コーラ白書
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サントリーの憂鬱

このメッツコーラの成功でもっとも慌てたのはサントリーかもしれない。

サントリーはメッツコーラを追撃すべく、ペプシブランドのトクホ商品に着手した。持ち前の開発力とトクホ申請のノウハウをつぎ込み、短期間でトクホコーラ「ペプシスペシャル」を上梓。2012年11月5日にトクホ許可を取得し、その8日後に発売という離れ業をやってのけた。

ペプシスペシャルはメッツコーラと同じく難消化性デキストリンを含み、食後の血中中性脂肪の上昇を穏やかにする。効果をうたう。ライバルとの差別化としてペプシコと培ったコーラ開発技術を強調。爽やかな後味を実現したとしている。

ペプシスペシャルの販売は好調で、サントリーは2012年の年間販売目標を上方修正したほどだった。しかしこの参入がペプシブランド全体の販売戦略に影を落としている。

1998年にペプシブランドのマスターフランチャイズ権を取得したサントリーは、コカ・コーラの牙城を崩すべく様々な販売促進を行った。社会現象にもなったボトルキャップのオンパックやスターウォーズとの提携、期間限定ペプシの導入など。その中で最も成功したのが、PEPSI NEXによるゼロコーラ市場への先行参入であった。

ペプシは2006年にオリジナルのダイエットコーラPEPSI NEXを発売したが、海外でのCoca -Cola Zeroのブレイクを受けて翌年にリニューアルを断行。フォーミュレーションの一新に併せてパッケージも黒基調に変更し、日本初の黒いゼロコーラとして3か月後に上陸したCoca-Cola Zeroを迎え撃った。

その後サントリーはペプシブランドの販促リソースを注ぎ込み、NEXをCoca-Cola Zeroと互角に戦えるブランドに育て上げた。同社にとってまさに虎の子の商品なのである。

しかしペプシスペシャルの発売により、サントリーはリソースを二方面に裂かなくてはならなくなった。また類似した商品を複数抱えたことによるシェアの共食いが起こり、NEXはCoca-Cola Zeroとのマッチレースから脱落した。

これは当然予想された結果だが、サントリーはリスクを冒してでもトクホコーラ市場の成長に賭けたのだろう。

2013年春、サントリーはNEXとスペシャルを一緒にした「ペプシは健康」キャンペーンを実施した。商品名を全面に出したキャンペーンが展開できないあたりに、現在のサントリーの苦悩がうかがえる。

王者の選択

これと対照的なのが日本コカ・コーラの戦略だ。同社はトクホコーラには手を出さず、ライバルの隙をついた既存市場の販売強化に動いたのだ。

ペプシスペシャルの発売によりNEXの販売が落ち込んだ2012年末、コカ・コーラは広告で「日本一売れているゼロカロリーコーラはCoca-Cola Zero」と宣言した。また2013年2月からは新キャンペーン「ゼロリミット 思いっきり味わおう」を展開。イメージキャラクターにEXILEを起用し、Coca-Cola Zeroの魅力を最大限に訴求した。

マーケットリーダーはチャレンジャーに同じ商品をぶつけるのがマーケティングの定石。しかしコカ・コーラは自社の商品の強みを考え、あえてトクホ市場に参入しないことを決めたようだ。これも立派な販売戦略といえるだろう。

不完全な免罪符

16世紀にカトリック教会が発行した免罪符は、お金を払うことで煉獄での魂が救われると説いた。しかしピザやハンバーガーを食べ過ぎた「罪」をトクホコーラで消すことは、残念ながらできないようだ。

トクホコーラの機能の由来である難消化性デキストリンは、あくまで脂肪の吸収を抑制する効果。ヘルシアの茶カテキンのように、体内の脂肪を積極的に消費させる力はない。

またその中性脂肪の吸収抑制効果も、残念ながらそれほど大きくない。キリンビバレッジが公開しているデータによると、メッツコーラによる血中中性脂肪の抑制効果は最大で10%程度【リンク。過剰な期待は禁物なのだ。

またトクホには有効な摂取量が規定されている。メッツコーラやペプシスペシャルは1日1本の摂取が目安。大量に飲んでも効果は期待できないばかりか、おなかが緩くなるケースもあるという。

トクホコーラの効能は限定的であると考えたほうが良いだろう。

 


 

その一方でトクホコーラと油ものを組み合わせたキャンペーンが目立つようになった。

2012年9月より投入されたメッツコーラの1.5リットルサイズには、亀田製菓の「こつぶっこ」がオンパックで供された。また某スーパーでは若鶏のから揚げと一緒に販売された例がある。ペプシスペシャルもクックパッドと連携し、がっつりレシピコンテストを開催している。

かくいう私もガッツリ系が好きな30代。トクホコーラのターゲット層のど真ん中であり、そのコンセプトは心に心地よく響く。ただ難消化性デキストリンにメタボリックの救世主を期待するのは、やや酷な気がしてならない。

 


 

キリンビバレッジが開発したメッツコーラは、その卓越した商品戦略で日本のコーラ市場に大きな変化をもたらした。消費者に新しいコーラの価値を提供したその功績は計り知れない。しかし健康食品の訴求は一人歩きしやすく、過大過剰となれば消費者を騙すことにもなりかねない。

世界にも例がない日本発の機能性コーラが、今後健全に発達していくことをコーラ白書は期待したい。

■ 参考文献

  1. For God, Country and Coca-Cola (MARKPENDERGRAFT著)
  2. 特定保健用食品データ集2009(日本健康・栄養食品協会監修)
  3. 特定保健用食品の科学的根拠 有効性・安全性データブック(清水俊雄著)
  4. トクホ「特定保健用食品」(中川邦男著)
  5. 「ヘルシア緑茶」-体脂肪を減らす飲料づくりを目指す[J-Net21]
  6. プロジェクトの原点 キリン「メッツコーラ」[OZmall]
  7. トクホのコーラが売れる事情[日経ビジネス]
  8. 消費者庁 食品表示