コーラ白書
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空港を出ると異国の香りがした。

モロッコの玄関口、カサブランカに降り立ったのは真夜中だった。モハメド5世空港のコンコースや高速道路は清潔でよく整備されていて、アジアのような混沌とした雰囲気は感じられない。しかし空気に混じった微かな異質な匂いが、日本から遥か遠くにいることを強烈に意識させた。

北アフリカは昔から訪れたい土地だった。それは、コーラがかつてこの地で大きな転機を迎えたからだ。第二次大戦中、北アフリカ戦線の連合国軍最高司令官アイゼンハワーは本国にコカ・コーラの供給を要請。これを契機に北アフリカにコカ・コーラの工場が次々と建設され、コーラが世界的に広がる礎になったと言われる。

イスラムの文化圏であるこの地で、コーラはどのように受け容れられているのか。それをぜひ自分の目で見たくなったのだ。

 


 

翌朝。けたたましいクラクションで目を覚ました。窓から外を見ると、前の道が出勤の車で溢れている。チェックインが深夜だったので気づかなかったが、前の通りにはアール・デコ調の白い建物が並んでいる。名前負けしているホテル「プリンスオブパリ」も、ロケーションはそう悪くないようだ。

ホテルの朝食はハムとチーズとパンがメインのヨーロッパ式。カフェオレとクロワッサンが美味しいのは、フランス領だった頃の名残だろうか。レストランにいるのはヨーロッパ系とアメリカ系の団体旅行客がばかりで、アジア系の客は我々だけだった。

チェックアウトを済ませて、街へと繰り出す。エントランスからまっすぐ歩くと、フロントの言葉どおり10分ほどでメディナ(旧市街)が見えてきた。モロッコのメディナは城壁に囲まれた昔の市街地で、内部は迷路のように入り組んでいるという。比較的歴史の浅いカサブランカのメディナはそれほど難易度が高くないそうなので、モロッコ初心者にはちょうどいいかもしれない。

時計台の近くの大きな門を抜けてメディナの中へ足を踏み入れると、中には白壁の小さな建物が軒を連ねる。あちこちに小さな店や屋台があり、巨大な商店街のような印象を受けた。

道路はきれいに整備されて歩きやすく、道もそれほど複雑ではない。やや肩透かしだったが、曲がりくねった道のせいで角を2つほど曲がるともう方向感覚が怪しくなる。あいにくパンくずを持ち合わせていないので、迷いながらも人の流れに沿って歩くことにした。

 



メディナを歩くと飲料やお菓子を売る小さな店をあちこちで見かける。幅は2メートルあれば広い方。店の幅いっぱいに商品の詰まったカウンターがあり、その奥にいる店主がどうやって店に入ったのか不思議になる。このような商店がメディナのコンビニの役割を担っているのだろう。

そしてそんな商店の上には必ず食品会社の小さな看板がいくつか並んでいる。中でもよく目についたのがコカ・コーラとラフィングカウ(フランスのチーズメーカー)の看板だ。コカ・コーラの看板の中には古いロゴデザインのものも多く、古くから同社がこの地で販促活動をしていたことを伺わせる。

対してペプシは数が少なく、また看板も新しいものが多い。最近になってようやくメディナに参戦したのだろう。

旧ロゴのコカ・コーラの看板
ペプシ(右)とラフィングカウ(左)

人の流れに身を任せて歩いていると、メディナの西の端までやってきた。城壁の外には生鮮市場があり、様々な匂いが混じる。買出しの時間なのか周囲がかなり混雑してきた。

門の近くの白い建物を見て驚いた。カフェの上の白壁一面に巨大なコカ・コーラのロゴが描かれてるのだ。塗料の剥げかけたその看板は、ロゴのデザインから見ても10年以上前に描かれたものだろう。地元の市場の前にこれほど大きな広告を打つあたりに、新興国でのコカ・コーラの強さと貪欲さを見た気がした。

 

 

 


 

もうしばらく散策した後、国連広場近くのマクドナルドでお昼ご飯。セットの内容は日本のものとやや異なるが、価格はおおむね50DH(550円)程度とあまり変わらない。現地の人からするとかなり高級なレストランの部類に入るに違いない。コーラSに至っては10DH(110円)と日本より高かった。

その後、プチタクシーを拾ってハッサン2世モスクへ。このモロッコ最大の規模のモスクは、主要人数は2万5000人を誇る巨大な建造物。石造りのミナレット(尖塔)の高さは200mに達するという。この日はイスラムのお祈りの日だったので我々異教徒は中に入ることができなかったが、外からその造型の美しさを眺めるだけでも十分に価値があった。

その後ホテルで荷物をピックアップし、ガイドさんの車でカサ・ヴォワジャー駅まで送ってもらった。カサブランカには鉄道の駅が二つある。メディナ近くのカサ・ポール駅は主に首都ラバト方面で、次の目的地であるフェズへは少し離れたカサ・ヴォワジャー駅から乗らなければいけない。

カサ・ヴォワジャー駅は白壁の瀟洒な建物で、どこかヨーロッパの香りがする。電車の時間は比較的正確で、また駅の中には英語の電光掲示板があり旅行者にもちゃんと配慮されている。後輩が「モロッコの鉄道は京阪電車より分かりやすい」と言っていたのも納得だ。

15時15分発フェズ行きの列車は10両程度編成で、我々の座席は最後両の一等車だった。寝台車のように窓際に通路があり、6席からなるコンパートメントが並んでいる。車内は清潔で心地よく、空調もほどよく効いている。移動中の揺れが少ないのも、移動中に書きものをする身にはありがたい。噂には聞いていたが、予想以上の快適な列車の旅だった。

 

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