今月の一冊「日曜研究家 第5号」

なかはしいちろう

「萌え」が経済現象として認知された今、同人誌というと何だか桃色チックなイメージが先行するかもしれない。だがこれは全くの誤解である。俳句で言えば「ホトトギス」、思想なら「青鞜」といったように、同人誌は表現・社会運動のための重要なメディアでありつづけてきた。その重要性は商業出版が発達した現代でも少しも減じてはいない。ペンはパンほどは強くないが、やはり剣よりは強いのである。

そんなわけで、この「日曜研究家」。主筆は自称「日曜研究家」の串間努氏。駄菓子などを始めとする「昭和B級文化」の権威であり、一般の書籍や雑誌などでご存知の方も多いだろう。実質的な形態は同人誌なのだが、地方・小出版流通センターの扱いにより一般の書店でも取り寄せが可能だったようだ。

ちなみに、この本を一般の書籍流通ルートに載せたことには、たぶん深い意味がある。例えばこの本は各地の公共図書館に収蔵されている(大阪府Web-OPAC横断検索によれば、府内だけでも少なくとも5件)。恐らく串間氏はこのために相当の出版コストを負担しておられると思うが、つまりこれは「今若し記さざれば、後何ぞ調べなむ」(冒頭・日曜研究家宣言)という思想を体現しているのであろう。不真面目な我々にはとても真似できない偉業である。

この「第5号」の特集は「清涼飲料水」。コーラファンならば「日本コーラ史」は当然必読であるが、どうしても戦後の市場規制に関する政治的な話題が多くなるので、ここはじっくり「日本炭酸飲料史」あたりから読み始めるのがいいだろう。町田忍氏のコレクションによる豊富な図版を眺めているだけでも退屈しないが、できれば文章も読んでほしい。誰もが知りたいラムネ瓶の秘密や、以前のコーラ四季報でも取り上げた三ツ矢サイダー、ウヰルキンソンタンサンなどについても詳しい。

古本として入手することは難しそうな本書だが(そもそも、中本はこれをどうやって入手したのだろうか)、既に述べたように各地の公共図書館に収蔵されており、アクセスは比較的容易である。一度ご覧になってみては如何だろうか。

[表紙写真]日曜研究家 第5号

串間努ほか著、日曜研究社、1998年7月


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