コーラ津々浦々 釜山日帰り突撃取材編

なかはしいちろう

いつものプロローグ

ある朝,コーラ白書代表の中本にメールを出したら,しばらくして電話が鳴った。基本的に中本と電話で連絡を取り合うことは希なので,これは何かあるな,と直感した。

「今度の津々浦々やけど,韓国行かへんか? 日帰りで。」

韓国といえば,815コーラ以来我々を惹きつけて止まない,いわば調査の空白地帯である。その提案はなかなか魅力的なものに思えたのだが,私はそこに僅かな違和感を覚えざるを得なかった。...日帰り?

バカいってんじゃねえよ!

しかしまあ,いろいろ予定を勘案してみると,確かに中本と私の都合が一致するのは丸1日くらいしかないようだ。それに「韓国日帰り」という言葉から滲む通っぽい響きもやや魅力的である。そんなわけで,なんか状況に流されてるかな〜なんて思いながらも

「あー,まー,行っちゃってみようか。」

と,同意したのだった。

韓国日帰りの理論と実際

関西空港からソウル,仁川空港までの所要時間は2時間弱。1日8往復程度が飛んでいるので,日帰りは理論的には十分可能である。実際そのような体験談を聞いたこともあるし,webを検索しても幾つかのサイトがヒットする。

ところが,詳しく調べてみるとこれが意外と難しい。いわゆる格安航空券(ツアーチケット)だと,2泊3日,あるいは3泊4日より長い旅程のチケットしか販売されていないようなのである。もちろん正規の運賃であれば問題ないが,こちらは金額が論外だ。

と,そこで思いだしたのが,博多=釜山を結ぶ高速船ビートルである。博多を朝一番で発ち,最終便で帰ってくれば,釜山に正味3時間ほど滞在できる。運賃も安いし(平日割引を適用し,往復で¥20,000),船で海外へ,というシチュエーションも悪くない。でもなー,3時間ってどうよ? 大阪=博多の運賃を除いたとしても,1時間あたり6,666.6666...円だぜ。

ところが,いちおう中本に提案してみたところ,

当日有給&前日博多出張をGET!

などと抜かしおる。それでは後に引けないではないか。

ちなみに釜山へは,大阪,下関,博多などからフェリーで行くこともできる。時間に余裕のある方はこちらを利用してみたらどうだろうか。きっと思い出深い旅になるだろう。

節約愚連隊,博多へ

ちなみに私事で恐縮だが,その時なかはしは非常に貧乏だったのである(今もそうだけど)。そこで博多までの旅費を削減することを考えた。そして貧乏旅行の友といえば,アレ。そう,青春18きっぷ。大阪=博多,¥2,300の旅である。

当日の旅程を簡単に紹介しておこう。乗り換え,もしくは途中下車した駅だけを挙げた。

大阪天満宮 6:39 → 尼崎 6:56 → 姫路 7:55 → 岡山 9:26 → 福山 10:17 → 宮島口 12:21着 (宮島観光) 15:52発 → 下関 19:27 → 博多 21:22着

宮島の風景以前から行ってみたかった宮島・ 厳島神社にも寄ることができて,なかなかナイスな旅程である。当日は生憎の天気だったが,雨に煙る大鳥居というのも乙なものだ。ちなみに宮島口=宮島港間の連絡船にも青春18きっぷが使える。JR西日本に申し訳ないような節約ぶりだが,帰りは新幹線だったので許して。

その夜は博多駅前のネットカフェで過ごした(STBは守備範囲外なので)。なんとなく新着メールを覗いてみると,「ペプシコがダイエットをフラッグシップに」という意外なニュース。

朝からの雨は止んだが,明日は時化そうな予感だ。

海飛ぶカブトムシ

ビートル外観
UMITOBUKABUTOMUSHI
ビートル船内

「UMITOBUKABUTOMUSHI」である。一体何のことかというと,実は高速船ビートルの愛称(?)なのだ。ビートルは時約80km/hで航行する水中翼船であり,ずんぐりとした形状も確かにカブトムシ(beetle)に似ている(但しメス)。

朝7時。そのカブトムシは博多港の国際ターミナルで静かに出航を待っているはずだ。まだ肌寒い博多駅前で,ネクタイなしのスーツ姿で登場した中本と合流する。コートを持っていないようだが,大丈夫だろうか。

バスが国際ターミナルに着くと,結構な人がすでに搭乗手続き受付に行列していた。ほとんどはツアー客のようだ。行列の中で,新PEPSI Twistの印象などについて議論を交わす。窓口では酔い止めを渡され,海上の状況によっては引き返す可能性があることを告げられた。やはり中本との旅は波乱含みである。

それから各々1万円程を両替し(10万ウォン弱ほどになるので,とても金持ちになった気分),早速出国審査へと向かった。航空機の場合と比べて圧倒的にシンプルな手荷物検査,まったりモードの入管職員,生活感溢れる免税店などを経て,いよいよビートルに乗船。一見旅客機風の内装だが,頭上の網棚(フタがない),物品販売のアナウンスなどが特急列車のテイストを醸し出している。

なお余談であるが,ビートルはJR九州が運行している。

釜山は揺れているか?

