特集 「ホテルコーラ考」

中本晋輔

私はマーケティングという職業に就いている。

こういうと聞こえは良いが、要するに新規案件専門の営業である。お声がかかれば全国飛んでいき、かからなければアポをとり、それでもダメなら押しかける。学会しか出張のなかった学生時代と比べて、移動とホテルに泊まる機会だけは多くなった。

どこでもコーラに目が行くのは悲しい性だが、とりわけホテルはコーラの販売環境として非常に興味深い。価格が地上に比べ変化に富み、また販売方式もはるかに複雑なのだ。

今回はホテルでのコーラ事情について考えてみたい。

コーラの入手方法

ホテルでコーラを飲みたくなったと一番良い方法は、外に買いに行くことである。しかし何らかの事情でホテル内で調達しなければならない時は、一般的に下記の選択肢がある。

  • 自動販売機
  • 客室冷蔵庫
  • ルームサービス

この他にもバーやレストランで注文する方法もあるが、これはホテルに特有というわけではないため今回は省略する。

1. 自動販売機

ビジネスホテルなどで一般的なコーラ入手法。2Fあたりの「自動販売機コーナー」でビールやおつまみの自販機と共に設置されていることが多い。同じ階でなければエレベーターでの移動となり、実は外に買いに行くのとあまり手間は変わらない。そのあたりを鑑みてか、価格は地上と同じか少し乗せた程度である場合がほとんどだ。

ほとんどの場合飲料メーカーの自販機がそのまま設置してあり、ラインナップも地上のそれとあまり変わらない。KIRINなどが入っているとコーラが入手できなかったりする。スペースが小さい場合はビールとコーラが両方扱えるサントリー(=ペプシ)の自販機が好まれる傾向があるようだ。

夜中に人と鉢合わせてしまうと、なんとはなく気まずくなるのも特徴。別に有料放送のカードを買ってるわけじゃないんだけど。

2. 客室冷蔵庫

最近のシティホテルにはほぼ例外なく部屋に冷蔵庫が設置されている。20〜40リットルの小型のものが多く、最近は静かなペルチェタイプのものが流行のようだ。サンヨーや日立、ナショナル、electroluxといった名だたるメーカーが参入しているところを見ると、ニッチながら結構美味しいマーケットなのかもしれない。

冷蔵庫の仕様はベッドや水周りと同じくホテルの特色が濃く出る部分である。私は部屋に入るとまず冷蔵庫を開けることにしている。

冷蔵庫の仕様は、大まかに次の3つに分類される。

空っぽ

冷蔵庫の設備だけを提供するタイプ。

コンドミニアムのような滞在型のホテルは、基本的にほとんどがこのスタイルだ。ホテルによってはサービスで無料の飲み物が入っていることもある。この場合ほとんどがミネラルウォーターで、残念ながらコーラが入っていることはまずない。もしPEPSI Xとかが入っていれば、多分何かの罠だ。

ビジネスホテルでも自販機コーナーが充実しているところは、冷蔵庫に何も入っていないことが多い。コーラがないのは残念だが、コンビニで買ってきた朝飯を詰め込んだり出来るので結構便利だったりする。

自動清算タイプ

前述の空っぽタイプと対照的な、商売っ気全開のタイプ。開けると蜂の巣のような機械にプルタブが並んでいて空けた瞬間ぎょっとしたりする。

穴の底にセンサーがあり、飲み物を引き出すと自動的に清算される仕組みになっている。缶の上蓋しか見えない上にいったん取ったら戻しても料金を請求されるため、引き抜くときには細心の注意を必要とする。特にペプシとポカリスエットは間違えやすいので注意。

構造上引き抜かずにあけてストローなどで吸えばただ飲みも可能だが、かなり情けない姿にならざるを得ない。万が一目撃されてしまうと色々なものを失うので、利益とリスクを天秤にかける割に合わない場合が多い。普通に買いましょう。

