コーラ白書
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中本晋輔

私がそのコーラの存在を知ったのは3月の中旬のことだった。Googleのアラートが、「伝説のコーラ復刻???」というブログを引っかけたのだ。そのリンクをたどっていくうちに、自らのテンションがどんどん高まるのを感じた。

伝説のコーラ、「コガ・コーラ」復活。

コガコーラと言えば、半世紀ほど前に九州で販売されていたローカルコーラである。古賀さんの経営する古賀飲料が作ったコーラだからコガ・コーラ。決して安易なパチモンではないのだ。

古賀飲料は91年に廃業していて、コガ・コーラもずっと昔に姿を消していた。しかし2005年『探偵ナイトスクープ』で取り上げらたれことで、一躍有名になったのだ。その時は古賀さん本人が番組用に1000本だけ再生産し、公開収録に立ち会った人だけに振る舞われたと言われている。

その幻のコーラが復活するのというのだから、これはじっとしていろと言うのは無理というものだ。

 


 

西日本新聞によると、この復活劇の仕掛け人は地元の市商工会と酒店経営の坂田伸二さん。記事にはコガ・コーラを持った坂田さんの写真が大きく掲載されていた。このコーラ、地元特産品販売所「鉱泉の駅」の開店に向け、その良質な天然鉱泉をPRする目的で作られたものらしい。

鉱泉の駅のウェブサイトには「コガ・コーラ復活物語」なるタイトルのブログがあり、復活までの過程がややハイテンション気味に描かれている。こいつは本物だ!

しかしここで、ちょっとした問題があった。

コガ・コーラの発売は、「鉱泉の駅」がオープンする3月28日(日)。本来なら前泊してでも当日にゲットしたいところだが、こともあろうかこの日から海外出張が入ってしまったのだ。ぐぐぅ。なぜ今回に限って日曜出発・・・

ブログをみるかぎり限定生産ではないようだが、このコーラの話題性から考えて売り切れる可能性は十分にある。そう思った私はブログの管理者である筑後商工会議所にメールを送り、坂田さんとコンタクトをとることに成功。取材とコガ・コーラを1本だけ確保してもらう約束を取り付けたのだった。

 


 

コガ・コーラ、完売!

JR鹿児島線・船小屋駅に降り立ったのは、4月初旬の小雨の降る日だった。無人駅のホームからは古びた 「船小屋炭酸温泉」の石碑と、その向こうに真新しい九州新幹線の高架が見える。

そして改札口のところには仕掛け人、坂田さんの姿があった。写真の印象どおり、ダンディで気さくな方だ。

「え、5時の飛行機で帰るの?飛行機の変更きかない?」どうやら坂田さんはコーラだけでなくこの船小屋温泉郷全体のツアーを考えてくださっていたらしい。なんかスミマセン・・・

 

この船小屋温泉郷には矢部川を挟んで2つの鉱泉がある。今回訪れた鉱泉の駅は川の北側、筑後市にある長田鉱泉に位置する。鉱泉の駅は基本土日のみの営業なので、この日は特別に開けてもらった(重ねがさねスミマセン)

シャッターを開けてはじめに目に入ったのが、「コガ・コーラ完売しました!」の立て看板だった。やはり読みは正しかった。アポなしで来てたらマジ凹みするところだった。

「こんなに反響があるとは思ってなかったよ」と坂田さん。西日本新聞で取り上げられてからは商工会議所に問い合わせが殺到し、ラジオやテレビも取材に来たという。

その結果、100ケース(2400本)準備したコガ・コーラは4月4日午前中で完売。なんと2.5分に1本売れた計算だ。中には複数ケースを大人買いした猛者もいたという。この日も定休日にも関わらず数組のお客さんがコガコーラを求めて店を訪れており、その人気の高さを伺わせた。

そして件のコーラは店舗の奥、木箱の中央に鎮座していた。復活したコガ・コーラは小ぶりな瓶とクラシカルなロゴデザインの、古き良き時代のテイスト全開のコーラであった。

 

したたかなる戦略

改めて坂田さんにコガ・コーラについて伺った。

コガ・コーラは旧瀬高町(現みやま市)の古賀飲料が製造していたローカルコーラで、この地では50歳以上で知らぬ者のいない「思い出の味」なのだそうだ。

このコーラを復活させる計画を温め続けていた坂田さん。それを後押ししたのが九州新幹線の開通だった。この期に船小屋温泉郷を復活させようという動きが地元の商工会を中心に起こり、プロジェクトチームが結成された。この中で、テレビでも有名になったコガ・コーラで鉱泉をPRする計画が出来上がったという。

