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コーラ津々浦々 フランス・巴里編
中本 晋輔

「フランスへ行こう」

うちの母が突然サッカー日本代表サポーターのようなことをのたまわったのは私がお好み焼き屋でネギ焼き(スジ入り)を食っている時であった。目が点になっている私を尻目に母はいそいそとパンフレットを取り出しはじめた。なんでも6人集めれば4泊6日のパリ旅行が10万円で行けるらしい。ヨーロッパへ行ったことのなかった私は食べおわる前にはOKしていた。まだ見ぬ土地とコーラに思いを馳せながら。

しかし時は3月、その上出発3週間前ということで、なかなか人数が集まらない。そのうえ同行する最有力候補だったジェニファー女史にビザが必要なことが解り、この時点で6人集めることは絶望的となってしまった。ジェニファー女史の祖国オーストラリアはムルロア環礁核実験に激しく抗議しすぎて、逆ギレした仏国政府が「入国にビザが必要」との処置をとってしまったのだ。そりゃないぜシラクさん。結局私と母と2人で行くことになった。もっともうちは2人家族なのでこれでも立派な家族旅行なのだが。

関空から空路で約12時間、我々はシャルル・ド・ゴール空港に到着した。気温は大阪よりちょっと寒いくらい。すぐにホテルでチェックインを済ますと、時差ぼけを押して夕暮れのパリの街へ繰り出してみた。ホテルの前の通りをしばらく歩くと、かの有名なシャンゼリゼ大通りに出る。どこまでも続く石畳と古めかしい建物、そしてその向こうには凱旋門が。うーん、これこそ海外旅行の醍醐味である。

はじめはかなり浮かれていたのだが、10分も歩く間にだんだん焦りが募ってくる。無いのだ、コーラが。コンビニはもちろん自販機すら、街角のどこにも見当たらないのだ。所々にあるマガジンスタンドにも清涼飲料の缶は見当たらない。お菓子もエロ本も売ってるくせに何でコーラ売ってないかなぁ。憤りに近いものを感じながらさらに歩いていくと、両替所の中にコカコーラの自販機が通りから見えないところにひっそりと置かれているのを発見した。しかしまだパリで何も買っていなかった私の財布には硬貨がなく、購入できない。かくしてパリ初日のコーラ捜索は空振りに終わった。

時差ぼけのためか朝5時に目覚めた私は、パリ市内の地図を睨みながら作戦を練ることにした。前日行ったシャンゼリゼ通りは日本でいう銀座みたいな所で、食料品店が進出しにくいのではないか。ならば観光客の集まるパリの中心あたりを狙ってみよう、と。クロワッサンとカフェオーレの朝食を済ませると、地下鉄でコンコルド広場へと向かう。この辺りはルーブル宮やオペラ座などの観光スポットが数多く集まり、土産屋やカフェなどが立ち並んでいて、シャンゼリゼとは少し趣が異なる。オペラ通りをぶらぶらと歩いていると、ついにコンビニを発見。・・・っておい!どこの世界に「コンビニ」って名前のコンビニがあるねん。しかもパリだぞ、ここは。激しく腰を砕かれながらも入ってみると、中には陳列棚1列しかなく、その上奥のうどんやはパリの食文化に馴染めなかった日本人の観光おばちゃんの巣窟となっていた.私はやるせない気持ちを胸にコンビニを後にした。

とぼとぼと裏道を通って帰っていると、スーパーマーケットを見つけた。半日パリにいて初めて見た食材店である。野菜が山と積まれた入り口から中に入ると、薄暗い店内の一番奥の棚に遂に缶ジュースを発見した。コカコーラの他にチェリーコーク、コカコーラライト等、ここに来て始めてみるコーラが並んでいる。その中で一番目を引いたのはコカコーラボトル8本パックであった。普通コークのホブル瓶はロゴが印刷されているのだけど、このボトルはロゴが浮き彫りになっている。店員に英語で1本だけ売ってくれと交渉してみたが断られてしまい、しばらく考えた後パックで買ってかえることにした。これが死ぬほど重いのだ。リュックに無理矢理詰め込んで、地下鉄を乗り継いで何とかホテルに帰る事ができた。

