四季報
特集
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
Page 6
Page 7
Page 8
Page 9
番外編
甘味料概論
津々浦々
Collectibles
珍品
小説
お便り
バックナンバー
連載記事
小説募集中
特集 / RC子 日本海慕情

番外編 「メイキング・オブ・RC子物語」

■旅立ち

大阪の都心部から,阪神高速,中国道,舞鶴道を乗り継いで約1時間半。福知山市は低い雲に蔽われていた。今にも雨粒が落ちてきそうである。

ここまで我々の旅はおおむね順調だった。中本が思いっきり寝坊したり,中橋は前日寝たのが4時だったりとかいう些細な問題はあったが,大体において予想通りなので死ぬほど眠かったが無視した。助手席の公務員松本(仮名)は昨日も休みだったようで,健康そのものに見える。さすが上級地方公務員は立ち居振る舞いが違う。

我々のトヨタ・スターレットは,今どきレンタカー以外ではまずお目にかかれそうもない真っ白なボディーを細かく震わせながら,国道176号線を北上する。あと2時間もあれば,目的地に到着するだろう。

雨が降らなければよいのだが。

私と中本の懸念は共通していた。でも,降ったら降ったで被写体のシチュエーションとしては悪くない。

「つまり,涙雨やね。」

中本がつぶやく。恋に破れ,ひとり傷心の旅に出た(という設定の)RC子の心中を察すれば,梅雨の穏やかな雨はむしろ光景として好都合かもしれない。でも本当に泣きたいのは俺様なのだ。コーラの缶のポートレートを撮影してる奴なんて,傍から見ればただの変態だ。

■沿道

国道176号は天橋立で有名な宮津市で終点となり,ここからは日本海に沿って178号線をさらに北上することになる。この辺で道を間違えていつの間にか東向いて走っていたというのは秘密だ。

2車線の,あまり広くない国道は丹後半島の東岸をなぞるようにして続く。

右手には青い海だ。白い波が岩に砕けては散る。はるか向こうには若狭湾を挟んでリアス式海岸の山々が霞んでいる。左手は山だ。僅かな平地があれば田畑が張りつくように広がり,民家や日用品の店が道路に沿うように並んでいる。

やがて空は青く晴れ上がってきた。6月の太陽はほとんど夏だ。あたりは青色と緑色に輝きはじめる。風光明媚とはこのような光景を指すのかと,妙に納得した。

俺様のそんなナイーブな心の動きを知ってか知らずか,中本が突如暴れはじめた。

「腹へったぞー」

あ,でも,あと30分くらいで着くんですけど。

「でも減ったぞー」

しようがないので適当なスーパーマーケットに滑り込む。中本は三笠焼きをゲットしてご満悦の様子。おっと,カメラの電池も忘れずに買っときましょうね。

ちなみにこのスーパーで「パロディー」という名前のスイカを見つけた。何だか意味深だ。もしかして中身はバナナとか?

■船屋の里

かくして我々はとりあえずの目的地である伊根市,「船屋の里」に到着した。なぜ「船屋の里」というかというと,このあたりは船屋という珍しい形態の家が多いからである。

1階がガレージで,2階以上が住居になっているような,そんな家を見たことがあると思う(中には実際に住んでいる人もあるだろう)。これが海へ向けて建っているところを想像してほしい。ガレージ部分は漁船の「ドック」になる。これが船屋だ。

船屋は総入れ歯のように,入り江の縁に建ち並ぶ。それらを見下ろす丘の上に道の駅「船屋の里」があり,われわれはまずそこで作戦を練った。漁港,防波堤など,撮影のポイントを絞って再び車で移動。人目を感じつつも気にせず撮影。中本は相変わらず

「いい顔してるよ。かわいいねー」

と缶に語りかけている。自分の世界だ。俺様の世界とは何かが違う。ちなみに中本の MINOLTA α7700 はオートフォーカスが全然合わない。じーこ,じーこ,じーこ,じっじっと一生懸命悩んでいるのだが,人生悩めば答えが出るってものではないぞ。でもこのカメラで撮った写真は出来が良いというのが,コーラ白書のジンクスである(ジンクスが本当かどうかは各自写真を見て判断してくれたまえ)。

公務員松本(仮名)も愛機 CONTAX S2 を取り出し,撮影を開始。ファインダーにコーラが入っている必要がないので,なんだか楽しそうである。その時の写真は服部写真館で見ることができるので御覧あれ。