実は今回のコガ・コーラは、旧コガ・コーラとは別物なのだ。コーラのベースとなる水には長田鉱泉の良質な炭酸水を使用している。コーラの製造は佐賀県の老舗飲料メーカー、友桝飲料が担当しており、当時よりもかなり美味しく上品に仕上がっているとのことだった。

レトロ感漂うパッケージについては、オリジナルのボトルがどうしても手に入らず『探偵ナイト・スクープ』の映像からロゴを起こしたという。オリジナルは印刷ボトルを使用していたが、今回は汎用のボトルにステッカーを貼ることで小ロット生産に対応している。

坂田さんの話の中で何より興味深かったのが、このコーラの運営方針である。コガ・コーラは船小屋温泉郷と長田鉱泉のPRのために作られたもので、原則この鉱泉の駅でしか販売しない。原則というのは周辺のイベントで臨時販売することがあるためで、それ以外では通販を含め一切拡販する予定はないとう。

既に大手コンビニチェーンからの再三の取次依頼を断っているように、この方針は揺るぐ様子はない。つまりコガ・コーラを飲むには、ここ船宿温泉郷に脚を運ぶしかないのだ(註1)。

コーラの知名度を生かした見事な町おこし戦略である。

船小屋温泉郷「鉱泉の駅」

コガコーラは1本200円也
友桝飲料の製品も展示されていた
鉱泉の駅オリジナルお菓子も

 

日本一の炭酸水

日本一の鉱泉水と名高い長田鉱泉の取水場は、鉱泉の駅のすぐ近くにある。六角形を二つ組み合わせたような、レトロモダンな木造の建物だ。中には小さな神棚とともにセメント製の取水口があり、お金を入れると鉱水が出るようになっている。

坂口さんの勧めで少し飲んでみると、しっかりした炭酸が口の中に感じられる。そして何とも言えない甘さ。実に軽やかで美味しい鉱水である。

長田鉱泉の水は日本有数の炭酸含有量で知られ、その濃度は2000ppmにもなるという。市販のビールが4000〜5000ppmなので、実にその半分くらいの炭酸が自然に湧き出ているのだ。

そしてもう一つの特徴は、この鉱泉が軟水である点。そのため口当たりが良く、とてもまろやかで飲みやすい。鉱泉といえばミネラルをふんだんに含んでいるイメージだった私には、この味わいは衝撃だった。

確かにこの鉱泉を使えば、美味しい炭酸飲料ができそうな気がする。しかし坂田さんによると、天然の鉱泉を飲料水として認証してもらうのには苦労したという。現在のコガ・コーラには原料の水の一部にこの鉱泉水が使用されている。

興味深いのは、川を挟んだもう一つの鉱泉「船小屋鉱泉所」の水はとびっきりの硬水である点だ。こちらは日本一の含鉄炭酸泉として知られており、口に含むと血の味がする。長田とは取水深度が違うとのことだが、同じ泉源でこれだけ水質が変るというのは驚きだった。

 

コガ・コーラにかける想い

「コガ・コーラの役目は、ほぼ終わりなんですよ」

久留米の豚骨ラーメンを食べながら、坂田さんはそう言った。意味が分からず戸惑っている私に坂田さんは笑いながら続けた。

「これだけ話題になって、船小屋を宣伝してくれたんでね。今のこのブームはすぐに去るだろうけど、コーラを売ることじゃなくて船小屋に興味を持って足を運んでもらうことが目的だから。中本さんみたいにね」

なるほど。このコーラがなければ、私はおそらく船小屋に来ることはなかっただろう。コーラがここにあるからこそ、この地の鉱泉の味や美しい楠の林、船小屋温泉の歴史や天然樟脳の作り方を知ることができたのだ。私は坂田さんの作戦にまんまとかかったわけで、そしてそれに感謝しなければならない。

豚骨ラーメンとチャーハンのお代は、坂田さんが支払ってしまっていた。次回はおごってくださいと笑う坂田さんの言葉に、今度いつここに来ようかと思いを巡らせた。

 


 

ちなみにコガ・コーラの次回入荷は5月8日の予定だそうだ。現地で予約も受け付けているので、興味のある方は足を伸ばしてみては如何だろうか。

復活させたコガコーラとサクラジミーを手にする坂田さん。「鉱泉の駅」にて

取材に快く応じて頂いた坂田さんに、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

参考

*鉱泉の駅 - 船小屋温泉郷公式 WEB − コガ・コーラの最新情報はここでチェック。

(註1)コガ・コーラと同時に復刻された鉱泉ラムネとさくらジミー(サイダー)は他所での販売が検討されているとのこと。