中本 晋輔 季節外れの嵐で、その日のアムステルダム行き列車はすべて運休だった。 キャブで数時間かけてそのホテルにたどり着いたのは、夜の9時をまわった頃だった。隣のロングコートの男性はチェックインの傍ら、いかに嵐が大変だったか大げさな口ぶりで話している。暖かな部屋で荷物を解き、窓に打ち付ける雨越しに通りのネオンを眺めていると、ふとキューバリブレが恋しくなった。 そのホテルのバーHouse Barは、0階のフロントを抜けた奥にある。内装は重厚だが、ダンスミュージックが流れるコンテンポラリーな雰囲気は重苦しさを感じさせない。 大きな大理石のカウンターの一番端の席に座り、メニューにないキューバリブレが作れるかと聞いてみる。「Okay... i can make one for you」とバーテンダーは笑い、立派なタトゥの入った手ですぐに作り始めた。 はたして出来上がったのは、重厚なステンレスタンブラーに入った一杯だった。クラッシュアイスの上には、赤いリキュールのかかった薄いレモンが一片の。これまで飲んだどのキューバリブレとも異なるマチュアな佇まいだ。 調和のとれた滑らかな口当たりに、ようやく肩の力が抜ける。レモンの余韻を楽しんでいると、不意に舌先にスパイシーな刺激を感じた。Mangaloreだろうか、レモンの上の赤いリキュールがこの心地よいアクセントの犯人のようだ。 この美味な一杯に、私の期待は良い意味ですべて裏切られた。アメリカ大陸で生まれたシンプルなカクテルにこんなウィットを利かせてくるとは。アムステルダムの懐の深さが凝縮されたような、実にスリリングで楽しい一杯だった。 酔いが回って少し饒舌になった私はバーテンダーに礼を伝え、このレシピはオランダではよくあるのかと聞いてみた。彼は笑いながら肩をすくめた。 「don't know... I'm from California」 ここでは何事も思い通りにいかないものだが、とてもいい気分だった。 ◇ ◇ ◇
今月のキューバ・リブレ Kimpton De Witt Amsterdam
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