てなわけで午前の部は終了し,再び道の駅へ戻って昼食をとることにした。

その頃,運命の歯車が,回りはじめようとしていた。

■免許証失踪

道の駅の食堂は,やたらめったらの混雑だった。ツーリングやらドライブやら観光バスやらの人たちでいっぱいである。我々は「フライ定食」しか展示されていない不安なショーケースを見て見ぬふりして,食堂の列に加わる。

その時,何故だかはわからないが,ふと財布の中の免許証が気になった。レンタカー借りた時,返してもらったっけ。

早速財布を開いてみると,そこにあるべきはずの,俺様の豪華顔写真入り運転免許証が無いではないか。むむぅ,これって,免許フケイタイとか言う,不敬罪の一種!? 不敬罪といえば国家反逆への第一歩,これは願ってもないチャンスだ! とか思ったかどうかは不明だが,とにかくちょっとマズい。

ちなみに念のためレンタカーの営業所に連絡してみると,「ええ,お預かりしてます。」と平気な様子。そりゃ助かるんだけど,そんなんで良いのか○ッポンレンタカー?

とかいう面倒なことはいったん忘れることにして,旨かったぞフライ定食。ちなみに中本と公務員松本(仮名)は天ぷらとかを旨そうに食っていた。席からは入り江の全景を見渡すことができて,なかなかの好立地。これで酒さえあれば撮影の仕事なんて忘れて幸せに帰れたのにね。

■砂浜

我々はさらに丹後半島を北上し,撮影ポイントとなるナイスな砂浜を探す。国道は山あいを抜けていくので,今度は海岸沿いの生活道路をゆったりを走ることにする。遥か崖の下に小さな漁港が見え隠れしたり,なかなかダイナミックな光景である。空には入道雲さえふくらみはじめ,雨が心配されたことが嘘のようだ。

免許不携帯については,引き続き,まだ気づいていないことにした。

5km程走ると,小さな海水浴場があった。砂浜に降りると,足下に妙な木箱がある。

「なんじゃこりゃ」

足蹴にする公務員松本(仮名)。そこに突然,怒声が響き渡った。

「なにするんや!! それワシのエサや!!」

そういえばさっきから猛禽類が魚を狙って水面を飛んでましたね,じゃなくて(飛んでたのは本当だが),浜釣のおじさんの釣りエサだったようである。随分ご立腹なのも納得だし,木箱の謎も解けたし,とても目出度いはずなのだが,なんだか居心地が悪い。いや,知らぬこととはいえ,どうもすみません。

しかぁし,そこでメゲるようならコーラ集めなんて異端の活動はやってられません。砂浜にモデル(RC子)を立たせて,這いつくばるようにローアングルでの撮影。踊る波しぶき,よけて砂浜をもんどりうつ中本。今度は釣りのおじさんが居心地悪かったことであろう。ふふふ。

公務員松本(仮名)
帽子が空を飛ぶカット(7ページ目)を楽しく撮影中の公務員松本(仮名)
首から下げているのはFUJIのTiara IXというAPSカメラ。とにかく小さい。

■近畿最北端,そして琴引浜

この辺で予定されていたカットは一応撮影終了した。あとはそのまま帰阪してもよいのだが,丹後半島といえば沈む夕日だし(断言),もう少し行けば近畿最北端である経ヶ崎灯台に辿り着く。何を隠そう先端マニアの私としては,見過ごすわけにいかないチャンスだ。

しかし実際に着いてみると,灯台までは歩いて20分かかるという。往復40分。しかも前日の寝不足がここに来て爆発だ。とても眠い。しかしその辺はさすが観光地。駐車場の隅に「ここから灯台が見えます」なる看板を発見し,実際に行ってみると,遠くの方に僅かに見えるではないか,白い灯台が。

なるほど,あそこが近畿最北端の地であるなあ。

一同深く感動し,この場を立ち去るのだった(そういえば写真もない)。

さらに私はここで運転リタイア。眠いし(今日は)免許持ってないし,ゲストとして手伝いに来てもらった公務員松本氏(仮名)には大変申し訳ないんだけど,実にイレギュラーな事態なので仕方無く,予定通り運転お願い(笑)。

というわけで,一同はさらに北近畿でもっともメジャーな海水浴場,琴引浜へ。シーズンには大勢の人で賑わい,駐車場は料金徴集のおじさんたちで殺気立つところであるが,まだ泳ぐには早い時期なので,のどかなものだ。

ここでさらに数カット撮影。再び砂まみれアンド塩水漬けの中本をよそに,日本海の太陽は次第に傾きを増してくる。ちなみにここで撮ったカットだけ色温度が低いです。気になった人にはごめんなさい。

