトルどおり「Coke vs PEPSI」の視点で描いている。総頁数390のハードカバーで、上記の「For God 〜」に迫るボリュームだ。

コーラの歴史書にはスマートなドラマ性を持つものが多いが、本書にはそんな派手さはない。この中では二人の巨人の熾烈な争いが細部まで淡々と述べられているのみである。だから読んでいる方としては非常にタルいのだが、その反面他では省略されているような情報を知ることができる。たとえばPEPSI社長Guthの失脚(1937年)の顛末なんていうマニアックな所がきっちりカバーされている。

中でも特に興味深いのは70年代の政治との絡みの部分。Coke, PEPSI両陣営が米大統領と関わっていたことは知っていたが、本書を読むとその影響力の大きさに驚かされる。例えばニクソン時代にKendallが大統領に接近しPEPSIのソビエト進出を成功させた話や、親Coca-Cola派のジミー・カーターがCoca-Colaのエジプト進出と引き替えに同社の水処理技術を中東外交に利用した逸話など、ムネオハウスなんて目じゃないようなものすごい官民癒着(公私混同?) の様子がひたすら描かれている。なーんだ、日本だけじゃないじゃん。

本書はプロジェクトXのような完結した企業のドラマを描いたものではない。描かれているのはCoca-ColaとPEPSIのいつ終わるともしれない泥仕合の様子であり、「コーラ戦争」というタイトルはそれに相応しく思える。重くて持ちにくい上に読んでいて非常に疲れるのだが、おそらくこれがCokeとPEPSIの真実の姿なんだろうなぁと妙に納得させられた一冊であった。

THE COLA WARS -The story of the global corporate battle between the Coca-Cola Company and PepsiCo, Inc.
J. C. Louis and Harvey Yazijian Everest House, 1980 ISBN:0-89696-052-8


(註1) 田口憲一著「コカ・コーラの秘密」で若干触れられている