|
近年、世界的にコーラ市場が活気づいている。強く刺激的なエナジー系コーラが脚光を浴びる一方で、地味ながらじわりと存在感を増しているのがナチュラル系のコーラだ。原材料や製法にこだわるプレミア性の高いコーラは、健康志向や「本物」を求める消費者に浸透しつつある。 今回はそんなナチュラル系コーラについて取り上げてみたい。 ナチュラルでないコーラの歴史そもそも黎明期のコーラ飲料はすべて天然素材からできていた。1886年に誕生した世界初のコーラの原材料はコカの葉とコーラナッツの他に果汁や植物抽出オイルなどであったとされる。飲料用の甘味料といえばサトウキビから精製した砂糖(Cane Sugar)しかない時代である。 しかし生産が効率化されるに従い、コーラの原材料は次々と「人工的」なものへと置き換えられた。 コーラの象徴ともいえるコーラナッツは早い時期に合成カフェインに取って代わられた(註1)。これに伴い、コーラ独特の色を出すためにカラメルが着色剤として使われるようになった。 20世紀に入ると合成香料が登場し、炭酸飲料に様々なフレーバーを付加することが可能となった。ライムやオレンジ、酸味料などを調合した「コーラフレーバー」が登場し、お菓子や飲料に使用されるようになった。 1960年代にはトウモロコシを原料とする液糖(コーンシロップ)の工業的製法が確立。キューバとの関係悪化により砂糖の価格が高騰していたアメリカでコーンシロップが飲料の甘味料として広まった。 このため各社のコーラの原材料表示はすべて同じになり、メーカー間のテイストのバリエーションは失われた。PBコーラが普及した1980年代には多くのコーラで同じ味がしたことを覚えている。 伝説のドラフトコーラそんな画一化したコーラ市場に一石を投じたのがRoyal Crown社であった。ダイエットコーラを世界で初めて開発したことで知られる同社は1995年、究極のコーラを銘打つ新製品「Royal Crown Draft Cola」を発売した。ちなみにちなみにDraft ColaとはDraft Beer(=生ビール)から創られた造語である。 このコーラの特徴はナチュラル原材料へのこだわりだった。水には天然水、甘味料にはサトウキビ由来の砂糖を使用。またフレーバーに長く忘れられていたコーラナッツを復活させた。パッケージに褐色瓶を用いたこの世界初のプレミアムコーラは、スムーズで奥深い味わいで北米の消費者(の一部)を虜にした。 コカ・コーラの約2倍という強気の価格設定が災いしたのか、RCドラフトは発売翌年に生産を終了。しかしこのコーラが提案した「プレミアムコーラ」という概念は多くの飲料メーカーに影響を与え、後のコーラ史に大きな影響を与えることになった。今でもアメリカのコーラファンの話題に上る、まさに伝説のコーラである。 プレミアムコーラを引き継いだのは、主にアメリカの中小飲料メーカーだった。2000年頃にかけて、アメリカ各地でガラス瓶入りの「地コーラ」が数多く発売された。ロッキー山脈の水と材料にこだわった「WRANGLER Cola」や、ワシントン州の良質な蜂蜜を使った「DRAFT HONEY COLA」、美しいパッケージが印象的なコーラナッツ使用の本格派「Riggs & Forsythe Dry Cola」などがその例である。 しかしプレミアムコーラの時代は長くは続かなかった。その一つの原因はエナジー系コーラの存在だった。 同じく90年代に誕生したエナジーコーラはその尖ったコンセプトが若者に広く支持され、2001年頃から大ブレイク。Red Bull やROCK STRAなどの強力なメーカーの参入が相次ぎ、市場は大きく成長した。これに対し話題性に欠けるプレミアムコーラは、大きなうねりになることはなかった。 原材料の逆襲雌伏の時の続くプレミアムコーラに転機が訪れたのは2000年後半頃のこと。アメリカでの健康意識の高まりに加え、肥満による医療費負担が注目を集めるようになったからだ。特にコーンシロップ(註1)は肥満への影響が大きいと槍玉に挙げられ、清涼飲料の公立学校での販売規制へと発展した。現在ニューヨークなど一部の州では加糖炭酸飲料に対し「ソーダ税」の導入が検討されている。 また2010年にはFDA(米国食品医薬品局)がカフェイン入りアルコール飲料を製造するメーカーに対して「商品は違法」とする警告文を送付した。通常の炭酸飲料には直接関係はないものの、カフェイン量のインフレが続くエナジードリンク市場に一石を投じた。 消費者の原材料への関心の高まりは、コーラの巨人を動かした。 ペプシは2008年、天然原材料を使用した初のプレミアムコーラ「PEPSI RAW」をイギリスでリリースした。RAWは「生の、未加工の」の意味なので、さながら生ペプシといったところだ。