釜山の街並み
船窓から眺めた釜山の街並み

果たして対馬海峡は荒れ狂っていた。原理的に揺れの少ない水中翼船とは言え,その能力にも限界がある。ビートルは立っているのが難しいくらいに揺れた。窓口で貰った酔い止めを,ターミナルで買ったTwist(旧バージョン)で流し込む。

しかしながら,浅い眠りから覚めて釜山の町が見えてきた頃には揺れも収まり,穏やかな春の陽射しが海沿いの町並みを柔らかく包んでいたのだった。岸壁には多数の貨物船が停泊し,ここからはカラフルな米粒のように見えるコンテナをクレーンで積み下ろししている。活気ある光景だ。

郵便ポスト日帰りという点を入国審査でやや突っ込まれたりしながらも上陸した韓国の地の第一印象は「キムチの香り」だった。これは偏見でも妄言でもなく,身体的な経験として得た事実である(日本を訪れた外国人は時に「醤油臭い」という感想を持つという)。

全体の光景としては日本にいる時とほとんど違和感がない。建物や看板のデザインが似ているからだろう。やはりここは近くて近い隣国なのだと思い,素朴な親愛の情が湧いてくる。

まだ地面が揺れているかのような感覚を覚えながら釜山港を後にし,市街地を目指す。幸い気温も高く,中本も凍え死なずに済みそうだ。

今日はどんなコーラに出会えるだろうか。タイムリミットは3時間。

ロシア語看板
釜山は国際色豊かな港町だ

ジャガルチ,国際市場へ

ジャガルチ市場と中本そんなに遠出はできないので,ジャガルチ市場,国際市場辺りを徘徊してみることにした。港に近い中央洞駅から地下鉄に乗り2駅,5分ほどの距離だ。

地下鉄の切符は自動販売機で売られているが,日本のものとは随分勝手が違う。周囲の人を観察すること数分,硬貨もしくは1,000ウォン札で900ウォン(約¥90)の切符を買えば良いらしいことがわかってきた。自動改札機は遊園地などの出入り口で時折見られる,バーを回転させるタイプである。

車と同様,地下鉄も右側通行で運行されている。駅のBGMがクラッシック(たぶんチャイコフスキーか何か)だったのが,妙に印象的だ。

自転車おやじ
酒屋の店先

ジャガルチの駅から地上に出ると,北側一帯に活気溢れる市場が広がっている。西寄りに広がるジャガルチ市場は主に新鮮な魚介類を,東よりの国際市場は衣料品や日用品を販売しているようだ。国際市場には地下商店街もある。こちらは繊維製品が中心で,ローカルな喩えで恐縮だが,ちょうど船場センタービルのような雰囲気だった。

観光客向けの店もあるが,日常の買い物客が多く,色々な品物を眺めて歩くだけでも楽しい。キムチを売る店,スパイス(漢方?)を売る店,もちろん冷麺やチヂミを食べさせる屋台もある。肉屋の奥には豚が何頭かぶら下がっていた。そんな発見をするのも旅の楽しみだ。

しかしながら,我々にはまだ見ぬコーラを探すという重大な使命がある。酒屋やスーパーマーケットに入ってみよう。

清涼飲料水の棚を見ると,品揃えは日本と大差ないように見える。お茶や果汁,コーヒーや紅茶,それにアミノ酸などのサプリメント系飲料もある。デザインの傾向が似ているので,韓国語が読めなくても内容はほぼ間違いなく判定できるだろう。

肝心のコーラはというと,コークとペプシしか見つけることができなかった。缶は250mlで,コークは750ウォン(約¥75),ペプシは600ウォン(約¥60)前後と,若干の価格差をつけて販売されているようである。500mlのペットボトルは1,300ウォンあたりで売られていた。350ml缶は一般的ではないようだ。それから,店頭のポスターなどから察するに,ペプシはロッテグループとの提携の元で販売されているようである。

なお,ご当地ドリンクであるメッコールが多くの店で入手可能だったことを付記しておく。久しぶりに1本試してみたが,記憶よりも遥かに旨かった。メッコールの味が変わったのか,自分の味覚が変わったのかは不詳である。

