特集 AsiaBev'97
特集 AsiaBev'97
中本 晋輔 & 中橋 一朗

おそらくは日本で唯一の清涼飲料水に関する見本市 "AsiaBev'97" が、 1997年11月、東京・有明ビッグサイトにて開催された。 今回の特集ではその模様をお伝えする。

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■探険! 臨海新都心

新橋駅から新交通「ゆりかもめ」に揺られること数十分、 一行は無事に目的地である有明ビッグサイトに到着した。 はやる気持ちを抑えながら、まず時間をつぶせる場所を探す我々。 だってまだ朝の8時。何といっても恐るべきは夜行バスである。

・・・しかし流石はべイフロント。 奇麗なビルはたくさんあるが、生活感というものが全く無い。 夢の跡を彷徨うように歩きまわり、謎の霧や、不可思議なオブジェや、 空虚な待ち合わせ場所を発見して、 「神戸カプチーノクラブ」という何か関西に対する誤解を助長しそうな名前の店で満腹になった。 随分と寂しいスタートだ(笑)。

■製造設備オンパレード

10時、AsiaBev'97はようやく開場した。 既に意気消沈しかけていた一行の目にまず飛び込んで来たのは、 高さ5mを越えるであろう巨大なビン詰め装置である。 しかも気軽に写真なんか撮っちゃうと怒られたりするのだ(当たり前)。 ここへ来て、一行の胸中にあった小さな疑念が急速に膨らみ始めた。

「もしかして、すごく場違いなのでは・・・」

当然である。他の人たちはみんな仕事で来てるんだから。 関係者のみなさんどうもすみません。

冗談はさておき、このAsiaBev、 出展各社にとっては相当力の入ったものでもあるようだ。 その証拠に、地ビールの製造プラントから消味期限切れの缶に穴を開ける装置まで、 巨大な製造装置がたくさん展示されている。 その輪送や設置にかかるコストはさぞかし大変なものだろう。 逆に一般消費者向けの派手な展示はあまり見られず、 多少寂しいといえばまあそんな感じもする。

■難忘清純的初恋滋味 可爾必思水語 - カルピス

Chinese CALPIS Chinese CALPIS close-up
最初に我々を狂喜させたのは, 実はコーラとは全然関係なくて, あのカルピスであった。 カルピスの展示のメインは飲み続けると血圧が下がる 「アミールS」 だったのだが, 実は端の方に中国でのカルピスが展示されていたのだ。

商品名は「可爾必思水語」, キャッチコピーは「難忘清純的初恋滋味」。 「可爾必思」は多分音を当てたものだろう。 キャッチコピーについては, 良く良く字を眺めると, ほら, 日本でのコピーが浮かんでくるではないか。

■キラキラ缶, ついに登場!? - 大和製缶

大和製缶はラミネート技術を利用して美しいデザインの缶を生産しているメーカーである。 缶のどこかに小さく宝くじの抽選会の的のようなマークが書いてあれば, それは大和製缶製の缶である。

ラミネートパウチなどというように, ラミネートと言うのは要するに 薄いフィルムを張り合わせることである(らしい)。 つまり最近の缶は鉄もしくはアルミの上に, 様々な模様などを印刷した薄い樹脂のフィルムを張り付けているのである。 何と現在8色グラビアの印刷が可能とのこと。

かつては缶の表面に直接印刷(というより塗装?)していた。 最近デザインに凝った缶が出てきた背景にはこういう技術革新があったのである。

その他に, 大和製缶からは X線を用いた缶の品質管理装置などが出展されていた。 また, IH(炊飯器に使われている, あれ)を用いて瞬間的に缶を暖めて販売するIH自販機も登場。現在の「あたためっぱなし」の自販機に比べてかなりの省エネ効果が見込めるようである。

■SixPak を紙にした人々 - Mead Packaging

mead booth mead package
さほど広くはないとはいえ, 結構な数のブースを徘徊した我々であったが, 胸につけた恥ずかしい手製の名刺を見て呼び止められたのはここ mead のブースだけであった。

この会社 mead はなんと, 木箱で売られていた SixPak を 初めて取っ手付きの紙パックにつめて販売することを発明した会社なのだそうだ。 最近では瓶の SixPak はすたれたが, 逆に缶を6本ないしは12本などでカラフルな紙箱につめたものは良く見られるようになった。 じつはあれもこの Mead Packaging の商品である。 紙箱だけ市販してもらえると缶の整理に便利かもしれない(笑)

