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中本 晋輔 電車から降りた瞬間、嫌な予感がした。ホームや改札が人で、それも子供連れの家族でやたら混み合っているのだ。数日前まで続いた長梅雨の憂さを晴らすような夏空で、既に気温は30度を超えているだろう。夏休みの土曜日とはいえ、これだけの人が真夏の公園に押しかけるとは思えない。 帰りの切符の購入を促すアナウンスを尻目に大阪城公園駅の長いスロープを降りてゆくと、あちこちに黄色いT-シャツを着た人が立っている。その胸に見覚えのあるライオンのイラストを認め、悪い予感が現実のものになったことを確信した。 「COKE EXPO」はコカ・コーラ生誕120周年を記念して行われる今年のキャンペーンの目玉だ。「見て(History!), 遊んで(Play!), 飲む(Drink!)」をテーマに特設ラウンドテントで全国13箇所をキャラバンするという、近年まれに見る大規模なプロモーション企画だ。5月5日で東京でローンチしたこのイベントが、7月29日に9番目の開催地・大阪にやってくるのだ。History! だけ名詞だとか、そんな細かいことを気にしている場合ではない。 曰くここではコンパニオンによりただでコカ・コーラが振舞われ、貴重なグッズやコーラの歴史を見ることが出来るという。しかしそれ以上に私の心を掴んだのが、先着で各会場オリジナルのヨーヨーが配布されるという点だった。公式サイトには「プレゼント数は会場により異なります」とかかれているが、オークションなどでも出回っていないところをみるとかなり数は少なそうだ。 かくして7月29日、この幻の(?)ヨーヨーを一目見るべく休みの日なのに目覚ましを合わせ、颯爽と大阪城公園に向かったのであった。 見慣れたライオンとは、無気力な瞳がチャーミングな「らいよんチャン」。大阪毎日放送(関西では毎日は4ちゃんなのだ)のマスコットキャラだ。この日は毎日放送主催の夏休みイベント「オーサカキング」の初日だったのだ。 確かにCOKE EXPOの大阪だけ、7月29日から8月6日までと妙に長いことは気になっていた(他会場は土日2日間、東京のみ連休で3日間)。開催時間も変則的なのでなにか別のイベントと共同開催かと思っていたのだが・・・。 開催日程と一致するところを見ると、EXPOはオーサカキングに取り込まれてしまっているようだ。 テレビ局が主催するこのイベントは関西では知名度が高く、集客力もかなりのものだ。その初日とあればガ・・お子様の多さも納得できる。 しかしこのとき、私はまだオーサカキングの真の力を知らなかった。 大阪城ホールを左に折れて、トンネルを抜けると太陽の広場が見えてくる。入り口からのぞいてみると、左の一番手前に真っ赤なラウンドテントが見えた。間違いない、奴はライオンキングの中だ。会場40分前とあって、黄色いTシャツのスタッフが最後の準備にひっきりなしに出入りしている。 40分ほどどこかで時間をつぶそうと回りに目を向けて、驚愕した。 この炎天下の中、すでに入り口から長蛇の列が出来ているではないか。列は入り口付近から公園の外周沿いに続き、角を折れてさらに伸びている様子。どこまで続いているのか見当がつかない。 恐るべし夏休み!恐るべしオーサカキング! 「べ、別にヨーヨーが欲しいわけじゃないんだからね」とひとりごちたところで、この行列は予想外。とりあえず並ばねば。角を折れて200メートルほど行ったところで、「最後尾」のプラカードを持ったスタッフを発見。ディ○ニーランドかよ! いちおう入場チケットなどがいらないことを確認し(「無料っス」と答えてくれた)、ベビーカーで子供を連れた家族の後ろを確保。並んだ後も人は加速度的に増え、気のいい最後尾兄ちゃんはあっという間に見えなくなってしまった。 予想外の展開に動揺した私は、夏のアウトドアの鉄則を忘れていた。飲み物を買いそびれてしまったのだ。真夏の日差しがジリジリと地面を焦がす中、半時間以上も水分なしで耐えなくてはならない。よほどお茶でも買って並びなおそうかと思ったが、ハンパでない勢いで伸びる行列を前にタイミングを逸してしまった。 周りを見れば、ほとんどが家族連れか学生の友達グループ。汗だくで朦朧としながらオーサカキングの開場を待つ30のおっさんの姿は、ちょっとした不審者に映ったことだろう。しかしここまで来て引き返すことは出来ない。不退転の決意を胸に、灼熱の30分を耐え抜いた。 らいよんちゃんのゲートをくぐれたのは11時を5分ほど過ぎた頃だった。人々がお目当ての場所に散っていく中、まっすぐ赤いテントに足を向けた。 COKE EXPOの会場となるラウンドテントは幅10メートル、奥行き4メートルくらいのかなり大きなものだった。正面がカウンターになっていて、コカ・コーラのロゴ入りユニフォームを着たコンパニオンが冷えた190mlガラスボトルとリーフレットを配布している。カウンターの前には曲がりくねったロープの誘導路があり、かなりの来場者を想定している様子。ロープを抜けて、カウンターでコーラをもらって左の入り口からテントに入る順路らしい。 と、誘導路の入り口で紙切れを配っている人を発見。よく見ると、件のヨーヨーの整理券ではないか。軽やかにゲットし目的は達成されたが、熱射病寸前の私には冷えたコカ・コーラの方がうれしかった。 中はちょっとした資料館のようで、コカ・コーラに関する様々なアイテムが時代別にディスプレイされていた。本物とおぼしき初代ハッチンソンボトルや陶器のディペンサー(写真下)など貴重なアイテムが無造作に展示されていて、こんなテントで大丈夫かと心配になるほど。また日本のコカ・コーラグッズを集めたコーナーもあり、小さいながらも充実した内容の展示であった。 もっとも長時間外で開場待ちをしていた人々にとっては「冷たいコーラのもらえる屋根つき休憩所」という認識のようで、展示に見入る人は少なかった。 奥の角にはPlay & Fun というイベントスペースがあり、ここで整理券とヨーヨーを交換してもらえる。今回のヨーヨーは「スーパーヨーヨー」と呼ばれる樽型タイプ。ボディの”2006. 7.29 - 8.6 OSAKA”の刻印がコレクター心をくすぐる。配布数を確認したところ、大阪バージョンは全部(9日間)で480個とかなり少ない。これでは出回らないはずである。 このコーナーでは世界チャンピオンによるヨーヨーのデモンストレーションとか、過冷却冷蔵庫(凄い名前だ)を使ったシャーベットコカ・コーラの実演などもあるそうだが、このときはなにもやっていなかった。 出口の横には寄せ書きコーナーがあり、ここでコカ・コーラへの熱い思いをぶつけることが出来る。書き込むと特製ステッカーがもらえ、寄せ書きは期間終了後にサイトにUpされるらしい。一瞬「DASANIは水道水」とかブラックなコメントも浮かんだが、晒されてしまいそうなので今回はパス。 気合を入れてみて回っても所要時間は10分程度。出口で空のビンを渡して終了だ。出る頃には整理券の配布は終了していた。 その後子供を掻き分け、這う這うの程でオーサカキングを脱出。すでに公園の外にまで伸びた入場者の列を見つつ、ヨーヨー1個にこれは割にあわんなぁと思った。 |
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