特集

ローカルコーラの普遍性と多様性

中本 晋輔

コーラ白書の最終的な目的は、コーラの収集ではありません。 われわれが目指すものはコーラ全般における分析と研究、 更に言えば「コーラを学問する」ことです。 今回はコーラ月報の特集の場を借りて、 これまでの研究の成果の一部を論じたいと思います ・・・・・って、 そこの貴方!そんなに気合入れて読まなくても大丈夫ですよ。 コーラ白書の私的感想を書いてる人間がやってるんですから。 肩の力を抜いて、新しくなったコカ・コーラでも飲みながらさくさくっと読んでください。

今回はマイナーコーラについての地域における普遍性と多様性に焦点をしぼろうと思います。 5大コーラ(コカ・コーラ・ペプシ・RC・ジョルト・シュエップス)についてはまたいずれ、 ということで。

1.アメリカ合衆国

1.1 すべてコークの類似品?

マイナーコーラは大きく2つに分類できる。 飲料メーカーが直接製造販売するものが一つ。 もう一つはスーパーが自分のブランドの一つとして販売するもので、 これは「Homebrand」とも呼ばれる。アメリカへ行けば、 コーク・ペプシを除くメーカーのコーラに対し ホームブランドは圧倒的に優勢であることに気付くだろう。 Joltなんてどこで売ってるか知らんもん。 ホームブランドの特徴として2つの点が挙げられる。 価格の低さが身の上である以上、 缶のデザインも簡略な物が必然的に多くなる。 強烈なインパクトを持たせる必要も無く、 色彩は Coca Cola と同じ赤地に白と銀の物が圧倒的に多い。 Costcoの simply soda cola や Food4Less の Vintage Cola などはその好例といえよう。

1.2 スーパーの名を冠するコーラ

ホームブランドコーラは殆どのスーパーがそれぞれ所有している。 そのため宣伝効果を見こしてスーパーそのものや それを連想させる物の名前をコーラの名称にする事が多い。 例えば大手 Walmart の Sam's choice COLA シリーズは社長Sam Walton氏から命名されたものだし、 南部に展開するBasher martのホームブランドはそのもの Bashas' COLA である。 日本の「SAVING(ダイエー)」や 「topvalu(ジャスコ)」のような安さをアピールしている冠名とは明確な違いがあり、 興味深い。 またアメリカのスーパーには自社コーラの自販機を前に設置している所が多く、 広告塔として重要な役割を担っている。 価格は店で買うより若干割高で1本30セントくらい。 Costcoなどは自販機ごと販売していた($1700)が、それはやり過ぎやろう。

2. 西ヨーロッパ

2.1 ドーバー海峡という壁

欧州のマイナーコーラを分析すると、 デザインの傾向が他と全く異なる国があるのに気付く。 アメリカと同じ言語を話す国、イギリスである。 ここではイギリスと その他のヨーロッパ諸国のコーラデザインの違いについて論じる事にする。 イギリスのコーラはアメリカ色が非常に強い。 これはアメリカのコーラとデザインがよく似ているという事ではなく、 アメリカという国のイメージを強く打ちだしているという事である。 St.Michael COLAAMERICAN STYLE 等はその典型と言えよう。 日本でもこのような傾向は見られるが、ここまで強い物は希である。 また PREMIER colaMANHATTAN Diet Cola のように、 自由の女神や摩天楼といった アメリカ東海岸のイメージを強く打ち出したコーラがあるのも特徴である。

2.2 少数原色主義

これに対して,他の西ヨーロッパ諸国のマイナーコーラのデザインには 一貫した特徴が見られる。 まず色数が少なく、つや消しの原色系の色彩である事。 そしてデザインがシンプルで、アメリカを連想させる記述がほとんど無い事である。 Liko ColaVIVO COLACola 等、 赤のみ又は赤をベースに紺や黄色の幾何学模様のデザインの物が多数見受けられる。 缶がメタリックな物は少なく、イギリスやアメリカの物に比べ力強さに欠ける印象がある。 イギリスと非イギリスのコーラがいつ頃から違う方向性を持ったのかは定かではない。 ただこの違いの根底にはコーラに対するイメージの違いがある事は歴然としている。 イギリスはアメリカに、親近感とともに羨望を抱いているのかも知れない。