冷蔵庫の全面が装置で占められているため、他所から買ってきたものを入れることが出来ないのは大きなデメリット。管理費が安いためラブホテルとか安いビジネスホテルに多いのは理解できるが、平均以上のシティホテルでこれを見かけるとかなりガッカリする。その上コーラ高いし。

ミニ・バータイプ

ジュースやビールなどが普通に入っているタイプ。一流のシティホテルの多くがこのタイプで、リキュール類やグラスも揃った文字通り「小さなバー」であることも少なくない。


赤坂プリンス(左)と全日空ホテル金沢(右)のミニバー

冷蔵庫の大きさにもよるが、入っている飲み物の種類は大体15〜40種類くらい。このタイプは非常にコーラの含有率が高く、中にはレギュラーとダイエットの2種類が入っていることもある。フレイバーなどの色物を目にすることはほとんどないが、珍しいところではC2が入っていた例がある(ホテルブエナビスタ・松本)。

会計は転写式の伝票に飲んだ分をチェックし、チェックアウト時に申告するオーナースタイル。なので翌朝「冷蔵庫のご利用はございませんか?」にNoと答えれば、ただ飲みも可能である(クレジットカードで払っていないことが前提だが)。2日以上の滞在時には、ルームキーパーが数の確認と補充するのでこの手は使えない。てか普通に払いましょう。

このタイプは自動販売機に比べてホテルのよる価格の違いが大きい特徴がある。

3. ルームサービス

ホテルやバーを除いて、もっとも高いコーラの入手法。ベルボーイがわざわざ部屋まで持ってくるのだから、高くなるのも納得である。

ルームサービスの最大の特徴は、コーラがレストランと同じくグラスに入って供されるという点だ。夜景を見ながら大切な人とコーラを飲むといった、缶ではムードに欠けるシチュエーションでは是非利用したいところである。そんなシチュエーションがあるかどうかは置いといて。

また超一流のホテルになると「ルームサービスの一覧にないものについては、ご相談ください」の一文が添えられている事がある。このようなホテルだとコカ・コーラしか載っていなくても、ペプシを注文すればおそらく調達してきくれるだろう。流石にJolt Colaとか物理的に発見が困難なものは厳しいだろうが。

ホテル価格

ホテルのコーラには、地上より明らかに高い「ホテル価格」が設定されている。この価格も先に述べた販売法やホテルの格などにより、一般価格に近いものから缶コーラとは思えない値段のものまで様々である。

ではホテルのコーラ価格の上限はどのあたりなのだろうか。いくつかの一流と言われるシティホテルでのコーラの価格を表1と図1にまとめた。

表1.代表的な高級ホテルのコーラ価格
ホテル 販売方法 種類 容量 価格 価格/ml
(一般価格)     350 120 0.34
赤坂プリンスホテル 冷蔵庫 M コカ・コーラ 250 367 1.47
ホテルグランドパレス 冷蔵庫 M コカ・コーラ 250 372 1.49
メルキュールホテル銀座東京 冷蔵庫 M ペプシ 350 350 1.00
ロイヤルパークホテル 冷蔵庫 M コカ・コーラ 250 430 1.72
ロイヤルパークホテル 冷蔵庫 M ダイエットペプシ 350 430 1.23
京王プラザホテル 冷蔵庫 A ダイエットコーク 350 420 1.20
ザ・リッツ・カールトン大阪 冷蔵庫 M コカ・コーラ 350 525 1.50
ザ・リッツ・カールトン大阪 冷蔵庫 M ダイエットコーク 350 525 1.50
全日空ホテル金沢 冷蔵庫 M コカ・コーラ 250 367 1.47
ホテルブエナビスタ 冷蔵庫 M コカ・コーラC2 300 300 1.00
   
 
 
ザ・リッツ・カールトン大阪 RS コカ・コーラ 190 1008 5.31
冷蔵庫のMはミニバー、Aは自動清算タイプ。容量の単位はml, 価格は円(消費税・サービス料含む)


