特集
カフェイン論
中本晋輔

カフェインとの付き合いは,有史以降4000年にも及ぶ。 今回はまじめにカフェインについて考察してみた。
コーヒー、日本茶、紅茶、ガラナ、そしてコーラ。 世の中で「嗜好飲料」と呼ばれる物に共通する成分をご存知だろうか。 それは水とカフェインである。前者については言及する必要もないだろうが、 後者カフェインは自然界において決して一般的な物質とはいえない。 では何故異なった異なった文化の飲み物が全てカフェインを含むのだろうか。 今回の特集はコーラの主成分の一つ「カフェイン」を取り上げる事にしよう。 (先月のがあんなんだったから今月はおカタくてもいいよね?)

1. 化学屋さんが見たカフェイン

まずはカフェインへ化学的なアプローチを試みてみよう。 カフェインは正式名称1,3,7トリメチルキサンチン、 または3,7ジヒドロ-1,3,7トリメチル 1-H-プリン-2.6-ダイオンといい、 プリン塩の一種に分類されるアルカロイドである。 ここですでに眠くなった人はコーラでも飲んで次の段落に進む事。 分子量は無水物で194.19、窒素と酸素からなる五角形と六角形がくっついて、 その周りに酸素とメチル基が交互に並んだような構造をしている。 中枢神経を興奮させ、大脳皮質で働き感受容脳と精神機能を亢進させる作用がある。 要するに眠さよけだ。 そのほか強心、利尿作用があり、 分析化学においてはビスマス・アンチモンの検出試薬として用いられるらしい。 なんか知らんが凄そうだぞ、カフェイン!!

カフェインの分子構造。 SunのJDKのサンプルのぱくりです。 マウスでぐりぐりすると分子が動きます。

カフェインの歴史は結構古い。 B.C.2,000年頃には既に中国で飲まれていたという記録さえある。 って事は4000年の歴史があるということだ。 でもなんか中国だと妙に納得してしまうのから不思議。 カフェインの単離に成功したのは1820年。 科学者RUNGEがコーヒーから抽出したのが初めとされる。 それから程なくいろんな化学者がガラナやマテ茶、 コーラナッツからの抽出に成功したが、 始めは同じ物と分からず好き勝手に名前を付けていたらしい。 ちなみにコーラナッツからの抽出に成功したのは化学者AUFIELD氏。 ・・・しかし昔の化学者ってコーヒーやら紅茶やらを研究対象にしていたのか。 のどかな時代である。

2. カフェインが愛される理由

何故人はカフェインを飲むのか? それにはカフェインの持つ2つの性質が関係している。 まず1つめに、先も述べたように感受容脳と精神機能を亢進させる作用がある、 と言う点。 平たく言えばカフェインには眠気を払いテンションを高める効果があると言う事だ。 夜コーヒーを飲んで寝られなくなったり、 一夜漬けの時に妙に気合入れてJoltを飲んだ経験のある人は多いだろう。 私などはコーラの飲みすぎで並みの量のカフェインでは効果が無く、 インスタントコーヒーの飽和溶液を作って飲んだものだ。 あまりお奨めはできないけどネ。

もう一つはその味。 我々が一般に口にするカフェイン1水和物はわずかな苦みを持っている。 この「苦み」には味の中でも特殊で、精神的なストレスを和らげる働きがあるのだ。 紅茶やコーヒー、お茶が洋の東西に関わらず支配者や僧侶の間でまず広がったのも、 彼らが肉体的よりむしろ精神的に疲れる立場であった事と無関係ではあるまい。 また微量の苦みは他の味に混ざる事によって味全体を複雑にし、 甘さを引き立てる作用があるとされる。 カフェイン抜きのコーラ、 例えば Coca Cola Caffeinefree や無印良品コーラなどを飲んだときに感じる妙な軽さや物足りなさは 実はここに由来するのである。

3.コーラ、コーヒーに完敗

では我々のまわりにあるものにはどれくらいのカフェインが含まれているのだろ うか。 [FAQ COFFEE & CAFFEINE]には含有量の詳細なデータが掲載されているので、そ の一部を抜粋させてもらった。

ドリップ・コーヒー 115-175mg
マテ茶 100-150mg
AFRI-COLA 100.0mg(?)
JOLT COLA 71.2mg
COCA COLA 45.6mg
PEPSI COLA 37.2mg
RC COLA 36.0mg