このペプシのコンセプトは人工的な材料を一切使わず、天然の素材のみで仕上げたナチュラルコーラである。天然の発泡水をベースに、甘味料にはサトウキビを使用。フレーバーにはコーラナッツなどの抽出物に加え、コーラでは珍しいリンゴの抽出物が使われている。安定剤にも天然のアラビックガムを採用するなど、徹底的にナチュラルにこだわった。この商品は翌年にはアメリカへ上陸し、「PEPSI Natural」という名前で販売された。 またペプシは砂糖を甘味料に使用したペプシ「PEPSI Throwback」を2009年に発売した、Throwbackとは「先祖がえり」の意味だ。当初は限定発売であったが、好評のため現在でも継続販売されている。 この他にカナダのJone's Sodaも甘味料をすべて砂糖に一本化するなど、市場要求への対応を進めている。 ステビアの功罪さらに北米では健康志向に対応するべく、天然素材を使ったダイエットコーラの開発が進められている。 ダイエットコーラに使用されるアスパルテームなどの人工甘味料は、文字通り人工的に合成されたもの。これを使わずにダイエットコーラを作ろうというのである。かなり無茶なようにも思われるが、これを可能にするのが天然があるのだ。植物由来の低カロリー甘味料「ステビア」である。80年代に日本で流行した甘味料なので、聞き覚えのある向きも多いだろう。 ステビアは南米原産のキク科の植物「Stevia rebaudiana」の葉に含まれる配糖体甘味料。砂糖の200倍以上の甘さがあるが、独特の苦みに加え甘さが後を引くという欠点があり甘味料としては使いにくいとされる。 このステビアの積極的に飲料に使ったのが日本の飲料メーカーだった。この時代ダイエットコーラが世界中に広まったが、日本では売れ行きが悪かった。これはアスパルテームなどの「ダイエット飲料の人工甘味料」が体に悪そうで、受け入れられないというのが理由だ。このためペプシは83年に甘味料にステビアを使ったPEPSI Lightを発売。世界初のステビア使用コーラであると考えられる。また90年には大塚飲料がポカリスエットステビアを発売するなど、飲料業界で広く使用されるようになった。 その後日本市場では人工甘味料が容認されるようになり、ステビアの出番は減少した。しかし一方で近年アメリカで健康志向からステビアが脚光を浴びはじめたというのは、なんとも皮肉だ。 ナチュラル系飲料で有名なBlue Sky Sodaでは、100%ナチュラルのゼロカロリーコーラ「Blue Sky Free Cola」にTruvia社のステビア系甘味料を使用している。またZevia社はステビア使用のナチュラルゼロカロリーソーダ「Zavia All Natural Sodaを幅広く展開し、その中にはコーラも含まれている。
今春には日本でもダイドーからステビアを併用した「ミスティオ ZeroCOLA」がリリースされている。 ナチュラル系ダイエットコーラの救世主とも思えるステビアにも課題がないわけではない。かなり味質は改善されたとはいえ、やはり後味に独特の違和感が残るのだ。オールナチュラルのダイエットコーラが世界的に広まるのには、もう少し技術革新をまたなければならないようだ。 オーガニックの風アメリカの肥満に対する動きとは別に、素材の安全性を求める動きもある。その一つの答えが「オーガニックコーラ」である。 オーガニック食品とは、有機栽培により生産された原材料を使った加工食品のことを指す。ただ有機栽培の原材料を使えば良いわけではなく、JASの「有機農産物加工食品の日本農林規格」に原材料から加工法・名称の表示まで厳しく規定されている。さらにオーガニックを名乗るためには第三者機関による認証が必要と、かなり狭き門なのである。 このためオーガニックコーラの種類は多くないが、現在国内で2種類を確認している。
一つはニュージーランドのオーガニック飲料メーカーPHOENIX社のコーラ「PHOENIX ORGANIC COLA」だ。原材料に有機砂糖と有機レモンを使用し、フレーバーにはニュージーランド産のコーラナッツが使われている。Bio-Gro(ニュージーランド有機食品協会)に加え、近年は有機JASの認定を取得した。 もう一つは今年7月に国内発売された「GARVANINA BIO COLA」である。イタリアの老舗飲料メーカーGALVANINA社のオーガニックコーラで、天然の炭酸水と伝統的な製法で作られているという。人工甘味料・着色料・保存料を使用せず、原材料はすべて有機栽培品の有機JAS認定品。リーノ・ミーニ氏がデザインを手がけた美しいエンボスボトルは2011年度のグッドデザイン賞を受賞している。 これらのオーガニックコーラは、一般のコーラと一線を画す重厚で柔らかなテイストが魅力。 価格は決して安くないが、原材料へのこだわりが随所に感じられるプレミアムコーラである。
今後このナチュラルコーラが多くの人に受け入れられ、コーラ飲料全体をより豊かにしてくれることを期待したい。 *参考 ・甘味料概論 配糖体&蛋白甘味料編(四季報2000年1月号) ・復活?砂糖100%コーラの最新動向(四季報2009年夏号) (註1)現在でもコカ・コーラには若干量が使用されているという説もある。 |