今月の課題図書、もとい今月の一冊は、"Our 1994 Annual Report"。米コカ・コーラ社が株主向けに発行している事業報告書である。上質紙、4色刷りフルカラー(一部2色)で70ページに及ぶ豪華な装丁で、恐らくこれ1冊だけでもコカ・コーラが数本は飲めるだけの費用が投入されている。儲かってまんな。

レポートはCEOのロバート・ゴズイエタ自身による概説から始まる。内容は広範にわたるが、要約すると、

  • 海外において11%の伸びを示した
  • 株価の上昇と配当により、株主に17%もの利回りをもたらした
  • キャッシュ・フローを改善したこと
  • ボトラーへの経営支援を強化したこと

などが強調されている(と思う)。特にこの年の成果としては、海外戦略の成功が繰り返し述べられており、アメリカ人独特の自慢話にやや食傷・・・はともかくとして、次の部分などは、コカ・コーラらしさが良く現れており、印象深い。

不動産を売るための3つの鍵が立地と立地と立地であるとすれば、消費者製品を売るための3つの鍵は差別化と差別化と差別化です。ここ数年において率直に言えるのは、我々が勝ち取ったマーケティングの成功は全て、我々のブランドと、雑貨店の棚に並んでいる他社製品とを、はっきりと区別できるように全力を尽くしてきた結果であるということです。

そして、その実例として、

特筆すべき動きは、有名な登録商標であるコンツール・ボトルが、全世界でコカ・コーラのパッケージとして広がりつつあるということです。これは恐らく間違いなく、ソフト・ドリンク業界がこれまで長く経験した中で、唯一、かつ最も効率的な差別化の手段といえるでしょう。

ちなみに、これを最も象徴的に表しているのが、表紙写真の看板だ。テキサス郊外に建てられているというこの看板のメッセージは、"Quick. Name a soft drink."

「即答、ソフトドリンクの名前をひとつ挙げよ」とでもなるだろうか。この看板にはコカ・コーラの文字はひとつもない。けれども、見慣れたコンツール・ボトルのシルエットは、見るものの胸中にその名を呼び起こさせる。まさに王者の風格だ。

日本での状況についても説明がある。日本はオーストラリア、中国、韓国、フィリピンなどと共に太平洋グループ(Pacific Group)に所属しており、1994年時点ではグループ内1位、38%の売り上げを挙げている(ケース数ベース)。コンツール・ボトルの拡販に改めて取り組んだ結果、コカ・コーラの売り上げは16%増。また、今は亡き清流茶房の好調についても伝えている。

なお、対前年比での増減で見ると、日本がケース数で8%・ガロン数で9% の売り上げ増に対し、中国がケース数で36%・ガロン数では50%と、断トツの伸びを示している。中国のソフトドリンク市場におけるシェアは19%で、「国際的な競合他社」の3倍に達したという。

ちなみに2002年度以降のAnnual Reportは、米コカ・コーラ社のwebサイトからダウンロードすることができる。ざっと目を通してみたところ、こちらも興味深い。

資料によれば、2003年度のコカ・コーラ販売地域における人口1人あたりのコカ・コーラ消費量は平均で74(単位は不明だが、恐らく1杯=8oz、約250ml)、アジア太平洋地域平均では25に対し、北アメリカでは414。つまり、どう考えても1人1日1杯以上のコカ・コーラを飲んでいることになる。もちろんコカ・コーラを飲まないという人も大勢いるので・・・、と想像すると、かなり怖い。なお、日本での年間消費量は200程度のようである。

中国では16%の売り上げ増と、相変わらずの好調(これも怖い)。また、タイでは15oz(約500ml)のガラスボトルが発売され、人気となっているらしい。また、350ml缶、400mlボトル缶、500mlペットなど、想定される需要に応じて様々なパッケージを用意している日本の戦略は本国に高く評価されており、米国内でも同様の手法が試みられるという。

豊富な図表を眺めているだけでも楽しい(かもしれない)ので、一度ご覧になってみてはいかがだろうか。


[コーラ白書] [HELP] - [English Top]

Copyright (C) 1997-2014 Shinsuke Nakamoto, Ichiro Nakahashi.
当ウェブサイトに記載されている会社名・商品名などは、各社の登録商標、もしくは商標です