コーラ白書
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コーラ津々浦々スペシャル「コーラ白書、電波にも乗る」

中本 晋輔

「Fwd:中本晋輔さんご出演依頼」というタイトルのメールが社会評論社のH氏から来たのはエイプリルフールの日だった。氏特有の改行のない文章を解読してみると、どうやらコーラ白書の出版社にマスコミの方から出演の問い合わせがあったということらしい。メールの発信元はテレコム・サウンズ。

今年1月の日経新聞掲載直後にテレビ局から出演の依頼を頂いた事があったが、これまではずっとお断りしていた。時間や構成面で一方的な話が多かったし、あまり露出するのも気が進まなかったからだ。

添付ファイルのファイル名「安住紳一郎の日曜天国」を見ても、あまり気持ちは動かなかった。テレビを見ない私は芸能界にものすごく疎い。槇原敬之と牧伸二を混同するくらいのレベルである。アナウンサーともなるとその傾向はさらに拡大し、失礼ながら名前を聞いてもまったくピンとこなかった。

しかしファイルを開けて写真を見たとたん、名前と顔が一致した。「さんまのSUPERからくり」に出ていた人だ!番組ではかなりいじられていた記憶があるが、その人間的で面白いキャラクターは私の記憶にもしっかりと残っている。聞けば人気男性アナウンサーランキングで2年連続1位に選ばれ、うちの嫁のおかあさんもファンだという(蛇足)。

資料によると「〜日曜天国」というのはTBSラジオの日曜日午前の番組。アナウンサーの安住さんと中澤有美子さん出演する生放送番組で、私に出演依頼が来ているのはその中の「ゲストdeダバダ」というコーナーであった。

資料曰くこのコーナーは「ちょっとマニアックな話題で盛り上がるゲストコーナー」。説明には「専門分野のスペシャリストなどもお迎えする、11時台の看板コーナー」とあり、つまりコーラについて安住さんと半時間トークしろということらしい。その上この番組は関東ローカルの生放送。大阪在住の人間にとっては、地元で放送されない上に日曜日の午前中に東京まで出かけなければならない。

これまで頂いた依頼の中では最もハードルは高かったが、資料を読み終わる頃には出演してみたいなと思うようになっていた。資料がきっちりしていて印象が良かったし、何よりラジオの30分の枠をコーラ話だけで引っ張るというスタンスがとても魅力的だったからだ。

 


 

人事から「出演に決裁不要」の返事が届いたのがのが4月4日。先方の出演希望日まであと1週間強しかない。とりあえず土曜の朝一に電話を入れて、出演可能な旨を留守電に残しておいた。

夕方に担当者から折り返しの連絡があり、出演についての説明を受ける。番組の趣旨、朝10時に東京に来れるかどうか、領収書をTBSラジオでもらってくること等。事務的な話を一通り聞き出演をOKすると、この後ディレクターから電話が入るのでそこで話してくれとのことだった。

移動中だったので少し遅めを希望すると、「こちらは遅いぶんには問題ありません」とのこと。土曜日の夜はスタジオで待機しているので、遅いほうが良いのだという。大変な仕事である。

ディレクターのTさんから電話があったのが8時半を少し過ぎた頃だった。一通り挨拶をすませると、いつもの疑問が口をついて出る。

「あの・・・コーラなんですけどいいんですか?」

Tさんは大丈夫ですよと笑う。曰く安住さんは炭酸フリークで、コーラについてもとても興味があるのだという。安住さんが関心があるかどうかというのがテーマ選びの一つのポイントで、そこでコーラ白書にお声がかかったらしい。

それでもラジオといえば公共の電波なわけで、コーラの話などを乗せて良いものかと考えていると、

「この前は階段マニアの方に出演いただいて、東京のオススメ階段ベスト3なんてやりましたよ。ラジオでやるかって企画ですけど(笑)」

とTさん。ちょっと心が軽くなった。

 

Tさんは書籍版でコーラ白書の存在を知ったそうで、かなり読み込まれている印象を受けた。コーラ研究を始めるきっかけや「なぜコーラなのか?」という(しごく真っ当な)疑問・私自身のバックグラウンド等について詳しく聞かれ、いろいろと説明をさせて頂いた。

「日曜天国」のようなフリートーク的な番組でも台本は存在する。しかし丸暗記してそのとおりに進行させる杓子定規的なものではなく、おおまかに話の内容を決めた「構成台本」と呼ばれるものだという。本番ではそれをベースに安住さんがアドリブを交えて話を進めるため、台本どおりに進む事はまずないとのことだった。

その台本の中心にくるのが「ベスト3」的な話題。コーラだと「面白コーラベスト3」みたいな話になるのだが、これが意外と難しい。ラジオという音だけの世界だと面白いデザインパッケージなどは伝わりにくいし、味を言葉だけで説明するのもかなり難しい。リスナー層の年齢が比較的高く、例えば「キューリ味のペプシ」みたいなキャッチーな話題が受けるのかという問題もあった。そもそも、「面白いコーラ」って何よ?