・・・・コーラのカフェインなんか全然大した事無いじゃないか。 コーラの中で最大のカフェイン量を誇るアフリコーラでさえ ドリップコーヒーに完敗である。 その上マテ茶にまで負けてる。 ジョルトの「カフェイン×2」の基準はRCコーラである事もこの表から一目瞭然だ。 だからなんでRCと比べるかなぁ。 いきなりコーヒーに敗北したコーラだが、実は理由はある。 カフェインは水よりお湯の方がずっと溶けやすいのだ。 良く考えたら「コーラを飲んだら眠れなくなった」ってのはいまいち聞かないな。

4. 厳しいアメリカ人、寛容な日本人

一般に化学物質は多かれ少なかれ全て有毒であると言われる。 眠気を吹っ飛ばし、 テンションを上げるこのカフェインにはどのような毒性があるのだろうか? まず一番危険とされる発癌性と変異原性だが、結論から言うと両方とも白。 ちなみに変異原性とはDNAを変異させる性質の事を言うらしい。 また取りすぎたときの副作用として酩酊状態、 興奮、不眠、動悸等の症状が現れるが、 1日に0.5g程度であれば問題はないという。 アフリコーラなら5本、RCなら15缶である。そんなに飲めるか! ただ依存性に関してはある、ないの両論があるらしく、 その為かアメリカではカフェインを嫌がる人が多い。 ほとんどのコーラにはCaffeine free版があるし、 レストランではコーヒーを頼むと「regular or decaf(カフェイン抜き)?」 と聞かれる。アメリカ人の健康意識は流石である。 オーストラリアもカフェインを結構気にする国のようだ。 カフェインを含む飲料の多くは裏に大きく「CONTAINS CAFFEINE」の表記がある。 オーストラリアはアルコール系コーラの本場でもあるが、 アルコールに関する記述よりもカフェインの方がずっと強調されている。 カフェインって酒よりも危ないのか? それに対しアジアの国はカフェインに寛容と言える。 日本も中国もタイも原材料に「カフェイン」と書いてあるだけ。 日本では昔カフェインフリーのコカ・コーラを発売したが、 不評ですぐに撤退させられたほどである。 ちなみに中国語でカフェインは珈琲因、実に良く分かる。

5. カフェイン実践編

それではこの魅力的で ちょっぴり不安の残るカフェインを美味しく取る方法について述べる事にしよう。 一般的な所ではやはりJOLTCOLAが筆頭格。 日本で手に入るコーラの中では最大のカフェイン量だし、 コカ・コーラの1.5倍というのはやはり魅力的。徹夜のお供に。 97年夏ブームになったガラナ飲料の中では「cafe GUARANA」が一押し。 コーヒーとガラナというカフェイン飲料を混ぜてしまった凄い飲み物だ。 製造元は泣く子も黙るペプシコインク・ジャパン。 死ぬまでに一度は飲んでおきたいものだ。 一度でいいけど(笑)。 海外物ではアメリカののKranK2Oが光る。 これは無炭酸のいわば「カフェイン水」で、含有量は約100mg(500ml)という。 凄いもの売ってるな、アメリカは。ちょっとうらやましいぞ。 と思っていたら日本でも強者を発見。 日本たばこ産業の「パワフルブラック」である。 内容量50mlでカフェイン量は120mg!こ、濃ゆい。 宣伝文句が「夜ふかしに」だけというのも凄い。 味はコーヒーの苦みだけ抽出したような感じで、 カフェインのピュアな味を堪能できる。 ちなみに肩書きは「清涼飲料水」だ。 一本300円と若干高価だが、試験前日の最後の切り札としては十分。 セブンイレブンで購入できる。

コーラには欠かせない成分の一つ、カフェイン。 彼らは上手に付き合えば、 生活に刺激を与えてくれる魅力的なものであることがお解りいただけただろうか。 この次コーラを飲むときにカフェインの事を少し思い出していただければ幸いである。 さて、原稿も終わったしJOLTで飲もーっと。(カフェイン中毒者:中本)


参考文献

化学大辞典2
共立出版

化学大辞典
東京化学同人

食品のおいしさの科学 -味・香り・色・ストラクチャー
石倉俊治著 南山堂
食品のさまざまな成分についてかみ砕いて説明した名著。

食品添加物実覧
厚生省生活衛生局食品化学課監修の分厚い本。外見も硬いが中身も硬かった。

[FAQ caffeine and coffee]
英語だが,カフェインについていやと言うほど書いてある。

[7月号表紙]
コーラ月報7月号

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