コーラ白書
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第二特集「ダイエット戦線異常アリ! 〜ダイエットコーラの新展開〜 」

中本晋輔

近頃ダイエットコーラ市場が騒がしい。これまでレギュラーコーラの「代替」でしかなかったダイエットコーラに、新製品が次々と誕生しているのだ。今回の特集では今年のコーラトレンドで最もホットな、新しいノーカロリーコーラの動向を取り上げてみる。

レギュラーとの決別

人口甘味料を使ったカロリーゼロのコーラが誕生したのは1962年。マーケティングに長けたRoyal Crown社が発売したDiet Liteは予想を越えたヒットとなり、これにペプシが追従。ついには単一商品にこだわりつづけたコカ・コーラまでも動かし、ダイエットコーラ市場が形成された。

長くダイエットコーラはレギュラー(砂糖入りのコーラ)の派生品という扱いだった。例えばコカ・コーラであればCoca-Cola と Diet Coca-Cola(Diet Coke)、Cherry Coke とDiet Cherry Cokeというように、ダイエットはレギュラーの影のような存在であった。ペプシがダイエット用にフレーバーを調整したPEPSI MAXを上市してはいたが、コンセプトが定まらず(註1)ダイエットに絞った新製品はほとんど現れなかった。

しかし近年コカ・コーラやペプシといったコーラメジャーからの新製品の発売やプレスリリースが相次いでいる。種類も一般的なものからフレーバーもの、ビタミンやミネラルを付加したものまで多種多様だ。ダイエットコーラはついにレギュラーコーラの呪縛から逃れ、ひとつのカテゴリーとして認識され始めたと言えるのかもしれない。

ペプシコの眼

予兆はあった。2005年3月のプレスリリースで米ペプシコはコーラ市場が近い将来ダイエットが牽引すると述べ、ダイエット製品をフラッグシップに据える戦略を打ち出している。当時このニュースにかなり驚いた記憶があるが、その後の市場を取り巻く環境はペプシの予想通りとなった。右肩上がりだった米国の炭酸飲料市場が頭打ちになりはじめたのだ。

その主な原因は健康志向の増加と清涼飲料の多様化であるといわれるが、特にコーラ市場に打撃を与えたのが前者であった。アメリカの学校ではソーダによる児童の肥満が問題となり、アメリカ飲料協会は2008年までに小中学校での加糖炭酸飲料の販売を全面的に停止することを決定。また一般にも砂糖の過剰摂取を控える動きが起こり、無糖飲料が台頭した。

この健康志向の動きはアメリカに留まらない。イギリスではジャンクな食生活が問題となり、特に学校給食をめぐって大きな議論が起こっている。清涼飲料の多様化が早かった日本市場では消費者のコーラ離れが加速、01年に緑茶飲料に逆転を許して以来その差は広がる一方だ。すでにコーラは清涼飲料の王ではいられなくなっていた。

このコーラ離れに歯止めをかけるべく登場したのが、新世代のダイエットコーラであった。

漆黒のダイエットコーラ現る

2005年11月、コカ・コーラは新しいダイエットコーラブランド「Coca-Cola ZERO」を発売した。ZEROは「よりコカ・コーラらしいダイエットコーラ」をコンセプトにしたフレーバー強化型の商品だが、甘味料は従来と同じアスパルテーム+アセスルファムKの組み合わせだった。同時に新甘味料「スクラロース」を使ったDiet Coke sweetened with Splendaが発売されたため、ZEROは新甘味料に対するヘッジ商品を見られていた。

しかし翌年に入るとコカ・コーラはZEROのコンセプトを修正する。Diet Cokeが担う健康志向市場を狙った商品ではなく、よりコカ・コーラに近い刺激的な次世代のコーラとしてZEROをポジショニングしたのだ。ペプシのPEPSI MAXに通じる戦略であるが、こちらのほうがコンセプトがより明確である。

初代ZERO(左)と新コンセプト(右)。初代は白地に黒のリボンだが、リニューアル後は配色が逆転している。

同社はZEROをグローバルブランドに格上げし、欧州やアジアでの拡販を開始した。デザインも一新され、黒をブランドカラーに採用した引き締まったグラフィックとなった。ブランドイメージもこれまでのダイエットコーラとは一線を画す、キャッチーで刺激的なものになった。

ZERO と Diet Cokeのコンセプトの違いは、例えばドイツの両プロダクトのWebサイトを比較すると分かりやすい。Diet Cokeは白を基調にしたや柔らかで女性的な構成であるのに対して、ZEROは黒をベースにしたより男性的でエッジの効いた演出が目を引く。

ドイツのZEROとDiet Cokeを飲み比べてみたが、確かにZEROはフレーバーが強い。人口甘味料の使用に伴うボディ感の欠落を、フレーバーを強化してカバーしているといった印象だ。ダイエットコーラに満足できない男性の消費者層で消費が伸びているのも理解できる。

BevNetによると、コカ・コーラ社は昨年10月までにZEROのプロモーションに2300万ドルを投じたという。これは(レギュラー)コカ・コーラのそれの1/5に相当する、発売3年目のブランドに対する投資としては破格の額である。

ダイエット専用フレーバー

ペプシコは06年秋、新しいブランドdiet PEPSI JAZZを立ち上げた。「Strawberries & Cream」「Black Cherry French Vanilla」というアメリカンなフレーバーが話題になりがちだが、このブランドの特異な点はレギュラーバージョンを持たないことにある。つまりdietがつかないPEPSI JAZZは存在しないのだ。