かつては鳴き砂であったらしい砂浜は,確かに白くてなめらかだ。見慣れた瀬戸内海とは明らかに異質な,つまりは野生の波浪が,この砂浜を何千年にもわたって磨いてきたのだろう。

初夏の水遊びを楽しむ家族連れや若い男女の姿もまばらになり,あたりがオレンジ色に染まりかけたころ,我々も家路につくことにした。

動きはじめた運命は,もうそこで待っている。

■ガスト嫌い

高速料金がもったいないのと,公務員松本(仮名)が一般道を好んだこともあって,帰りは国道312号を経由して176号を大阪まで走ることにした。

途中適当なショッピングセンターでネガを現像できないかなんてバカなことを考えつくが,時刻は18時をまわっており,冷静に考えてみれば閉店までに仕上りそうもない。

福知山辺りで食事について検討するが,目につくのは吉野屋とか,びっくりドンキーとか,ガストとか,デニーズとか,見飽きたところばかりである。それより俺様は爆裂眠いぞ。眠いぞ5段活用眠いざ眠いじ眠いず眠いぜ眠いぞ! というくらいに理性が低下している。

やがてとっぷりと日も暮れた。はぁとっぷりな(眠いので台詞も意味不明)。

車は三田市に入った。そろそろ大阪の通勤圏内だ。そこに気の緩みがあったかもしれない。

176号線は,順調に流れている。

目の前にガスト発見。

「おぃー,またガストー(笑)」

意味不明に盛り上がる一同。かなり疲労していたことも間違いない。

「ガスト嫌い〜(笑)」

でも,なんか笑いながら,私と中本は目前の異変をなんとなく察知していた。サッチーは時の人だがここではご遠慮願おう。目前にあったのは厚化粧の人ではなくて,ウインカーを出して停止する車の姿だった。

しかも,我らが所詮借り物の,ぶつけちゃっても保険おりるもんねーのスターレットは,さらに加速しているような気がしないでもないような・・・。

(ぶつかるかも〜,ていうか,ぶつかる〜,断定!)

眠い頭でそんなことを理解しても,何の足しにもならんのだが。

そこからの光景は,いまでも鮮明に記憶している。

急速に近づいて来る前車のテールランプ。運転席からの叫び声。急ブレーキの減速感。

我々は吸い込まれるように,ガストの照明に照らされた白いセダンに接近した。あと5cm・・・

あと5cm,いや3cm足りなくて,我々は追突,というか接触した。樹脂バンパーの弾力がわずかに体に伝わったことで,それが知れた。

幸い相手の方(Tさん)がとても温厚な青年の方で,すぐに近くの警察署まで連れていっていただき,事故証明の手続きもしてくださった。拝見したところこれから彼女とガストで食事するところと思われたが,全くもって不粋なことをしでかしたものである。ほんとにすみません。お中元届けとかないといけないかな。

■ヘコみました

ホントにこの事故が不幸中の幸いだったのは,なにより双方に怪我がなかったことであるが,物損の程度としても,両車のバンパーに傷がついたくらいのごく軽いものであった。凹んでなくてよかった。

警察で事情を説明した際に,私の免許証がレンタカーの営業所にあることを話していたので,とりあえず公務員松本(仮名)が再びハンドルを握るが,こっちの方はやっぱりだいぶん凹んでいるようである。いやいや,わたしらも凹んでますから,気にしないで(笑)。

途中のデニーズで(結局ファミレスになってしまったが) 喉に通りにくい食事を胃に詰め込んで,アメリカンと称される薄いコーヒーで交感神経を刺激,再び免許不携帯,今もっとも検問を恐れる男,この俺様が大阪まで運転することにした。

その後中本を堺の自宅まで送り届けて自分の家に帰ったのは,すでに午前2時。どんどん眠い。ほんっとに眠けっていうのは際限がない。実はどうやって帰ったかいまいち記憶が薄いんだよねー。

なんだかその後無事に帰り着いたのも奇跡的な出来事だったようだが,読者の皆さまにおかれましては,くれぐれもご無理なさいませぬよう,安全運転なさいませ。

ちなみに,今回の撮影でもっとも残念だったことは,事故現場で全員取り乱したために決定的瞬間の写真が残っていないことである。せめて写真撮ってれば,笑いくらいはとれたのにねぇ。

記念写真
途中で撮った記念写真。まだ表情が明るい(笑)

[四季報 1999年7月号] [コーラ白書] [HELP] - [English Top]
Copyright (C) 1997-2000 Shinsuke Nakamoto, Ichiro Nakahashi.