またTさんが気にされたのがベスト3のタイトル。タイトルを聞いて話の内容が分かってしまう、つまり「出落ち」になると後を聞いてもらえないという事なのだ。このあたりがラジオの構成らしくてとても興味深い。

議論を重ねたが結論に至らず、金曜日の夜に再度打ち合わせをする事になった。

その後に送られてきたメールによると、当日は10時半までに赤坂のTBSセンターに行かなければならないらしい。前職の本社がすぐ近くだったのだけど、午前中の会議に当日出発で行くのはかなり大変だったことを思い出しちょっとブルーになった。テレコン設定はないのかしら?

 


 

Tさんから構成台本の原稿が送られてきたのは金曜日の夜9時過ぎだった。Wordで3枚ほどの内容で、私の略歴紹介の後は後は安住さんの質問に私が答えるという構成で進む。例えば

Q:そもそもコーラってどういう意味なんですか?
→ コーラ(Cola)という言葉は南米産の植物「Kola」に由来

といった、実に素っ気ない感じなのだ。

9時半頃にTさんから電話。挨拶もそこそこに、台本の内容をひとつひとつ潰していく。実は間違えて年齢を33と言ってしまい(実際は32歳)気づかずにそのまま放送してしまったのだけど些細なことである。

件のベスト3は二人でかなり悩んだが、結局「世界の深いコーラ話・TOP3」という内容で次の3つを取り上げる事になった。

(1)ドラフトコーラ
(2)プレミックスコーラ
(3)イデオロギーコーラ

(1)は10年ほど前にアメリカで流行した、高級材料を使ったプレミア系コーラのお話。RC Draftなどがその例である。また(2)はオーストラリアで根強い人気を誇るアルコール+コーラ飲料。当初コンビネーションコーラにしようかという話もあったが、より話の想像がつきにくいこちらに決まった。また(3)はコーラと政治のお話。編集者H氏が喰いついて離れない、ポリティカルな話題である。

こうやって見るとやや堅く無難にまとまった印象であるが、不特定多数の人にアクティブに情報を発信する以上これくらいのほうがいいのかなと思ってみたりした。

結局翌日の12日夜にもう一度電話で打ち合わせをして、細かいところを詰める。この後この台本で安住さんと打ち合わせをするという。30分の枠にこれだけ時間をかけるというのは、つくづく大変なお仕事である。

 


 

本番の4月13日、日曜日。朝5時半に起きてとりあえずメールをチェックすると、ほんの1時間ほど前に構成台本の最終稿が届いていた。慌ててプリントアウトして空港に向かう。

日曜日早朝の伊丹空港は人もまばら。2階のカウンターで手書きの領収書を発行してもらい、ついでにアップグレードをお願いする。最近は当日空きがないとアップグレード特典が使えないのだが、この時間だと余裕で席が空いている。実際プレミアムシートの乗客は私を含めて3人だけだった。

機内で朝食のお粥を食べながら、構成台本に目を通す。生放送に出るという実感がじわじわと湧いてきて、はやくも緊張気味である。窓の向こうに目を凝らすと、雲海に埋もれた富士山の頂が見えた。

9時5分に羽田空港着。冷たい霧雨が降っている。モノレールの休日500円チケットで有楽町まで行って、そこから二重橋前まで歩いて千代田線で赤坂へ。いつももっと簡単なルートがあるのではないかと思うのだが、まだ見つけられないでいる。

赤坂のTBS前は前職の時に何度か前を通ったことがあるが、まさかここに入る時がこようとは思っていなかった。受付で名前と番組名を告げると1回限り有効なゲスト用パスを発行してもらえた。それで自動改札のようなゲートを抜けて、エレベーターで9階へと向かう。なんか緊張してきたよ。

TBSの9階はスタジオが7つ集まるラジオ専門のフロアのようだ。エレベーターを降りると生放送中らしいラジオ番組が聞こえてきて、ホッケの話題で盛り上がっている。フロアマップで見ると、今日の第7スタジオは中でもかなり大きなスタジオのようである。