ダイエット専用のフレーバーコーラはコカ・コーラのDiet Coke with LEMONがあるが、これはPEPSI Twistの二番煎じという評価を避けるためという説が有力だ(註2)。一方のDiet PEPSI JAZZは、いかにもレギュラーがありそうな甘いフレーバーであるにもかかわらずカロリーを0に押さえた点で特筆に価する。

またフランスではコーヒーフレーバーのダイエットコーラ「PEPSI MAX Cappuccino」を発売。こちらは仏で先行発売されたコーヒーコーラ「Coca-Cola BlaK」に対抗したものだが、PEPSI MAXをベースに使ったのが興味深い。また最近はレモンライムのPEPSI MAX Citron Vert Citronもラインナップに加わった。

一方コカ・コーラは05年にベルギーでオレンジ味のダイエットコーラ「Coca-Cola Light SANGO」を発売、その翌年にはフランスでも販売を開始している。欧州ではオレンジ味のコーラは古くから存在するが、このSANGOはノーカロリーバージョンのみの発売という点で従来と一線を画している。

Diet PEPSI Jazz(左)とCoca-Cola light SANGO(右)。どちらもかなりフレーバーが強い。

ゼロカロリーコーラの課題であるボディ感の薄さと後味をフレーバーで補う方法は上記製品を飲んだ限りはかなりの成果を収めている。特にアセスルファムKやスクラロース等の後に引かない味質の甘味料との組み合わせはかなり効果的なようだ。

NEX vs ZERO

PEPSI NEX。06年版(左)と07年リニューアル版(右)

日本国内のペプシのマスターフランチャイズ権を持つサントリーは06年3月、独自開発のダイエットコーラ「PEPSI NEX」を発売した。

甘味料にアスパルテーム・アセスルファムカリウムを使用し、レモン果汁を加えることで後味とボディ感を改善した日本限定のペプシコーラである。レモン果汁を加える手法は03年のPEPSI Twistの改良に用いられた手段で、フレーバーにはない荒々しいレモン感が特徴だった。

また翌年07年の3月27日からはNEXのリニューアル版が登場。この新製品ではレモンを使いながらも果汁分を減らし、コーラフレーバーが強調された

興味深いのはこのリニューアル版NEXのブランドカラーにも黒が採用されている点である。前述のとおり黒はCoca-Cola ZEROのブランドカラーであり、日本でも6月に黒いラベルのZEROが発売される予定。国内ではペプシが「黒いダイエットコーラ」で先手を打った形になった。

ノーカロリーコカ・コーラこれに対してコカ・コーラは07年前半に2種類のダイエットコーラをリリースする。

4月3日にリリースされたノーカロリーコカ・コーラはダイエットコークの後継商品で、従来のダイエット市場を狙ったものだろう。白とシルバーを基調にした穏やかなパッケージデザインを踏襲しており、注意深く見ないと新商品であることに気づかないほどだ。本品の発売に伴いダイエットコークは生産終了となる。

そして6月には世界を席巻するZEROが日本にも上陸する。黒をベースにした引き締まったパッケージデザインは前述のノーカロリーコカ・コーラとは対照的。詳細は未発表だがプレスリリースには「20代の男性をターゲット」「コカ・コーラならではのおいしさとシャープな刺激」と謳われており、同社のグローバル戦略に沿った製品になるようだ。

引く時代から加える時代へ

アメリカでは更に進化を遂げたダイエットコーラが両陣営から発売されようとしている。Diet Coke PlusとDiet PEPSI MAXだ。

ペプシコーラ・ノースアメリカは2月22日の発表で、新しいダイエットペプシ「ダイエットペプシマックス」の発売を明らかにした。ダイエットペプシとペプシマックスが混じったような名称だが、パッケージから推測するにマックスな内容の「ダイエットペプシ」ということらしい。

この新製品が一線を画すのは、カフェインと高麗ニンジンが配合されている点だ。これまでのダイエットコーラといえば健康志向が強く、カフェインを増やすという選択はなかった。今回ペプシは「カロリーゼロのエネルギー補充コーラ」という、これまでになかった斬新なコンセプトを披露した。25〜34歳の消費者をターゲットとした、大人のコーラだという。

これに対してコカ・コーラノースアメリカは3月23日、ダイエットコークシリーズの最新作「ダイエットコークプラス」を発表。これはダイエットコークにビタミンB3、B6、B12と、亜鉛やマグネシウムを添加したもので、キャッチコピーは「Great Taste Has Its Benefit」。従来のグラフィックを引き継ぎながらもブランドカラーに水色を採用、ロゴのplusは虹色のグラデーションを使うなど明るいイメージのパッケージが印象的だ。

両陣営の次世代ノーカロリーコーラ

両社の新製品のポジショニングは微妙に異なるが、共通するのはダイエットコーラにプラスアルファを追加することによって新しい市場を開拓しようとする戦略である。また両陣営ともレギュラー(加糖)バージョンの発売を予定していない点で共通しているのも興味深い。

◇ ◇ ◇

これまでダイエットコーラは様々なものをレギュラーから「引く」ことによって差別化し、支持を広げてきた。今後はただ引くだけではなく、新たなコンセプトを加えることが要求されることになるだろう。暫くダイエットコーラ市場から目が離せない。

(註1)PEPSI MAXは一般的にはダイエット用にフレーバーを調整したノーカロリーのペプシだが、一部地域ではローカロリーコーラ(砂糖+人口甘味料)として販売されていた。

(註2)コカ・コーラは「消費者がダイエットコーラにレモンを入れて飲んでいるのを見て独自に商品化した」とTwistの後追いではないことを強調したが、その次のCoca-Cola with Limeではレギュラー版を発売。また日本やヨーロッパではその後Coca-Cola Lemonがなし崩し的にリリースされている。