3. 日本

3.1 アメリカに憧れるコーラ達

次に日本のコーラについて触れておこう。 94年にアメリカ製コーラの輸入が本格化し、 それまでとは打って変わって激しい生存競争が展開された。 現在(97年春)ではかなり沈静化したが、 当時凄い量のコーラが輸入され、さまざまな名称で販売された。 日本のマイナーコーラの特徴の一つは、 アメリカを意識したネーミングである。 ローソンの Cola of America を筆頭に、ダイエーの Saving Cola from U.S.AU.S. ColaAmerican Cola など、枚挙にいとまが無い。 またアメリカの地名を使用するコーラも多いが、 その地名が西海岸に集中する傾向が見られる。 例えばCalifornia ColaやLos Angeles Cola、SACRAMENTO COLAなどがその好例で、 各社イメージを作り出すのに必死である。

3.2 価格破壊の嵐

94年以来、日本におけるマイナーコーラの価格は一気に低下した。 以前なら自販機で¥110でも見られた輸入コーラが30円台にまで急落したのだ。 このころから大手スーパーもアメリカに倣って独占輸入コーラを売るようになった。 和製ホームブランドの誕生である。

日本のスーパーは自社製品に安さをアピールする冠名をつける事が多く、 必然的にコーラもその名を受ける。 ダイエーのSAVINGを始めジャスコのtopvalu、西友の百選廉価、 マイカルのSuper price等がそうで、 それぞれ独自のホームブランドコーラを所有している。

4. 日英コーラの普遍性

4.1 新製品でもクラシック?

ここまでは国別に論じてきたわけだが、 最後に日本とイギリスのコーラの傾向についてまとめてみよう。 この2国のコーラに見られる共通点は、アメリカのイメージである。 コーラ発祥の地はアメリカであるので当然と思われるかも知れないが、 ヨーロッパや中国のローカルコーラにはこの傾向はほとんど見られない。 日英のコーラにはアメリカらしさを強調するために、 星を入れたり"Made in U.S.A"をわざわざ目立つところに書いてみたりと 涙ぐましい努力が見られのである。
また両国ともタイトルやロゴの周りに "Classic"や"Original American style"といった表記を入れたがる。 特にClassicに関しては米コカ・コーラ社のCoca Cola Classicの影響が強いと思われる。 コカ・コーラの場合は カンザス計画 での調合変更を元に戻したという意味で使われているので、 名前だけを模倣するのは少々あさはかな気がするのだが。

4.2 少しでも近いアメリカヘ

日英両国ともにアメリカの地名を冠したコーラは多い。 使用している場所はそれぞれ違うが、そこには共通点が見られた。 先も述べたようにイギリスのコーラが使用するデザインは、 ニューヨークの摩天楼や自由の女神などに集中する。 私の知る限りCaliforniaの地名のものは一つも無い。 それに対し日本のものはすべて西海岸である。 アメリカ関連のデザインを持つ廉価コーラは約20所有しているが、 東海岸系のデザインの物は LibertyCOLA 一本(自由の女神)のみである。 このように両国とも自分に一番近いアメリカの地名をコーラに付ける傾向が見られる。 これは単に輸入元の地名であるだけではなく、 消費者にもっとも馴染みのある地域名を使用する事によって より「アメリカっぽさ」を演出する効果的な手段といえそうだ。


コーラのデザインや命名法は、国や地域によって大きく左右される。 味よりイメージといわれるこの業界で競争を生き抜いてきた コーラの外見的特徴というのは、 その地域の人の持つコーラのイメージと言ってしまっても過言ではあるまい。


[5月号表紙]
コーラ月報5月号

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