コーラ白書
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翌日。居心地のよいリアドに別れを告げ、フェズの駅へと向かう。8時50分発の列車がマラケシュに着くのは16時05分。7時間15分におよぶ長旅である。

モロッコの鉄道の一等車両にはいくつかの種類があるようで、この列車は座席が通路を挟んで2列+1列に配置されたタイプだった。そのうちいくつかは固定式のクロスシートになっているので、運が悪いとずっと進行方向逆向きにに座らなければならない。2列席のクロスシートには小さなテーブルが壁に備え付けられている。

長距離のモロッコの列車には車内販売がある。2時間に一度くらい、制服を着た兄ちゃんがアルミの台車を押しながらやってくる。1段目にはコーヒーなどの温かい飲み物、2段目にはパンなどの食料品、ワゴンの一番下の段は缶ジュースが積まれていて、コーラはコカ・コーラとペプシの両方を扱う。時間によって品ぞろえが微妙に変わり、お昼時にはサンドイッチを山盛り積んでやってくる。

列車はカサ・ヴォワジャー駅を超えて内陸へと走る。このあたりから車窓の風景から樹木が消え、替わって荒地とサボテンの支配する乾燥地帯が現れる。サハラ砂漠の西の端である。車内の温度も徐々に上昇し、水の消費量が加速度的に増える。マラケシュに到着する頃にはすっかりのぼせ上ってしまった。モロッコ国鉄にはクーラーの改善を要望したい。

マラケシュでの宿はRIAD 72。マラケシュのメディナの中にある、フランス人か経営するリアドだ。中庭に大きな樹木を置いた豪華な作りで、ハマムまである(有料だけど)。フェズのリアドのようなアットホームな雰囲気はなく、洗練された「リアド風高級ホテル」と言った印象だった。

日没後、少しあたりを歩いてみた。マラケシュのメディナは道が広く、石畳でしっかりと舗装がされている。フェズのメディナに比べて道が分かりやすいので、ちゃんとした地図さえあれば迷うことはない。ただしバイクや自転車も走るのでのんびりと散策するには不向きだ。

カサブランカやフェズに比べて旅行客が多いせいか、観光客向けのお店が多いのも印象的。店で値段をふっかけられることも多く、良くも悪くも観光地だなぁと思った。

 



マラケシュ2日目。モロッコの地元スーパーに行ってみることにした。

当初はガイドブックに載っている「Marjane(マルジャン)」という郊外のスーパーに行こうと思っていたのだが、すぐ近くにもスーパーがあるとリアドの主人が教えてくれた。Marjaneより規模は小さいがモロッコの日用品は一通り揃っていて、歩いて行ける距離にあるという。

スーパー「Aswak Assalam」はドゥカラ門の近く、バス停から通りを挟んだところにあった。大きなビルの1階にあるので入口は分かりにくいが、中はワンフロアまるまるスーパーになっていた。生鮮食料品から日用雑貨、食器、家電までなんでも揃っていて、昔のダイエーのような懐かしい感じがする。家電は欧州と韓国メーカーのものがほとんどだが、シャープ(冷蔵庫)とソニー(薄型テレビ)が気を吐いていた。

モロッコの人の嗜好を反映してか、飲料売り場で最も幅を利かせてるのはコーラだった。メインはやはりコカ・コーラで、一番目立つ棚には8.5DH(=94円)の1.5リットルPETボトルがずらりと並んでいる。この他コカ・コーラだけでも500mlのPETボトルや350ml、250ml缶が揃い、さらにDiet Coke,とCoca-Cola Zeroの各パッケージが並ぶ。かなり壮観である。価格はメディナの中より若干安く、350ml缶が4.9DH(=54円)程度。

ここではペプシも頑張っていて、コカコーラに次ぐ占有面積を確保。ペプシの各サイズに加えお洒落なデザインのDiet PEPSIも揃っている。興味深いのはペプシはアラビア語のロゴを使用している点。コカ・コーラはすでに英語のロゴに切り替えており、両社の戦略の違いが見える。

そしてついに新しいコーラを発見!2リットルのPET限定のPBコーラ「Ice Cola Strong」である。価格は7.9DH(=87円)で、単位体積あたりコカ・コーラより3割安い。このICE〜シリーズはこのスーパーの清涼飲料のPBブランド名のようで、他にもサイダー等でこのブランドを見かけた。

結局旅を通してコカ・コーラとペプシ以外のコーラはこの1点だけ。モロッコ国内飲料メーカーの商品は非常に少なく、グローバル企業がモロッコの飲料市場を牽引しているようだ。また少し期待していたイスラム系コーラ(註1)の姿もなかった。反米感情の薄いモロッコでは需要がないのかもしれない。

 


 