中は雑然としたオフィスといった雰囲気。パーティションの奥には机が並び、書類が山積みにされているところもある。人の気配はするけれど皆さん忙しいようで訪問者に気づいていない様子。仕事の邪魔になってもなんなのでと暫く入り口でラジオを聴いていると、Tさんが迎えに来てくれた。

ざっくりとした服装のTさんは、思っていたより小柄な方だった。曰く土曜日から日曜日にかけてはスタジオに泊り込みで仕事をしているのだという。安住さんの予定が空くのが土曜日の深夜以降なので、その後に日曜天国の打ち合わせを2時ごろまでして、それからゲストdeダバダの構成台本を作り直したとのことだった。おつかれさまでございます。

パーティションで区切られた部屋で最終の打ち合わせ。構成台本の内容の簡単な確認をした後、でも多分この通りには進まないですよと笑う。昨日(正確には今日)の安住さんとの打ち合わせから、台本以外にもこんなコーラにまつわる話が出そうだけど大丈夫ですかという確認が入る。

Tさんが強調されたのは、安住にすべてを委ねてくださいという点だった。進行や振りは全て彼が状況を判断してやるので、それにあわせてお話をすればよいという事らしい。構成台本は進行を決めるものではなくて、こういう話題をするかもしれませんよといういわばネタ帳のようなものなのだ。

逆にしゃべるとマズい事はと聞くと、意外な事に特にないという。唯一Tさんが気にされたのがスポンサーのカワチ薬品に対してのネガティブな発言だが、今回の話題ではそんな話題は出そうもない。メッカという言葉は放送禁止用語とされているそうだが、今回紹介する「メッカコーラ」と固有名詞なので問題ないとのことだった。。「チベットフリー!」とか叫んでも大丈夫だったのだろうか?

その後は打ち合わせ部屋でラジオを聴きながらスタンバイ。こんなに緊張して聞いた交通情報は初めてである。

 


 

11時前に呼び出しがかかり、第7スタジオへと向かう。扉の上には「On Air」の赤いランプが点っている。

この第7スタジオは円を真ん中で区切ったような形をしている。左半分が安住さんや私がトークをする部屋で、ここで話した内容がそのままラジオで放送される。

大きな窓のある明るい雰囲気の部屋で、真ん中のテーブルを囲んで4人が座れるようになっている。天井から黒いメッシュつきのマイクが口の前になるように吊るされている。

右半分が音声さんなどのスタッフが詰める部屋で、こちらは機材だらけの薄暗い雰囲気。区切りの部分には大きな窓があり、隣の部屋の様子がすぐに分かるようになっている。スタッフの方が計器類のならぶコクピットのような機材の前に座って、窓越しに放送の様子をじっと伺っている。

暫くスタッフさんの部屋で放送を聞きながら待ち、CMに切り替わった時にTさんについて隣の部屋に移動。放送室は防音仕様のようで、恒温室のような大きなレバーで開閉するドアがついている。

テーブルの入り口側には安住さんとTさんが、その反対側には中澤さんと私が座る。安住さんと私は対角線になる位置である。Tさんは番組ではしゃべらないけれど、私の対面に同席している。テーブルの上にはCoca-Cola、Coca-Cola Zero、PEPSI、PEPSI NEXが並んでいるが、前の紙コップには緑茶が入っている。

音声が切り替わっているCM中は、この部屋で唯一雑談ができる時間である。安住さんは昔テレビで見たものと同じ、真面目で穏やかそうな印象の方だった。

テーブルに置かれたアナログの置時計の上のランプが赤く光る。On Airの合図である。

「時刻は11時になりました。この後はコーラ白書・世界のコーラ編著者、中本晋輔さんをお招きします。どうぞお楽しみに」

私の名前がラジオで流れたと思うと、いやがおうにも緊張が高まる。

時計のランプが消え、再度CMに入る。私の緊張を感じたのだろうか、安住さんが話しかけてくれる。二言三言交わしてすこし解れたところで本番の合図が入った。

「おまたせいたしました。それでは今日のゲスト,中本晋輔さんです。おはようございます」

「おはようございます。よろしくお願いします」

ここを噛まずにクリア。第一関門突破である。私の略歴を簡単に紹介した後、安住さんがしみじみと

「コーラですかぁ・・・」

一言目から台本と違う展開だ。

炭酸フリークを称するだけあって、安住さんのコーラに関する知識はなかなかのものだった。昔はボトリング会社が沢山あって長野で飲んだコカコーラが一番美味しい、とかボーリング場にはペプシが多かったような気がする、とか。それを上手い流れで質問として投げてくれるので、それに答える形で気持ちよく喋らせてもらいながら番組は進行する。

