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最近、新しいコーラの飲みかたが巷で人気だという カリモーチョ。 そのエキゾチックな名前と裏腹に、その中身は赤ワインをコーラで割っただけの実にシンプルなもの。しかしラムを割ったキューバ・リブレと違って、その名前をバーのカクテルリストに見ることは少ない。しかし居酒屋やスペインバルなどの中心に、その知名度はじわじわと広がっている。 今回はこの不思議なカクテルを取り上げてみたい カリモーチョの起源カリモーチョは主にスペインで広く親しまれているアルコール飲料だ。赤ワインにジュースや果物を混ぜたサングリアと同じく庶民的な飲み物で、「貧者のキューバ・リブレ」という不名誉な名前で呼ばれることもあるという(註1) その起源には諸説あるが、ある老舗のバーテンダーによると、カリモーチョはメキシコで生まれた古いカクテルだという。 1920年までスペインの植民地だったメキシコには、本国からワイン文化がもたらされた。一方でメキシコは最も早くからコカ・コーラが進出した国のひとつで、1897年にはすでに販売されていたという記録がある。おそらくこの頃にコーラとワインこの地で出会い、カリモーチョというのみ方が生まれたのだろう。 奇しくも同時代に隣国のキューバで独立戦争が勃発。その最中にラムをコーラで割った有名なカクテル「キューバリブレ(キューバの自由)」が誕生している。しかしキューバリブレがアメリカに渡り世界的なカクテルに登りつめたのに対し、カリモーチョはスペインに渡りバスク地方でローカル飲料として定着した(註2)。 カリモーチョは一般にカクテルとは認められておらず、そのレシピは日本バーテンダー協会の「新バーテンダーズマニュアル」を含めほとんどの書籍に掲載されていない。ウェブ上のレシピでもコーラと赤ワインを使う点が共通しているだけで、銘柄や比率など細かいことは決まっていないようだ。 興味深いのは、多くのレシピで「安いワインを使用すること」とされている点。スペインの国民的飲料・サングリアと同じく、カリモーチョも安いワインを美味しく飲むための知恵なのだろう。
では何故スペインのローカル飲料が日本で突如ブームになったのか。仕掛けたのはどうやら日本コカ・コーラであるようだ。 サントリーが火付け役となったハイボールが日本中の飲食店を席巻する中、日本コカ・コーラはコーラを使った新しいアルコール飲料を模索。女性に人気の赤ワインに着目し、これをコカ・コーラで割る飲み方を「発掘」したと考えられる。
同社は2011年頃から飲食店用のポップ配布やイベントなどのマーケティング活動を積極的に展開。そカリモーチョ導入店のコーラ販売量が大幅に増加するなどの実績を挙げている(註3)。 しかし現状は一部の飲食店で導入が進むものの、ウェブ上ではステマ的なブログが散見される程度で本物のブームにはなりきれていない印象を受ける。今後の動向に注目したい。
カリモーチョを飲んでみようカリモーチョとはどんな飲み物なのか?雰囲気の異なる3つの飲食店で飲み比べてみた。 ■ もつ鍋のおともに 一軒目は大阪のJR福島駅前にモツ鍋専門店「モツ鍋チャンピオン」。上品なスープのモツ鍋をリーズナブルな価格で食べれる福島の人気店だ。ここではマッコリやチューハイに混じってカリモーチョが頑張っていた。
ここのカリモーチョはチューハイ用のジョッキに氷をたくさん入れ、その上からワインとコーラを入れた豪快なもの。上にちょこんと乗った薄切りレモンがチャームポイントだ。
赤ワインのタンニンがコーラで和らげられ、すっきりとした飲み口。でも後味はしっかりと赤ワインなので、飲み応えがある。大衆的な味わいで、モツ鍋やナルムとも意外とよく合う。 料理は違えど、庶民的で騒がしい店の雰囲気で飲むカリモーチョはスペインで愛されている飲み方に近いのかもしれない。
■ ワインのお店のカリモーチョ 2軒目は心斎橋にある野菜とワインのお店「VegeTaru」。落ち着いた雰囲気の地中海料理店のメニューにも、カリモーチョの名前がある。 ワインのお店だけあって、ここのカリモーチョはよりワイン的な雰囲気が強い。ワイングラスで供されるカリモーチョには、小さな氷がひとつ浮かんでいる。 炭酸は弱めで、すっきりとした味わい。しっかりとしたワインの風味を残しながらも後味に渋みが残らないのは、軽めの赤ワインを選んでいるからだろう。 上品ながらも軽すぎることはなく、アヒージョやクワトロフォルマッジのような味の強い料理との相性が抜群。思わず2杯目を頼んでしまった、美味な一杯でした。
■TOP OF THE WORLD 3件目に訪れたのはパークハイアット東京52階の「ニューヨークバー」。都内の夜景を一望できる別世界のこのバーでは、メニューには載っていないが注文すればカリモーチョを作ってくれる。 ここのカリモーチョはカクテルと呼ぶに相応しい逸品。氷の下にオレンジとパイナップルを置いたロンググラスを赤ワインとコカ・コーラで満たしてある。ボティ感のある赤ワインを使いながらも、コーラとフルーツの香りで爽やかに仕上がっている。時間とともに味わいが変化するのも心憎い演出だ。
宝石のような夜景を眺めながら飲むカリモーチョは、まさに格別。ただこのバーの雰囲気に合わせて背伸びをしている点も否めず、もはや別物になっている気もする。 ちなみにこのバーには、コーラベースのオリジナルカクテル「THE CUBE」がある。
このように一言でカリモーチョといっても、お店の雰囲気やシチュエーションによってそのスタイルは異なる。それはカクテルではなく「飲み方」であるので、いくらでもアレンジができるためだろう。その自由さがカリモーチョの本質なのかもしれない。 → 後編 カリモーチョを作ってみよう!へ (註1)Kalimotxo - Wikipedia, the free encyclopedia (註2)カリモーチョの独特のスペル「Kalimotxo」はバスク地方の書き方だそうで、英語ではCalimochoと綴られる。 (註3)日本経済新聞 2012年2月8日 (註4)ひげのおじさんの正式名称は「キング・オブ・ブレンダーズ」という |