コーラ白書
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2001年1月号
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中本 晋輔

第2次世界大戦はそれまであった習慣や文化を大きく変えた。その中でも清涼飲料業界は砂糖の統制という大きな制約を受け、最も大きな変化を強いられたものの一つである。今回は半世紀前の戦争中に作られたPEPSIのシロップボトルを紹介したい。

1943年にマサチューセッツで作られたこのボトルは、一見昔のPEPSIのボトルと同じである。しかし中身はペプシコーラではなく、ペプシの原液であるという点でこのボトルは通常のアンティークボトルと大きく異なる。この奇妙なボトルの由来を語るには歴史的な背景が必要となる。

1930年代PEPSIは16オンスボトルを発売し、コカ・コーラへの反撃を開始した。ところが真珠湾攻撃により第二次大戦が勃発するとアメリカ政府はコカ・コーラを優遇し、PEPSIはライバルに大きく水をあけられる。物資統制のため砂糖が配給制となり、コーラを満足に生産する事すら難しくなったのである。

戦前PEPSIは店に卸す原液(Fountain Syrop) を5ガロン(約18リットル)の缶に詰めて出荷していた。しかし戦争により生産力の低下したPEPSIはこれまでのような原液の大量供給が不可能となり、代わってこの「ミニ・シロップ」が生まれたのである。限られた原料で少しでも多くの人にPEPSIを飲んでもらいたいという彼らの意気込みが伝わってくるようだ。

このボトルのデザインは当時の12ozボトルと基本的に同じ。"PEPSI"と"Cola"の間に点が2つある「ダブルドット(PEPSI:Cola)」ロゴやショルダーに施されたエンボスが特徴である。通常ロゴの上には"SPARKLING"とあるが、このボトルでは"Fountain Syrop"となっている[写真]

またこのボトルの裏面にはPEPSI COLAの作り方が事細かに書かれている。それによると 1. 10オンスのグラスに原液1.5オンスを入れる 2.砕いた氷を入れる 3.炭酸水を入れて 4.長いスプーンでかき混ぜて(客に)出す、となっている。コカ・コーラの原液:炭酸水の比率1:5に比べて、若干ペプシのほうが濃い目に作ってある事がわかる。またかき混ぜるのは「LONG SPOON」でなければならないらしい。

もう一つ興味深いのがその横に記された原材料だ。これによると、当時のPEPSIには「コーラナッツの抽出物」が使用されているのである。現在一部のドラフト・ニューエイジコーラで見直されつつあるものの、天然のコーラナッツは現在ほとんどのコーラでは使われていない。昔は原材料を表記する義務がなく、このボトルは当時のコーラの原料を知る上で貴重な資料であるといえる。

結局このボトルが製造されたのは1943年のみで、現存する数は決して多くない。たまに海外のオークションサイトに出てくることがあるので、興味のある方はチェックしてみては如何だろうか。


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