図1:客室冷蔵庫のコーラ価格比較

地上におけるコーラの正規価格が120円であるのに対し、今回調査したホテルの全てがその2倍以上。調査中最も高いものはザ・リッツ・カールトン大阪の525円で、一般市場の約4.4倍であった。これは富士山の山頂にある自販機のものよりも高い[→コーラ四季報2004年10月号「富士山アタック2004」参照]。

単位体積あたりの価格を見てみよう。0.34円/mlであるのに対し、やはりホテルのものは1mlあたり1円を軒並み超えている。単位体積あたりの価格でロイヤルパークホテルが首位になっているのは缶の容量が小さいためだ。ホテルのコーラはスペースの関係上250ml缶になることが多く、見た目以上の価格差となるケースがある。

高級ホテルになるほどブランド力のあるコカ・コーラが好まれる傾向があるようで、表1でもペプシの劣勢は明らか。興味深いのはロイヤルパークホテルで、コカ・コーラ+ダイエットペプシという組み合わせ。ホテルには相互禁制が働かないことが分かる。

ルームサービスについてはサンプル数が一つで詳しい傾向は分からないが、ザ・リッツ・カールトンで1008円(税・サ込み)とついに4桁に突入。190mlボトルのため単位体積価格は5.31円/mlとこちらも桁外れだが、これは実際頼んでみると納得できてしまう内容だった。(→おまけ「突撃!ザ・リッツ・カールトン大阪」参照)

山奥に立てられてロジスティックに問題がある場合を除き、この価格上昇分はホテルのサービスへの対価と考えることが出来る。これが、ホテルが「サービスの王様」といわれる所以なのであろう。

コーラとホテルの格との関係

このホテルでのコーラの価格はどのような物理法則に従っているのであろうか。一般的に「高いホテルほどコーラも高い」という経験則はあるが、宿泊料のディスカウントが進むホテルで実際の宿泊料金(S obs )とコーラの値段が比例しているとは考え難い。

ホテルの格が最も顕著に表れるのは、最高のサービスを提供する「スイートルーム」といわれる。浦一也氏の著書「旅はゲストルーム」のコラムに「(略)広いスイートはそのホテルのステータスを示すものとしてつくられることだってある」とある。最近はスイートをディスカウント対象になっている所もあるが、ホテル側が定めた正規宿泊料はそのホテルの自信、すなわち格を表すものと考えることができる。

今回調査したホテルのなかで、公式HPで正規料金を公開していたのは下記の5つ。その結果を表2に示す。もはや宿泊代金とは思えない価格帯である。

表2 コーラ販売価格とスイート料金の比較
ホテル 種類 価格 価格/ml 正規スイート料金
赤坂プリンスホテル コカ・コーラ 367 1.47 150,200
ロイヤルパークホテル コカ・コーラ 430 1.72 262,500
ザ・リッツ・カールトン大阪 コカ・コーラ 525 1.50 450,000
全日空ホテル金沢 コカ・コーラ 367 1.47 173,250
ホテルブエナビスタ コカ・コーラC2 300 1.00 115,500

コーラの1缶あたりの価格をスイートルームの正規宿泊代金に対してプロットした結果を図2に示す。


図2:コーラ価格のスイートルーム正規料金依存性

ホテルのコーラ価格は、そのスイートルームの正規料金と比例関係になることが分かる。これまで一般的に言われてきた「高いホテルほどコーラも高い」をデータによって裏付けられた。

これに対して単位体積あたりのコーラ価格とスイートルーム正規料金とは比例関係にはなかった。これはホテル側の350ml缶と250ml缶の仕入れ値の差が無視できるほど小さいためと考えられる。


モノからサービスへのシフトが叫ばれる昨今において、価格や販売様式がこれほどまでに多様化しているホテルのコーラはその先駆け的な存在と言えるのかも知れない。


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