その後クトゥビアの遺跡や伝統工芸館などのマラケシュの名所を堪能し、メディナの中央にあるフナ広場へと向かった。

ジャマ・エル・フナ広場はメディナの中央にある大きな広場。夕方になると屋台が一面に立ち並び、モロッコの旅行のハイライトと言われる場所だ。昼過ぎのこの時間はまだがらんとしており、広場の端にオレンジジュースや植木の屋台が出ているだけ。ところどころで大道芸人が観光客相手に技を披露していた。

広場に面したカフェで遅めの昼食を取ることにした。眺めの良い3階のテラスは満席だったので、1階の室内でピザとオムレツを注文する。モロッコのレストランではホブスという硬い円盤状のパンが無差別に出てくるのだが、ピザを頼んでも状況は変わらなかった。

大きな窓越しに広場を眺めていると、年季の入った赤いコカ・コーラのトラックが広場に乗り込んできた。広場の中央付近で止まると、おっちゃんが二人がかりでガラス瓶の入った通函を次々と降ろしていく。あっというまに広場に赤い通函の山が積みあがった。

 


 

この後一旦リアドに戻り、ハマムでゆっくりと疲れを取った。夕暮れの頃に再びフナ広場に戻ってみると、様子は一変していた。

昼間何もなかった広場は、一面屋台の街に変わっていた。屋台といっても日本の夜店に出るようなものではなく、大きなテントの下に調理場と座席を備えた簡易レストランのようなつくりだ。電灯の光と調理場から立ち上る煙で広場全体がオレンジのベールに包まれていて、なんとも幻想的な雰囲気だ。

↓(定点撮影)

ちょっと雰囲気に呑まれて遠巻きに屋台を見ていると、客引きがやってきてしきり店のアピールをする。初めは店のメニューや値段、サービス(ミントティー無料、など)の説明をするが、態度を決めかねているとカタコトの日本語ギャグを気を引こうとする。

屋台の多くは炉辺焼きのようなスタイルで、モロッコ料理の他にケバブや焼き野菜が充実している。店の看板はなく、軒先に番号が振られている。どの店が美味しいのか良く分からないので、いちばん面白い客引きの店に行くことに決めた。

「コマネチ」
「ワカチコワカチコ」
「カッチコチヤデ」
「ソンナノカンケーネー」
「オッパッピー」
「ワタシノリピー」(注射・手錠のジェスチャーあり)
「アナタノコトガ、スキダカラ」

「ハトヤマ、ドラムスコ」

うはははは!予想外の政治ネタに思わず大爆笑してしまった。25番のオヤジ、あんたが優勝だ。しかし一体どこでネタを仕込んでいるんだろう?

満面の笑みのオヤジに連れられて25番の屋台に入った。テントの下に長テーブルと丸椅子の並ぶ様子は文化祭の模擬店のよう。

机にはホブス(円盤状のパン)とメニューが置いてあって、料理はどれも5〜30DH(55円〜330円)とリーズナブル。タジンやクスクスは小さめのサイズなので、少しずつたくさんの種類を食べれるのが嬉しい。銀色の長い串に刺さった名物のケバブは、スパイスと塩ががっつり効いていて労働者の味がした、

ビールが欲しくなるメニューだが、回教の国では飲酒はご法度。周りを見ると、みんなビールの替わりにコーラを飲んでいる。10DH(110円)でコーラを頼むと、コカ・コーラ350mlのリターナブル瓶がどんと置かれる。昼間山積みになっていた、あの中の1本だろう。

モロッコのコカ・コーラは甘さが強い。これがスパイシーなモロッコ料理と実によく合うのだ。コーラの清涼感と甘さが肉とスパイスで荒々しくなった口の中をほどよく中和してくれる。風味を壊さず脂っこさを洗い流してくれるので、次また肉料理が食べたくなる。幸せなスパイラルである。

匂いと煙に満ちた屋台街の喧騒の中、ケバブをほおばりながら瓶をラッパ飲むと、コーラはこんなに旨かったのかと驚かされる。モロッコの魔法にかかった、極上の1本であった。

 

 



今回のモロッコ旅行はとてもエキサイティングだった。長い歴史に育まれたモロッコ独自の街や文化には旅人を惹きつける魅力がある。そしてモロッコの人たちは親切で、インフラがよく整備され、治安もヨーロッパよりずっと良い。私はすっかりモロッコのファンになってしまった。

そして半世紀前の戦争でもたらされたコーラは、モロッコの文化にしっかりと根付いていた。人々はミントティーを飲むように、自然にコーラを楽しんでいる。お酒のないこの国では、コーラは日本人以上に重要な嗜好品なのかもしれない。

気になったのは、モロッコに流通する加工食品のほとんどが海外メーカー品だった点だ。いつかモロッコにも飲料メーカーができて、純正のモロカンコーラが登場することを期待したい。

 

モロッコ最後の夜、フナ広場の屋台の作り置きでオレンジジュースに当りその後1週間は正露丸が手放せない状態になった。オレンジジュースは目の前で絞ってくれる屋台で買うことをコーラ白書は強くオススメします。