コーク瓶 陳列棚

釜山コンビニ事情

コンビニでのコーラ事情はどうだろうか。もしかしたらプライベートブランドなど発見できるかもしれない。

コンビニの件数は多い。大通りを歩くと交差点毎に遭遇するような感じだ。各々の店舗は日本のものよりやや小振りにも思われるが,概ね日本の都市部における状況と大差ない。釜山の街を気軽に歩くことができる理由のひとつだ。

あたりを見回していちばん目に付くのは「LG25」。LGグループの一員らしいので,大手なのだろう。また数は少ないが,お馴染の「7-ELEVEn」「FamilyMart」,それから「NON-STOP」などというのもあった。

酒屋から出てくる中本LG254SEASONS7-ELEVEnFamilyMartNON-STOP

一方,自販機の数は非常に少ない(というか,日本の状況が異常)。設置密度は大阪・東京などの1/10に満たないと思われる。

結論はと言うと,結局目新しいものは発見できなかった。少なくとも釜山において,コーラの市場は寡占状態にあるようだ。やや残念ではあるが,状況を確認できただけでも訪れた意味はあるだろう。

自販機その1 自販機その2

何が出るかな? 昼食はミステリー

いい感じの看板釜山に上陸してから約2時間。コーラ探しも一段落したところで,昼食にすることにした。既にご存知の方も多いかと思うが,中本は空白になると不機嫌になる。だから食事はとても大切な,欠かすことのできない儀式である。たとえ現地滞在時間が僅か3時間しかなかったとしても,だ。

屋台の冷麺にも後ろ髪惹かれる思いであったが,雑居ビルの2Fにある店の看板が妙にいい感じだったので,その店に入ってみた。どんぶりの麺を食べるキャラクターが描かれているので,多分冷麺の店だろう。

店に入ってみると,数グループの客がキムチをつまみに「うどんすき」のようなものをつついている。どうやら冷麺の店ではないようだが,もう座っちゃったし,まあいいか。

むしろ問題は,目の前にあるハングルだらけのメニューである。写真がないので,何が何だか全く想像もつかない。しかも全ての品目が2500ウォン〜3500ウォンとほぼ均一なので,どれがメインディッシュでどれがサイドメニューなのかさえ判別不能だ。これには困った。超困った。

山盛りキムチ
豪華な昼食?

とりあえず,英語のメニューはないか聞いてみる(英語で)。店員はやや困った顔をしたが,程なくそれが運ばれて来た。だが恐るべきは韓国料理。英語で書かれていてさえ,何なんだかさっぱり不明なのだ。とりあえず他の客が食べている「うどんすき」のようなものが「seafood noodle」だろうと目星を付け,それを2人前と,「kimchi なんとか」というのを1品,それからもう1品をあてずっぽうで頼んだ。

やがて数種のキムチと生の獅子唐を皿に盛ったものが運ばれてきた。これが「kimchiなんとか」だろうか。まずは1品。

そして,2品目として例の「うどんすき」のようなものが運ばれてきた。魚介類のダシに塩で薄味を付けたスープに,縮れのかかったコシのあるうどん,それから子エビ,ムール貝,イカなどが豪華に乗せられている。これを箸で小皿にとり分けて食べるわけだ。かなりのボリュームがあって,これだけでも満腹になりそうだ。確か1人前3,000ウォンくらいだから,安くて旨い。

そうこうしているうちに,今度はチヂミが運ばれてきた。たっぷり入ったネギとニラの甘さが,僅かに効かせた唐辛子の辛さとベストマッチ。これも美味。

いやー,3品頼んでちょうど良かったねー,と舌鼓を打つ我々の元に,予想外のもう1品が運ばれてきた。蒸しギョウザだ。食べてみると,キャベツの歯触りの向こうにほんのりとキムチの風味が感じられる。ああ,美味しいねえ。最初のキムチはサービスで,これが「kimchiなんとか」だったんだねぇ。

量が多すぎて,全部平らげた頃にはもうタイムリミットが近付いていたのだったが,今さらコーラなんてどうでもいいような幸せな気分だ。港まで散歩しながら帰りますか。

というわけで,本日のコーラ・ハントは終了。お疲れさんでした。

いつものエピローグ

太陽が傾きかけた釜山港を後にする。すっかり凪いできた海をビートルは快走し,日が沈む頃には博多に入港した。奇妙なことだが,すれ違う人の博多弁が,時折韓国語のようにも聞こえる。

博多から大阪までは,気易い旅だ。福岡空港に向かう中本と博多駅で別れ,新大阪行きのレールスターに身を沈めた私は,しかしふと思った。博多から大阪までの距離は約500km。だが釜山までは200km足らずだ。そして千年以上も前から,多くの人があの海を通い路としていたのである。

日帰り,いいじゃないか。心に国境はない。そして旅は自由だ。


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