コーラ飲料は元々は薬から派生したものと言われており、黎明期にはコーラナッツなど様々な原材料を組み合わせたクラフトコーラが数多く作られた。その後100年の間にコーラは大量生産の道を歩み、レシピや製造工程は時代とともに工業化・簡素化された。現在のクラフトコーラブームは工業化されすぎたコーラの原点回帰と見ることができるのだが、それをもう一度工業的に大量生産しようとしたのが本品である。
これは例えるなら喫茶店の自家焙煎コーヒーを缶コーヒーで再現するような、非常にチャレンジングな商品開発である。過去にスパイス感を強化したサントリーの「生ペプシ」の例はあるものの、コカ・コーラを含め清涼飲料大手が本格的クラフトコーラを150円以下で商品化した例はない。
クラフトコーラの特徴であるフレーバーには瀬戸内産レモンピールエキスと、ナツメグ・シナモン・クローブ・カルダモンを含む10種類のスパイスを使用。老舗スパイスメーカー・ヤスマ株式会社のスパイスを使用し、プレスリリースでもこの点を強くアピールしている。ただし製造上の制約のためか、スパイスそのものではなく抽出物が使用される。
そして本品の特筆すべきは甘味料だ。原材料へのこだわりの強いクラフトコーラでは甘味料に砂糖が使用されるケースが圧倒的に多く、中には有機栽培の産地指定きび糖のみを使用するものまであるほど。ザ・クラフトコーラはメイン甘味料にアセスルファムKとスクラロースを採用し、人工甘味料のクラフトコーラという異色の商品設計。その割には低カロリーを謳っておらず、商品開発に紆余曲折があったことを伺わせる。
2021年6月21日発売された「初代」はスパイス感では本格的なクラフトコーラに及ばないながらも、複雑なフレーバーを手軽に(かつ低カロリーで)楽しめるという新機軸のコーラだった。ただ初代は後味の人工甘味料の風味が強く残り、飲み進むにつれてスパイスの風味が損なわれていくような印象を受けた。
その後ポッカサッポロは配合の見直し、9月6日に刷新版ザ・クラフトコーラを投入した。「スパイス感アップで、より複雑味のある味わいへ」と銘打たれたこの刷新版はスパイスの配合を秋冬に合わせて調整。甘味料も100%甘味料から果糖ブドウ糖液糖との併用に変更された。パッケージもテコ入れされ、スパイスのイラストや金色のボトルキャップが導入されている。
スパイス感については初期版との間に大きな違いは感じられなかったが、甘味料の変更により後味の風味は格段に改善された。ただ本格的なものに比べるとスパイスの風味や「食感」で届かず、「薄いクラフトコーラ」という印象は拭えなかった。せめて甘味料に砂糖を使っていれば・・という気もしないでもない。
ザ・クラフトコーラという名称とヤスマとのコラボ、そして発売から3か月で改良に踏み切るあたりにポッカサッポロの本気度を感じる一品だ。
当初一杯500円だったクラフトコーラも市場の広がりにつれてコモディティ化が進み、いまでは300円以下で提供するフードチェーンもある。本品が日本独特のクラフトコーラの市場をさらに広げる存在となるのか、注目したい。