今回の展示ではコカ・コーラ, ペプシをはじめ様々な会社の清涼飲料水のパッケージが展示されていた。 中でもコーク瓶の形を摸した缶のパッケージは, 現在アメリカの一部で試験販売中のレアものである。

アメリカの mead 本社にはホームページがあるが, 残念ながらパッケージ事業に関してはあまり詳しくないようだ。 ホームページによるとアメリカの mead 本社は製紙業を中心に様々な事業を展開しているようである。 発祥の地がアトランタであったことが歴史の妙だ。

それから, 最後になりましたが 株式会社ミードの河内さん, ありがとうございました。

■社長, 溶けました!! - Tic Gums

TicGums booth 我々が Tic Gums のブースをふらっと覗いていると, なんだか随分と気さくな外人のおっちゃん(あとでこの人が社長と判明した)が声をかけてきて, 水の入ったコップを渡された。 それからおもむろに白い粉を入れられて, スプーンで混ぜろという(英語で)。 混ぜてみるとねちょねちょしてなかなか溶けない。

これはアラビアガムと呼ばれるものだ。 缶コーヒーなどを飲むと, 原材料に「乳化剤」なんてものが入っている場合がある。 これはミルク中の油脂分が分離することを防ぐために必要で, ココアなんかでは内容物が沈殿しないようにするために入っていたりもする (この場合は安定剤と呼ぶようだ)。 その乳化剤の一種がアラビアガムである。

ところが次に渡された方の粉は, 少し混ぜただけですーっと溶けてしまう。 これが Tic Gums の新製品で, 要は「溶けやすいアラビアガム」である。 いままで4時間かかっていたアラビアガムの攪拌工程を大幅に短縮できるとの触れ込みだ。 なかなかすごいぞ, 社長!

この社長, さらにすごいのは全然商売にならん我々相手に熱っぽく新製品の説明をするだけでなく, 名刺はくれるはマウスパッドはくれるわ, 日本の代理店のおっちゃんはとても苦笑いをしていた(笑) みんなも TicGums のアラビアゴムを買ってお風呂に入れると底にぬめぬめが沈まなくて幸せかもしれないぞ!

ちなみに TicGums にはホームページがある。

■紙パック復権? - 凸版印刷

Toppan booth 最近競馬場や屋内の待合室などの自販機で, 紙でできた缶が売られていることがある。 これは「カートカン」といい, そのほとんどが紙でできていながら, 従来の紙パックのようにつぶれて中身が飛び出すようなことがない。 ほとんどが紙でできているから容易にリサイクルが可能であるというのが売りである。

この凸版印刷の「カートカン」。 コストの面では通常のスチール, アルミの缶に迫りつつあるようだ。 係りの人に聞いてみると, 賞味期限が最長で180日と短いのと, 炭酸飲料が入らないのが現時点での問題らしい。

■そして, 取材を終えた一行は?

Ichiro's face Fusuke's face
AsiaBev'97 は業界人向けの見本市だが, その隣では共同開催という形でなんと「地ビールフェア '97」が開催されていた。 これはチャーンス! 逃す我々ではない。

・・・というわけで, うまいビールと不健康的なおつまみでご満悦の一行であった。

年々急速な成長をとげる清涼飲料水業界。 その力強さを肌で感じた一日であった。


注釈

SixPak
瓶のコークを6本セットにしたもの。 1920年代の不況を機にアメリカで販売が開始され, 家庭用冷蔵庫の普及とともにコークの新しい流通形態として家庭に定着した。

乳化剤・安定剤
ミルク中の油脂や蛋白質, ココアなどは疎水性(水分子と仲の悪い)のコロイドとなって水に溶けている。 だが疎水性のコロイドは水中のイオンの働きで簡単に凝集してしまい, 固形物が沈殿したり液が分離したりしてしまう。 そこで通常は澱粉などに代表される親水性(水分子となじみやすい)のコロイドを加える。 この場合の親水性コロイドは保護コロイドと呼ばれ, 疎水性のコロイドを包み込んで水に溶けやすくする。 これが乳化剤・安定剤の働きである。 墨汁は炭素の疎水性コロイドに保護コロイドとしてにかわを加えたものだ, なんてことを高校の化学で習った人も多いと思う。 以上の説明, 間違っていたら突っ込んでください。


[12月号表紙]
コーラ月報12月号

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