コーラ白書
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コーラ津々浦々「鉄道とソーセージとビールとコーラ」

中本 晋輔

「で、今年はどこにコーラ買いにいくんですか?」

休みを取る旨を伝えると、上司に聞かれた。仕事では考え方の違いから議論することも多々あるが、私のコーラの趣味に関しては良き理解者である。ドイツに行くと言うと、理由を聞かず「いいコーラがあると良いですね」と言われた。特定の物事について正常な距離をおかない者同士、何か通じるものがあるのかもしれない(註1)

ドイツは昔から気になる国だった。ヨーロッパ最大のコカ・コーラ消費国にして、FANTA発祥の地(註2)。そして何より、かつて世界最強と謳われた異端のコーラ、afri-colaを生んだ国である。これほどまでにコーラ文化豊かな国は、スエズ運河以西には存在しない。

出張で貯めたANAの11000マイルを2枚の特典航空券に換え、追加の燃料サーチャージに釈然としないながらも、まだ見ぬドイツのコーラに思いを馳せた。

 


 

9月17日、南海の空港特急ラピートで関空に向かう二人の姿があった。愛用のTUMIのWheeled Duffleは、未知のコーラに備えてほとんど空気しか入っていない。バウチャーのないオンライン予約に少しビビったが、カウンターでの手続きは拍子抜けするほどスムーズだった。しかしクライニングの効かない座席をあてがわれたのはタダチケット故の宿命なのだろうか。

ルフトハンザの機内食は言われているほど美味しくなかったが、感心したのがその食器のデザイン。曲線を持ちながら凹凸でぴったりと収まる皿や直線的な形状のポットなど、機能を反映したデザインが実に美しいのだ。またアメリカ系航空会社で絶滅した金属のフォークやナイフが現役なのも嬉しいところ。ちなみにルフトハンザのコーラはコカ・コーラで、1リットルのPETボトルがでんとワゴンに乗っていた。

 


 

フランクフルト国際空港は、聞きしに勝る巨大な空港だった。2本の滑走路には様々な国からの便が休みなく離発着し、ゲートには色とりどりの尾翼が並ぶ。巨大なターミナルは古く薄暗い雰囲気ながら、サインが分かりやすく言葉がわからなくても迷うことはなかった。鉄道王国らしく空港に長距離列車と近郊電車がそれぞれに乗り入れており、アクセスも非常に良好だ。

ここからフランクフルト中央駅は、地下の近郊電車(Sバーン)空港駅からたった3駅の距離。博多と福岡空港みたいなイメージだ。事前に「高額紙幣は切符の自販機では使えない」という情報を得ていた我々は、とりあえず空港内の売店で10ユーロ札を崩すことにした。Quick Mallという半分コンビニ半分デリカといった構成の店で、ショーウィンドーに並んだサンドイッチの山が食欲をそそる。

飲料棚の炭酸飲料は全て500mlのPETボトル。この店に限らずドイツではペットボトルが優勢で、缶入りのコーラを目にする機会はほとんどなかった。環境面の配慮からPETボトルにはデポジット(預かり保証金)が設定されていて、ジュースを売る店であればどこでも空のビンをリファンドしなければならない。ボトルごと持ち帰ることが前提の人間にとっては、単なる割高なシステムでしかないのだが。

ドイツは二次大戦以前からコカ・コーラの人気が高いことで知られているが、その傾向は今でも健在だった。この店を含めほとんどの売店やレストランではCoca-Colaが圧倒的優勢で、PEPSIは見つけることすら難しい状況だ。ここでもコカ・コーラ社のものはCoca-Cola, Coca-Cola Light, 新発売のCoca-Cola ZEROに元祖フレーバーコーラのMezzo Mixという錚々たるラインナップなのに、PEPSIや他のコーラは扱っていなかった。

再会を祝しMezzo Mixを一本購入。初めてのユーロでの買い物である。ちなみにユーロには2ユーロまでが硬貨があるので、USドルに比べて格段に使いやすい印象だった。

ドイツの地下鉄は改札のないオーナーシステムで、無骨な券売機がいろんなところに無造作に置かれている。ちょっと戸惑いながらもE3.75のチケットを購入。ホームは薄暗いが清潔で、アメリカの地下鉄のような不安感を感じさせない。

しばらくしてやってきたステップの高い旧式の電車は、ほぼ満員状態だった。大きな荷物を持って満員電車に乗るほど気を使うことはない。客層が妙に若いなぁと思っていたら、みんなサッカーの試合を見に行く人々だったようで次のスタジアム駅でほとんどが降りていった。後から聞くところによると、サッカーのチケットがあればフリーで近郊電車に乗れるシステムなのだそうだ。

 


 

フランクフルト中央駅

フランクフルト中央駅は、美しい駅だった。鉄骨とガラスで出来た巨大なアーチ上の構造は時刻とともに表情を変え、その姿は重工業の魂を持った大聖堂のようだ。圧倒的な開放感の中にヨーロッパ各地からの列車が入ってくる姿は壮観である。今回ドイツで見たなかでもっとも印象的な建造物だった。

またこの駅にはMIBという小さなマーケットがあり、惣菜屋や肉屋・果物屋・コンビニなどが一通り揃っている。中でも私の心を鷲掴みしにしたの肉屋の焼きソーセージ。炙った巨大なソーセージをパンに挟んだだけの簡単な料理だが、これがやたらと美味いのだ。値段が2ユーロと比較的リーズナブルなのも手伝って、旅行中3回も食べる「主食」となった。

フランフルト中央駅のマーケット。 ビバ!焼きソーセージ。

今回の旅行のベースとなるSteigenberger Metropolitanは駅に隣接する高級ビジネスホテルで、モダンで清潔な作りが好印象だった。ホームページで駅から0.01kmと謳われており、それはちょっと言いすぎだろうと思っていたら本当に10mくらいだった。

ミニバーの中はワインやビール・ソフトドリンクといった顔ぶれで、価格はE2.50〜(約375円)とやや高め。コカ・コーラを含めすべてガラス瓶なのは環境への配慮なのだろうか?

普段なら部屋に荷物をおいてすぐに街へと繰り出すところだが、明日からの移動に備えておとなしく寝ることにする。

 

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(註1) オーディオの凄い人

(註2) FANTAは第二次世界大戦中、コカ・コーラの原液が入手できなくなったため作った代替品が起源といわれる。