コーラ白書
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あらき

あげるわと渡されたピアスを、ボクは丹念に調べた。
青く透明感のあるホログラム結晶はまちがいなく高級なシロモノだ。
その宝石のような外観から「ブルーサファイア」と呼ばれているメモリーだ。

「こんな高いもの、もらえないよ」
ボクがピアスを返そうとすると、彼女は自分の耳たぶを指差した。
最新型のホログラム結晶が赤くきらめいていた。
超高速のルビー・メモリー、「アンスラックス」だ。
「これ用にインターフェースを高速化したから、もう、わたしには使えないのよ」

 実をいえば、ボクの標準型メモリーは、容量が不足気味になっているものだから、記憶のかなりの部分を圧縮して、やりくりしていた。会話しながら検索するときには、「あれは…」と時間稼ぎをしなければならず、そんな時、相手が怪訝な顔つきになるのが気になっていた。 
彼女のくれたブルーサファイアは、標準のものより速度が速いばかりか、容量は千倍も大きいのだ。これがあれば、すいぶん助かる。

 ちょっとかしてと、彼女は、ひんやりとした指先で、ボクの耳から、標準型ホログラムをそっと引き抜いた。
痛くもかゆくもないが、メモリーを参照できないと、急に自信がなくなる。
自分の記憶だけを頼りにするっていうのは、どうもね… 

 彼女は慣れた手つきで、標準型の黒いメモリーから、ブルーのホログラムに記憶を移し変え、それを耳につけてくれた。

 ボクは、一新されたメモリー空間に、記憶を展開した。
メモリーは高速だし、支援プログラムも、格段に高機能になっている。
「さすがに、いいね」
情報がなめらかに流れるように入ってくる。

 そして、目の前にいる彼女に関連する記憶メモリーが、最優先で展開される。
なんだか、みなれない情報がゾロゾロある。
この「クリスタルコーラ」っていうのは、何だ?
記憶を読み込むと、ひんやりとした缶が唇に当たる感触、強い炭酸といっしょに、コーラの香りが勢い良く口に入って、鼻に抜けていく感覚が再生されてくる。
ボクが戸惑っていると、彼女は、「コーラ・コレクションを付け加えておいたわ」と言って、ふふふと笑った。

(おわり)