コーラ白書
TOP 四季報 データベース 缶コレ 資料館 殿堂 検索 ヘルプ

←インド・デリー滞在記(1)へ

軒の上の戦争

二日目はデリー市内に出た。午前10時ごろのデリー市内は特に車が多いそうで、あらゆるところで大渋滞が発生。三車線道路に車が4列で走ったり、隙あらば横からオートリキシャが強引につっこんできたりと、かなりカオスな状況。慣れない日本人が運転するのは不可能だ。

ドライバーさんに到着時間を聞くと、最後にかならず「渋滞次第だけどね」と笑うのが印象的だった。

渋滞が多いせいか、デリー市内では小型車が多い。特にマルチスズキ(スズキの合弁会社)が人気のようで、SWIFTやWAGON-Rをよく目にする。トラックやバスなどの大型車両はほとんどがTATA製だった。

コカ・コーラを輸送するトラックもTATA。

噂には聞いていたが、本当に牛や豚、イノシシが道を歩いているのには驚いた。首都の道路で神様に出会えるのは貴重な体験だ。

渋滞は仕事の上では好ましくないが、街を観察するには好都合。デリー市内にはコンビニや海外資本の大型量販店の姿はなく、個人商店やマーケットが小売の主流を占めているようだ。モールに行けばスーパーマーケットがあるそうだが、高くて品揃えが悪いのであまり使わないというのが現地スタッフの弁。

そしてコカ・コーラとペプシはここでも熾烈な戦いを繰り広げていた。飲料を扱う個人商店には必ずといってよいほど、どちらかのコーラの大きな看板がかかっている。

看板のデザインはペプシは右向きの男性(一部女性アリ)、コカ・コーラは左向きの女性。双方とも瓶からコーラをラッパ飲みする構図なのが興味深い。その横か下にはその店の名前が入っていて、店の看板の役割も果たしている。デザインはどの店も統一されていて、埃っぽいデリーの街にあってどれも鮮やかなのが印象的。おそらく両陣営が頻繁に更新しているのだろう。

一方独立した看板は少なく、壁や道のガードに年季の入ったロゴを見つける程度。インドではロゴだけでなく、実際に飲んでいる姿で訴求するほうが効果的なのかもしれない。

グルガオンからノイダにかけてざっと見た感じだと、ペプシとコカ・コーラの看板の比率は3:1くらい。軒の上の勝負はペプシが優勢のようだ。

5ルピーの魔法

仕事が一息ついた後、現地のスタッフが街角の小さな屋台に連れて行ってくれた。

古いコカ・コーラの屋台に板を渡した質素な作りのお店からは、よい匂いが漂っている。ここではスナックやタバコ、そしてインドの国民的飲料であるチャイを扱っている。スタッフさんにお願いして、チャイを一杯頼んでもらう。

注文して待つこと5分。出来たてのチャイが小さな紙コップに注がれてやってきた。力強い紅茶の香りとミルクのコク。甘すぎることはなく、後味に残る生姜とスパイスが絶妙だ。体に染みる滋味に、自然と顔がほころぶ。

この素敵な飲み物が街中でたった5ルピー(8円)で買えてしまうのがインドの凄いところだ。20ルピーのコーラがここまでメジャーなのが奇跡のように思えてきた。

インドのローカルコーラ

ペプシとコカ・コーラが火花を散らすインドのコーラ市場にも、外資系飲料が不在の期間があった。1977年にコカ・コーラが撤退してからペプシが1993年参入するまでの「空白の時代」、インドではローカルのコーラが大いに栄えた。なかでも代表格と言われるのがThumbs Up(サムアップ)とCompa Colaであった。

Thumbs Upは「Cola」の表記こそないものの、内容的にはほぼコーラと言える炭酸飲料だ。原材料には砂糖・カフェイン・カラメル・香料で、見た目も味もコーラ飲料(中東地域でも販売されているものにはCola flavoringという身も蓋ものない記載がある)。ブランドカラーは青で、親指を上げた(Thumb Up)赤いロゴデザインが印象的だ。

このThumb Upはインドで高い人気を誇り、2012年時点でコーラ系飲料シェアの42%を持つ(2位はペプシの36%)。元々はインドの飲料メーカーのブランドであったが、2003年にコカ・コーラ社が買収に成功。インドはコカ・コーラ社が2つのコーラブランドを並行販売するという、世界的にも珍しい状態になっている。

一方でCompa Colaは市場からほぼ姿を消しているようだ。地元の人も名前は知っているが、いまどこで手に入るかは分からないという。いろいろ探してはみたものの、街角の古い箱にその名を見つけただけだった。

瓶には一体何が入っているのだろう・・・

 

→ インド・デリー滞在記(3)へ