3日目をノートルダム寺院やヴェルサイユ宮殿などの定番スポット巡りに費やした私は、最終日もう一度単独コーラ探索に出かけた。パリに来てから3日間、ペプシコーラを見ていなかったからだ。当てもなくシャンゼリゼ通りを歩き、コンコルド広場からセーヌ川沿いを行く。この辺りは露天商が多く、ポスターや絵葉書、本などが売られている旅情豊かなところである。私が驚いたのは古いコカコーラのポスターの複製や絵葉書が殆どの店に並んでいるという事だ。パリの人々の中でもコカコーラはファッションの一部として受け入れられているようだ。

ノートルダム寺院のあるシテ島まで来たところで街は急に賑やかになる。この辺り、特にシテ島南部はカルチェ・ラタン(「ラテン地区」の意)と呼ばれる文教地区で、カフェや本屋などが軒を連ねる。街全体に活気があり、シャンゼリゼには無かった生活の匂いがして妙にほっとしたのを憶えている。歩きづめで随分腹の減っていた私は裏道のカフェで昼食をとる事にした。フランス語が全くできない私は英語でサンドイッチとコカコーラを注文すると、意外にすんなりと理解してくれた。ハムとチーズだけのサンドイッチを食べながら、パリもいいもんだなぁ、等と考えたりした。(その後注文したコカコーラが40フラン:880円である事が発覚し、少し悲しい気分になったのだが)

パリの街を堪能したのはいいが、肝心のペプシが見つかっていない。いろいろ立ち寄ってみたものの、何の成果もなくホテルまで帰ってきてしまった。このまま帰るのもなんだし、とまわりを少し散歩する事にした。するとホテルの裏側に一軒の酒屋が!。そしてそのウィンドウにはPEPSIとPEPSI MAXがっ!!こんな近くにあったとは。まさに灯台下暗しというやつである。こうして私はペプシ2缶を購入する事ができ、まことに御満悦であった。ちなみにジュースは1缶7フラン(154円)、やはり物価は高い(円が弱いだけという話もあるが)。

ここで取って付けたようなパリの感想を少々。まずこの街で圧倒されるのはその雰囲気である。街全体が頑固なまでに伝統を守り、古風で重厚な町並みがどこまでも広がっている。パリ市内ではエアコンの室外機はおろか洗濯物を外に干す事さえ禁止されており、観光客目当ての美観地区とは気合が違う。

またパリに歴史的な寺院や宮殿、それに高級ブランド品店などが数多く存在する事は皆さんもご存じだろう。ツアーもたくさん組まれているが、私の一番のお薦めは「散策」である。パリは、歩くだけでいくつもの発見に出会う事ができる街なのだ(コーラだけじゃなくて、ね)。但し道が放射状に伸びている場所が多いので、筋を一つ違えると全然違う場所にでてしまうことになる。地図は必携だろう。少し遠くに行きたければ地下鉄(METRO)に乗るのが経済的だ。8フランで市内どこはでも連れていってくれる(乗り心地はそんなに良くないけど・・)。英語が思ったより通じるし、 治安も問題ない。J○Bの日本人専用バスでの観光もいいが、気ままに歩いて気に入ったカフェで食事をしながら、パリの雰囲気を満喫するのも悪くない。

ちくしょう、面白いじゃねーか、パリ!

おまけ

今回の旅行で、死ぬ気で持ってかえってきたコカコーラの250mlボトル(中身入り)を1本、ご希望の方に差し上げます。ご希望の方はメールでご連絡下さい。コーラ四季報の感想なんかがいっしょに書いてあるととても喜ばれます。(締め切りは1998年8月末日必着。希望者が2名以上のときは抽選で決定、いないときは私が飲みます)


[コーラ四季報98年7月号]
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