甘味料概論 特別編「躍進するスクラロース」

中本 晋輔

今、アメリカで清涼飲料の人口甘味料の勢力図が大きく変わろうとしている。これまでアスパルテームの牙城であったダイエットソーダ業界で、新甘味料「スクラロース」が急激にシェアを伸ばしているのだ。米コカ・コーラはDiet Cokeにアスパルテームを取りやめ、2月よりスクラロースを使ったダイエットコークをリリースすると発表。PEPSIも自社のダイエットコーラブランド「PEPSI ONE」の甘味料をスクラロースに切り替えるという。

スクラロースとは

スクラロースの構造式
図1:スクラロースの構造式。紫で示した塩素(Cl)以外は砂糖と同じ構造である。

スクラロースの正式名はトリクロロガラクトスクロース。図1のような、スクロースの水酸基3箇所が塩素に置き換わった構造をしている。サッカリンやアスパルテームなどと違い、天然の糖をベースとしているのが特徴である。

砂糖の約600倍と、甘味度ではアスパルテームを凌ぐ。やや後を引くものの砂糖に近い味質が特徴で、ダイエットコーラから焼き菓子まで使える汎用性の高さがウリだ。

甘味を与えるメカニズムについては明らかにされていないが、レセプターが立体構造の類似したショ糖と勘違いして信号を送るからと言われている。しっかりしろ、味蕾!

スクラロースの発見は1976年。英Tate & Lyle社とロンドン大学との砂糖の有効利用に関する共同プロジェクトの中で、砂糖のハロゲン誘導体が強い甘味を示すことが確認された。様々な誘導体のなかで、新たな甘味料候補として白羽の矢が立ったのがこのスクラロースであった。

一分子中に塩素が3個も持つ禍々しい分子構造ではあるが、FDAやEU食品化学委員会などで安全性が確認されている。現在59カ国で認可されており、日本でも1999年に認可が下りている。FDAはOKでもBlue Angelには引っかかるので注意が必要だ(註1)。

Splendaまた140℃以上で長時間処理すると塩化水素ガスが発生するとの報告(註2)もあり、オートクレーブ等でダイエットホットコーラを作るときには注意したい。

米国ではアメリカではSplendaという商標で、卓上用のダイエット用甘味料として販売されている(註3)。国内では株式会社三栄源が販売権を獲得しているが、現在一般消費者向け販売は行っていない。

アスパルテームとの違い

アメリカのダイエットソーダ市場でスクラロースへの置き換えを進める、そのドライビングフォースは何なのだろうか。アスパルテームとの違いについて考察してみたい。

スクラロースとアスパルテームの最大の違いは、その味質だろう。

アスパルテームは独特の後味があり、これを打ち消す為にアセスルファムKという別の甘味料と混合して使うのが最近の定石となっている。日本のダイエットペプシやダイエットペプシツイストがこの例だ。

これに対してスクラロースは、人口甘味料の中では比較的後味が残りにくい。このためスクラロース単体でも味質のよいダイエット飲料が作れるというメリットがある。特に健康志向が高まりを見せるアメリカでは味の良いダイエットコーラの開発が急務であり、スクラロースはうまくこの流れに乗った格好だ。

またアスパルテームの欠点の一つに、長期安定性に劣る点が挙げられる。これは分子構造にエステル結合をもつため、高圧・酸性(つまり缶コーラの内部)などの条件下では加水分解を起こしてしまう為だ。このためアスパルテームを使ったダイエットコーラの賞味期限は通常の半分程度しかない。(図2)

代表的なコーラの賞味期限の比較
図2:代表的なコーラの賞味期限の比較

これに対してスクラロースはエステル結合を持たないため、食品内での安定性に優れる。藤井正美著「スクラロースの全て」にはズバリ、コーラ中の安定性のデータが掲載されている。それによるとpH2.6のコーラ内で3ヶ月経過してもスクラロースの含有率にほとんど変化は見られない。この甘味料を用いることにより、長期保存可能なダイエットコーラが誕生する可能性は十分ありそうだ。

コーラとスクラロース

スクラロース入りのダイエットコーラが世界ではじめて誕生したのは1998年。「業界初」に命をかけるRoyal Crown社(現Dr Pepper & Seven-Up Inc. )が、米国の認可直後にDiet Royal Crownに採用している。RC社は「ノンアスパルテームコーラ」と大々的に謳ったが、悲しいかな当時はごく一部でしか話題にならなかった。

99年に国内で認可されると、ダイエーなど一部のPBコーラで採用される例が見られ始めた。

スクラロースが2大コーラメーカーに採用されたのはその5年後。日本コカ・コーラがDiet Coca-Colaのマイナーチェンジでスクラロースを採用した。ただし当時はアスパルテーム・アセサルファムKとの併用で、味質改善目的の感が強かった。

この翌年の「低カロリーコーラ戦争」では、両陣営が新製品にスクラロースを採用した。特にペプシ陣営のPEPSI EDGEは高果糖液糖/砂糖+スクラロースという、アスパルテームを廃した組み合わせであった。(註4)

Diet Coke Sweetend with Splendaそして05年2月、コカ・コーラはスクラロースを前面に打ち出した新ダイエットコーラ「DIET COKE SWEETENED WITH SPLENDA」(長っ!)の発売を発表。その2ヵ月後、ライバルのペプシも自社のダイエットブランド「PEPSI ONE」の甘味料をスクラロースに切り替えると発表した。

この背景には、米国での低カロリー志向の高まりがある。汎用性の高いスプレンダは現在4000を超える食品で採用されており、供給が追いつかないほどの人気という。その勢いはTate & Lyle社が07年までに2工場を新設することからも伺える。

興味深いのは、コカ・コーラ・ペプシともにアスパルテームを使ったコーラも販売し続けることだ(註5)。今の流れには乗りたいが、新しい甘味料に全面的に切り替えるのはリスクが大きいという判断なのだろう。

今後スクラロースのコーラが主流になるかどうかは、この夏のアメリカの市場動向に大きく依存することになるだろう。

■参考

「高甘味度甘味料 スクラロースのすべて」(藤井正美 監修・光琳)

数少ないスクラロースについての専門書。客観的に書かれてはいるが、端々に三栄源との仲のよさが伺える。

うーん、会社勤めてから論文検索する機会が・・・

Tate & Lyle社 公式ホームページ

開発元のホームページ。意外にスクラロースの記載は控えめ。

Sucralose Homepage

国内販売元である三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の、スクラロースについてのページ。日本語はいいですね。


(註1)ブルーエンジェル: ドイツの提唱する環境ラベル基準。0.5%以下のフッ素系難燃助剤を除くすべてのハロゲン化合物を禁止している。食品の基準ではありません。[詳細]

(註2) 日本共産党が03年に国会で取り上げている。さもありなんな話。[詳細]

(註3) デキストリン・マルトデキストリンとの混合として販売されている。

(註4) コカ・コーラのC2は高果糖液糖/砂糖・スクラロース・アスパルテーム・アセサルファムKという節操のない組み合わせだった。

(註5) コカ・コーラはCoca-Cola ZEROで、PEPSI はこれまでどおりDiet PEPSIでアスパルテームを使用する予定。


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