特別寄稿 コーラの二元論

オカモト

 光と影、男と女、善と悪、神と人、自分と世界、存在するものと存在しないもの、0と1。世界中には二元的なもので溢れている。それは産業界でも同じ事だ。ひとつの市場を2つの企業で二分することは、少なくない。例えば、MacとWindows、フェンダーとギブソン(ギターメーカー)。そして、これらの企業はいつも対照的である。MacとWindows;スティーブンジョッブス(ヒッピー)とビルゲイツ(オタク)。フェンダーとギブソン;クリーントーン(シングルコイル)と骨太サウンド(ハムバッカー)。

 黒い砂糖水をめぐるソフトドリンク業界に於いてもそれは例外でなく、大きな二つの対照的なメーカーが存在する。ペプシコーラとコカ・コーラだ。

 大学時代アメリカンスタディーズを教えてくれた教授がこんな事を言っていた。同じような商品が並んでいる時、消費者がどうやって1つのメーカーの製品を選ぶのか?例えば、たくさんあるデニム地のジーンズの中でどうやって一人の消費者がカルバンクラインのジーンズを選ぶのか?消費者が商品を買う時、彼等は同時に商品の持つイメージも買っている。

 確かに、僕が、コカ・コーラでなくペプシを選ぶ理由は、そのイメージにある。コカ・コーラとペプシコーラ、この二つの対照的な製品の持つイメージとは、どんなものなのか、比べて見よう。

 コカ・コーラ、それは言うなればアメリカである。どでかいキャデラック、ジェームスディーン、アールデコ、スターズアンドストライプス、そして女性を思わせるような美しいシェイプのボトルに入ったコーク。コカ・コーラのもつイメージは、変わる事のない、古き良きアメリカ。だからこそAlways Coca Colaであり、めったにボトルの売ってない最近でさえ、缶には、ボトルの絵がプリントしてある。このボトルは、彼等の持つブランドイメージの象徴であり、缶のパッケージにプリントするということは、そのイメージをアピールしようという事の表れなのである。

 だが、実はかわることのないはずのコカ・コーラのオリジナルの調合、マーチャンダイズ7Xに手を加えてしまったことで、後に歴史に残るほどの大失敗をしてしまった過去がコカ・コーラにはある。1985年コカ・コーラは原液の調合マーチャンダイズ7Xを変更し、オリジナルコークに変わってニューコークを発売したのだが、消費者の避難にあい、その3ヶ月後オリジナルコークをクラシックコークという名前で再び市場に戻したのだった。皮肉にも、この間コカ・コーラはコーラ市場1位の座をペプシに奪われてしまうのだった。

 つまりは、変わる事のないアメリカを象徴するようなコカ・コーラのブランドイメージを理解していたのは、消費者自身であったということだ。彼等が求めたのは、新しいコークではなく、変わる事のないAlways Coca Colaだったのだ。

 一方、ペプシコーラの持つブランドイメージは、コーラのそれとは、対極にある。

 最新鋭のある種未来的な、イメージだ。

 ペプシのキャッチコピーに"THE CHOICE OF NEW GENERATION" 「新世代の選択」というのがある。このコピーを使った、キャンペーンの中でも最も有名なものは、次のキャンペーンだろう。

 2つカップに注がれたペプシとコークと思われるコーラを飲んで、おいしいと思う方を選んでもらう。というものだ。

 ペプシの挑戦に於いてコカ・コーラが常に比較対象として置かれている。その後のペプシのコマーシャルを見ても明確だ。日本では比較広告は、あまり受け入れられない為か?あまり見る事ができないが、いくつかあげてみよう。

 まずひとつめ、場所は、未来の遺跡の発掘現場、つまりは僕らの現代に使われている物を発掘している。そこへ子供達が遊びに来て考古学者は、彼等とペプシを飲んで休憩する。すると1人が1つのボトルを発見する。その瓶のシェイプは明らかにコカ・コーラのものである。彼は学者にこれは、何か?と尋ねるのだが、学者は、それが何なのか全くわからない。そして再びペプシをゴクリ。どうやら未来で生き残ったコーラはペプシだけのようだ。

 その他にも、ソフトドリンクの自動販売機が並ぶ夜中の田舎町に突然UFOが飛んでくる。その映像はまるで「未知との遭遇」を思わせる。UFOから一筋の光がそそぎ、2つの自動販売機からペプシとコカ・コーラが1缶づつUFOに向かってゆっくりと吸い込まれていく。すばらくすると、ペプシの自動販売機だけが動きだしUFOは、その販売機を吸い込み、そして去って行く。画面に現れるThe Choice of The New Generationの文字。

 これらのコマーシャルからも明らかなように、ペプシは良きライバル、コカ・コーラに対して挑戦し続ける、その為に何か新しい事をしてくれるのではと消費者を期待させる。

 彼等のキャンペーンは常に新しさを提供する。”ペプシを飲んで宇宙旅行に行こう”、やスターウォーズ缶、この2つは未来をも連想させる。そして第一線で、活躍する注目のアーティストやスポーツ選手などを起用する。古くは、マイケルジャクソン、MCハマー、レイチャールズ、最近では、ベッカムを始め、ヨーロッパで活躍するサッカー選手。最近ではブリトニースピアーズ、ピンク、ビヨンセの3人が古代ローマの闘技場のような所で観客と一緒にクイーンのWe will rock youを熱唱するというコマーシャルがあり、その観客にまぎれて、ブライアンメイまで出演しているなんていうものまである。

 これらの人達は、世界を変えてしまうような、才能を持っており、彼等が起用されるのも、そのイメージがペプシの持つ変革のイメージと重なるからだろう。

 対極のイメージを有する、2つのコーラメーカー、ペプシとコカ・コーラ。この2つは、お互い商売敵であると同時に、ペプシがコカ・コーラを、そしてコカ・コーラがペプシを良きライバルとして互いに必要としている。同じ市場にこれだけ大規模な2つの企業が共存していられるのは、彼等の持つ全く異なるイメージのせいなのだろう。

オカモト氏( )はペプシ缶のコレクター。コレクションの一部をウェブサイトにて公開中。

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