コーラを撮る マレーシア PEPSI Xを求めて(後編)

二つの塔

夕食の為バスがKLの市内に入ったのは、5時をすでに回った頃だった。予想外に楽しめたKLツアーに気をよくしつつも、私の心は晴れなかった。

そう、肝心のPEPSI Xが見つからないのだ。

やきもきしていると、夕食には少し時間があるということで、KLCC(註3)で1時間ほど自由時間が与えられた。これはコーラの神様がくれたチャンスに違いない。

この世界で一番高いビルの下数階はショッピングモールになっていて、その一部には伊勢丹が入っている。百貨店あるところ食品コーナーあり。ほかの店には目もくれず、エスカレーターを駆け上り最上階を目指す。

はたしてそこには、日本のスーパーの風景があった。伊勢丹の食料品店だけあって、レイアウトも品揃えも日本で見慣れたものばかりなのだ。他のメンバーたちがインスタントラーメンのコーナーの前で動かなくなるのを尻目に、私は一直線に飲料コーナーに向かった。

色とりどりの缶が整然と並ぶ飲料棚のなかに、しかし奴の姿はなかった。この規模のスーパーになければ、入手は一気に困難になることを私は経験で知っている。動揺を隠せないままスキャンするように棚を何度も見回す。と、あることに気づいた。

確かに棚に並ぶ清涼飲料の種類は多いが、メーカーが極端に限られているのだ。コカ・コーラ製品は何故かタイのホブルボトルまで置いてあるほど充実しているのに、PEPSIの名の付くものは全く見当たらない。

伊勢丹!サプライヤー選んでんじゃねぇよ!

そうと分かればここに用はない。仕事では見せない真剣なまなざしでラーメンを選ぶメンバーを置いて、私は走り出した。残された時間は1時間を切っている。

スーパーは地下にあり

KLCCのモールから飛び出した私は、その周りをぐるっと回ってみた。スーパーか、せめてコンビニさえあれば。しかしKLCCはクアラルンプール市内のどまんなか。目に入るのは高級ホテルやオフィスビルばかりで、食品を扱っていそうな店は見当たらない。

どこかにコーラを売っている場所はないものか。思わず天を仰ぐと、世界最高のツインタワーがアイゼンガルドの塔さながらに聳えていた。脳内BGMには一休さんよろしく木魚の音がずっと響いている。

ふと、フィラデルフィアのフードコートを思い出した。多くがディスペンサーを導入しているなかで、いくつかの店はガラスパネルの冷蔵庫に缶を一杯に詰めて売っていたっけ。マレーシアのフードコートに行った事はないが、コーラを売っている可能性はありそうだ。

くるりと踵を返し、こんどは下向きのエスカレーターを駆け下りる。アイスクリームやスナックのスタンドを抜けていくと、不意に「Cold Storage」という洒落たネオン看板に行き当たった。中を覗くと、食べ物の並んだスタンドらしきものが並んでいる。しかし妙な名前のフードコートだ。

嬉しい誤算だった。奥には伊勢丹の2倍はあろうかという、広大なスーパーマーケットが広がっていたのだ。さっきフードコートに見えたのは、そのスーパーの食品コーナーの一部だったのだ。伊勢丹とは違って、マレーシアのごく一般的な食品や日用品を集めた、ごく普通のスーパーである。

期待と不安を胸に、飲料のコーナーに赴く。伊勢丹の数倍はあろうかという広大な飲料棚の真中に、輝くXの文字が並んでいた。(Project X風)

PEPSI X Energy Cola.黒と青の不思議なグラデーションに、インパクトのあるXのタイポグラフィ。コカ・コーラにはない、禍々しささえ感じさせる訴求力の高いパッケージだ。ついに見つけた。

普通エナジードリンクと言えば250ml程度が限界だが、こちらはPEPSIと同じ350ml缶。その上驚いたことに、500mlのPETボトルまでラインナップしている。となると、やはりエナジードリンク「風」のコーラという位置付けなのだろうか。どの辺りにポジショニングしたいのか、全くもって分からない。

またその隣には、アメリカで昨年夏に生産中止になった「PEPSI Blue」が、本国とは全く違うパッケージで並んでいた。肩に「New」の表記があるところをみると、こちらでは進化を続けているようだ。

ここではまた、日本で姿を消したRoyal Crown Colaが気を吐いていた。米国のものよりどぎつい原色の青色のパッケージには、どこかノスタルジーすら感じてしまう。先のPEPSI Blueといえ、さながらパラレルワールドのようなラインナップである。

リカーコーナーでは、少数であるがアルコール系のコーラ飲料をみつけた。それもJIM BEAMやJonny Walker といった有名ブランドのウィスキーとの組み合わせで、オーストラリアのプレミックスに近い[四季報2003夏号]。オリジナルのグラフィックを使ったなかなか見栄えのするグラフィックだが、つくりが甘いのか後でかばんの中で炸裂し甚大な被害を及ぼしてくれたことを付け加えておく。

買い物カゴの中が、みるみる見知らぬコーラで溢れてゆく。作りの悪いプラスチックの柄が、重みに耐えかねてぎいぎいと悲鳴をあげている。日本では味わえぬ、至福の瞬間である。

この一日で入手したコーラは以下のとおり。なかなかの収穫であった。

お目当てのPEPSI Xを手に入れた私は、憑き物が落ちたように落ち着きを取り戻しトレーニングに専念したという噂である。

 


 

美しい熱帯の国・マレーシア。ここではペプシ初のエナジーコーラは確かに売られていた。しかしこのコーラのポジショニングや、何故マレーシアでテスト販売なのかという理由は結局分からないままだ。

個人的な推測だが、ペプシはエナジードリンク市場にコーラとしての参入を画策しているのではなく、コーラとエナジードリンクの中間的な新しい市場を開拓しようとしているのではないだろうか。PEPSI Xはエナジードリンクとしては味が薄いし、350mlという量も多過ぎる。またエナジードリンク市場を狙うなら、その市場自体が成熟していない東南アジアでテストする必然性がない。

そしてなによりこのPEPSI X、コーラとしてもエナジードリンクとしても中途半端で非常に微妙な味なのだ。初めて飲む分には良いだろうが、消費者がリピートするかどうかとなるとちょっと疑問かもしれない。

これを踏み台にPEPSIはもっと大きな何かを狙っている。むしろそんな想像をかき立てられるコーラであった。

 


 

おまけ:クアラルンプールで見かけたモノレールの駅。コーラの広告のあるの駅は珍しくないが、ここは駅丸ごとコカ・コーラに占領されていた。


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