コーラ津々浦々 「フェスティバルゲート編」
中本 晋輔
月報5月号で取り上げた通天閣・新世界界隈。大阪最後の秘境と呼ばれたこの地域がわずか半年の間にすっかり変わってしまった。どこか近寄りがたい雰囲気のあった同地は今やほとんどの大阪ガイドブックに掲載されるほどの観光スポットに生まれ変わったのである。この驚くほどの変化の火付け役となったのは全国を席巻した「ふたりっこブーム」であるが、それを決定的にしたのはやはり関西初の室内アミューズメントパーク「festivalgate」の開業であろう。いきなり街の中に遊園地を造ってしまったのだから客層や雰囲気なんかがらっと変わってしまうのも当然だ。そして今回我々調査隊(註:誰が調査隊や)はこのフェスティバルゲート内に「A&W」があるとの情報を入手した。A&Wと言えばアメリカに本社を置くファーストフードチェーンで、売りは何といってもルートビアである。コカ・コーラより古い歴史を持つルートビアが本当にこんな手近な所で味わえるのか?(註1)我々は早速真相の究明に向かった。

Festival Gate Logo 難波から日本橋の電気屋街を通って歩く事10分、我々は新世界に到着した。こちらからのルートではフェスティバルゲートの裏口から入る事になるのだが、気にしない事にする。一歩中に入ると商店街はすっかりきれいに整備されており、アーケードも新しくなっていた。その先にそびえる通天閣も改装工事を終えリニューアルされている。なんか町全体がイメージチェンジを図っているようだ。そう言えばニュー通天閣は夜間の照明の明るさが30%アップして、本当に明るい。最近は客の入りも好調で、大阪府に広告費を払えるまでになったらしい(通天閣は府の道路の上にまたがって立っているので、宣伝を出した場合道路交通法の定めるところにより府に金を払わなくてはならない。今までは儲かっていなかったため特別に免除してもらっていたそうだ)。よかったね。

Festival Gate そして通天閣の向こうに見えてきたのは、この場所では浮きまくっているパステルカラーの城の姿だった。あれがフェスティバルゲートか!なんて場違いな建物なんだ。手前にあるづぼら屋の巨大フグ提灯とのギャップが激しくて少しくらくらしたが、我々はめげずに目的地を目指す。まず驚いたのは建物の大きさである。確かに中にジェットコースターやらバイキングやらある訳だから大きくて当然なんだけど。それから警備員がそこらじゅうにいる事も印象深かった。そりゃそうだ。このフェスティバルゲートとあいりん地区は目と鼻の先。おっちゃんが路上に転がっていらっしゃって、たまに暴動が起こって警察署が燃やされる地区の隣に遊園地を作って、その上入場料タダとなればこれぐらいの警備は必要なのだろう。でもこれだけ警備員雇ってモト取れてるのか?

中に入ってみると、そこはまさにアミューズメントパークだった。7階建ての建物の中にはミスドやモスをはじめ色々なレストランや雑貨店が所せましと並んでいる。そしてその間を縦横無尽に走り回るジェットコースター「デルピス・ザ・コースター」を筆頭に14ものアトラクションが一つの建物に詰め込まれているとあってはもう謝るしかない。とにかく予想を越えて凄かった。私の家から電車で15分の距離に遊園地ができるなんて考えてもいなかったぞ。地価下落バンザイ。

神田川 早速A&Wを探す我々は3階に上がった所で妙な食べ物屋を見つけた。Wingという名の店なのだが、その横に店名よりずっと大きい字で「神田川俊郎」のサインが光る。あのおっちゃん、こんな所にも店出したんかと近づいて良く見るとその横に明らかに後から貼り付けた「味付け」の張り紙が・・・。ぎゃははははは!お前は大スポか。それともどこかから「神田川先生が作ってないやないの」というクレームでもでたのか。何にしろその張り紙になんともいえない趣を感じてしまった。ネタにするだけでは申し訳ないので神田川「味付け」(意地悪やなぁ)のたこ焼き(8個400円)を購入。お味の方はダシがきいてて流石に美味しいかったけど、一個50円と思うとちょっと考えてしまう。ちなみにここにはバイブレーションで自動的にたこ焼きを回転させる機能の付いた「自動たこ焼焼き機」なる物が稼動していて、大阪人の私は少し胸が痛かった。

A それからしばらく歩いたところに、我々の探す物はあった。A&W ついに発見!アメリカ留学時代によくお世話になった所なので懐かしさが込み上げてくる。店のロゴの横のネオンサインには「ルートビア」の文字が・・・。そして店の前には試飲サービスの看板がでかでかと張り出されている。大阪でルートビアが飲める店があるなんて!はやる心を抑えつつ、我々は店に入った。内部は普通のファーストフードのそれと同じ作りだが、一つだけ決定的な違いがあった。カウンターのレジのすぐ横にルートビア専用のファウンテンがあるのだ。流石ルートビアの元祖である。我々はコンボセット(600円でバーガーとフライとドリンク付き)を注文、ドリンクはもちろんルートビアである。すると目の前で冷えたジョッキになみなみとルートビアが注がれて出てきたのだ。紙コップに注がれストローを刺されるコカ・コーラと比べると軽い嫉妬すら憶えてしまう程の待遇である。どきどきしながら早速飲んでみると・・・・あれ? 何か思っている味じゃない。我々の考えていたルートビアよりも、ずっと甘いのだ。どうやら日本人に合うように若干味を改良してあるらしい。とはいえルートビア独特の薬臭さは健在で, それほど不満な結果ではなかった。もしフェスティバルゲートに行く機会があれば, ぜひともチャレンジして欲しい。もっともこの味が万人受けするとは思えないが。それから, ここのカーリーフライ(ポテトフライの一種)はマ○ドなんか目じゃないくらい美味しいから、こちらもご賞味あれ。

ワラビ餅 久々のルートビアに満足した我々は、アトラクションに目もくれず帰路についた。と、その時、出口の横でまわりの風景に全く溶け込んでいない大きな簾の看板が我々の目に飛び込んできた。「どんどんたべてわらびもち」。明らかに手書きのその簾は遊園地で浮かれて帰る人々に「現実に戻りや、外は新世界やで」と語りかけているようだった。
(註1) ルートビアは現在日本では沖縄でしか入手できない。


[12月号表紙]
コーラ月報12月号

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