とりわけ安住さんはプレミックスコーラの「お酒ブランド+コーラ」というコンセプトが面白かったらしく、日本酒でコーラを作ってはどうかという話で盛り上がった。「黄桜コーラ」とか「コーラ・どん」など、かなり快調に引っ張った後に

「中本さん、面白くないですか?」

といきなり振られた。ラジオで笑ってもいいのか? むしろ突っ込むべきなのか? ゲストが突っ込むのはアリなのかと悩んでいる時だったので、これは結構焦った。

やり取りの中で印象に残ったのが、安住さんの「場を読む」能力の高さだった。こちらがもう少し話を膨らせそうだと感じるとそれを引き出し、話題が途切れそうになると次の話題へと誘導する。ここで助け舟が欲しいなと思ったときには必ず助けてくれる。初対面の人間とこれだけ呼吸を合わせれるというのはすごい、と思った。

昔見たテレビ番組の中でいじられ系という印象で、失礼ながらやや頼りない部分があるのかと勝手に想像していた。しかし実際に同じスタジオで話をさせてもらうと、実に安心して話をさせてもらえる頼もしい存在だった。第一線のアナウンサーの凄さを垣間見る事ができた。

収録風景

コーラの深い話TOP3が終わり、リクエスト曲の「旅立ち」が流れ始めると、On Airのランプが消えてようやく一息つくことができた。壁の時計を見るともう11時20分を回っている。

「すみませんね。バラバラの話になっちゃって」

とすまなさそうに安住さん。むしろ個人的にはコーラが安住さんにとって興味のあるトピックだった証拠だとポジティブに捕らえてみたり。

曲の後半に差しかかったあたりでスタッフの方がスタジオに飛び込んでくる。何事かと思っていると、さっきの放送を聞いたリスナーの方からメールやファックスが届いているということだった。それをリクエスト曲の間に検討し、面白そうなものをすぐに紹介するのだという。正直ラジオがここまでリスナーとタイムリーに繋がっていると思っていなかったので驚いた。

Tさんがメールを印刷した紙を机に広げ、どの話を取り上げるかを検討する。中でも面白かったのは、「50年前位前の話ですが缶入りのクラウンコーラというものを飲んだ記憶があるのですがあれって世界初のコーラなのでしょうか」というお便りだった。そのほかにも今はないミッションコーラの話など、リスナーの年齢層が伺える渋いメッセージが並ぶ。

50年前のクラウンコーラというのは、おそらくRoyal Crown Colaのことだろう。当時壽屋(現在のサントリー)が米RC社と提携し国内での販売を手がけていた。このときのパッケージの商品名の「ローヤル」の文字がなぜかやたら小さかったことから、クラウンコーラとして記憶されていたのだろう。

ちなみにローヤルクラウンコーラは日本初の「缶入り」コーラである。缶入りといっても当時はプルタブのような気の利いたものはなく、缶切りで上蓋に穴を開けて飲まなければいけなかった。その話をすると安住さんが

「こっちに3つ、反対側に2つ空気穴あけて出すんですよね」

と話に乗ってこられてちょっと驚いた。私は昔の缶とか見て知ってるだけで、実際にジュース缶に穴あけて飲んだ事ないのだけど。安住さんたしか3歳上なだけのはず・・。

この他にもミッションコーラの話やコカ・コーラの瓶のくびれのについての質問などを取り上げて、少し話をしたところで番組も終わりに近づいてきた。安住さんと中澤さんがコーラについてきれいにまとめて頂いて、番組は無事終了。気持ちよくしゃべらせてもらった、あっという間の30分だった。

その後CMに切り替わった間に片づけをして、スタジオから退出。Tさんからは「全然緊張してなかったですね」と言われたが、手にじっとり汗をかくほど緊張していた。それがトークに出なかったのは、ひとえに周りの方々のプロフェッショナルなお仕事のおかげである。

 

Tさんに見送られてエレベーターを降り、パスを返却して外に出ると雨はもう止んでいた。普段なにげなく聞いているラジオ、その形なきものづくりに関わる方々の仕事を直に感じることができたのが今回の最大の収穫だった。

収録終わり

最後にこの場をお借りして、ディレクターのTさんに厚く御礼申し上げます。