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コーラ津々浦々 / 新宿・Virgin Colaイベント編
中橋 一朗

■I got a mail

謎のオブジェ コーラ白書にも,時には海外からメールがやってくる。その内容は,「御社から○○コーラを購入したいのだが」とか,「俺様と珍しいコークの空き缶をトレードしないか」とか,いくらか勘違いしたものがほとんどだ。だから最初に Hurry Cheng 氏からメールが届いた時にも,正直読むのは気が進まなかった。最近はタイトルが日本語でないだけで,いやーな予感がするものなのだ。ああ,やめてくれオランダ。

ところがびっくり,ちゃんと読んでみると,それは Virgin Cola Japan からの招待状ではないか。Virgin Cola がポッカとの提携の元で発売されること,そしてその記念イベントが新宿で行われることが記されている。ポッカとの提携についてはすでに知っていたが,イベントについては初耳だった。

でもなー,東京だしなー。東京って電車混むから嫌いなんだよね。

ところが読み進めていくと,なんとあの Richard Branson も来日するという。今や世界を股にかける Virgin グループ総帥の身でありながら,熱気球での世界一周などという夢物語へのチャレンジを続ける(つまりいつも失敗する)燃える男,Richard Branson。熱いぞ,汗臭いぞ,ヒゲ剃れよ,ってことで,これは行かねばなるまい。それが我々の社会的使命というものであろう。

■裏切られて

かくして,上京の準備が進められた。わたしは切符を手配し,中本は学校をサボる言い訳を捻出した(中本は研究室では病弱な奴と思われている)。4月23日のXデーに向かって,準備は着々と進んだ。

ところが,数日前に突然,中本が参加を辞退してきたのである。

「実は学会が・・・」

学会といえば学者の桧舞台。一回の,いや一介の院生といえどもサボる訳にはいくまい。そこで私は提案する。

「会場を燃やせば学会は中止だ。」

なぜか気に入らないようである。ならば諦めるしかない。残念だが私ひとりで行くことにしよう。でも本当は中本も行きたいに違いない。私には痛いほどわかる。

「じゃ,明日から入院ということで。」

いや,別にひとりだけ恥をかきに行くのは割に合わんとか,そんなことを考えているのでは断じて無いのだ。私はただ中本の心中を察して・・・。

「なんなら,俺様が電話しとこうか。死にましたとか。」

私の人間味あふれる気配りも学校と言う名の権力(というか,常識とか社会通念)の前には為す術なく,私は単身,車中の人となった。

■新宿 午前10時

足長ピエロ おおよそ今の日本に,新宿アルタを知らぬものはあるまいが,その向かい側が新宿ステーションスクエアという広場になっていることは,実は盲点である。盲点というか,多分あまり知られていない(と思う。俺知らんかったし)。

私がそこに辿り着いたのは,たぶん午前10時前だったと思う。すでに謎のオブジェが設営され,たぶんここで今日何かイベントがあるんだろうけど,一体誰が何をするつもりなんだろう,とにかく今は気づかないふりをした方がよさそうだ,という一種異様な盛り上がりを見せていた。

空を見上げると,肩にのしかかるような曇天。眠いし,疲れたし,中本は学会だし,カメラは重いしMFだし,せめて天気ぐらいは俺様を慰めてくれ。

イベントは11時30分からなので,多分私が一番乗りだろうと思っていたら,なんとすでに多くの人たちが座り込んでいる。しかも,中には寝転んでいる人も! 徹夜組かと思ったら,単に地元の,というかこの辺に寝転んで住んでいるおっちゃん達であった。

■足長パフォーマンス

Pammyボトルホルダー Virgin Cola Japan の Harry 氏によれば,一応受付に顔を出すようにとのことなので,その通りにする。恥ずかしい「コーラ白書の名刺」を出すと,一瞬とても怪訝な顔をされたが,一応ちゃんと登録されていたみたいで,おみやげ一式の紙袋をくれた。ありがとう Virgin,ありがとうポッカ。来て良かったよ。

ちなみにおみやげの中身は Virgin Cola の Pammy ボトル(500ml)とその携帯用ホルダー,Virgin特製Tシャツなど。なかなかレアであるが,真っ赤なTシャツは普段着用するには不向きであると断言せざるをえない。だがしかし,普段もらい物のTシャツばかり着るなよ俺様(IIJとかAPCとかLucentとか(大汗))。

11時を過ぎたあたりから,会場に音楽が流れはじめたりして,ようやくイベントらしくなってきた。ただ,ステージ上の謎のオブジェは,以前風にはためくばかりである。

私は右手に愛機 OM-4TiB,左手にはデジタルカメラという,まるでアクションカメラ小僧みたいな情けない装備を完了していた。小高い植え込みの上に陣取って,まあ撮影場所としては上出来である。朝早くから来た甲斐があったというものだ。

道行く人々の中にも,足を止めて「何かが始まる」のを待つ姿が見えはじめた。ほとんどは女子高校生らしき格好の女性みたいな人たちだ。東京の女子高校生はそんなに暇なのか? それとも東京では暇な女の子はみんな女子高の制服を着るのであろうか。謎である。

そして定刻11時半を少し回ったところで,ステージの前に3人の足長ピエロが出現した。いよいよイベントのスタートだ。

ちなみにどれくらい足が長いかというと,この俺様より長い。というか,俺様の身長より目前の染色体異常トリオの足の方が長いんではないだろうか。ちなみにこの3人,足が一番長いのがリーダーみたいだ。フランス料理の人がかぶっている帽子のようでわかりやすい。

長い人たちは最初はジャグリングをしていたのだが,やがて細長い風船で犬やらトンボやらを作って,観客に配りはじめた。周辺にはいわゆるキャンギャルが登場し,150mlの試飲缶と「WHY NOT?」ステッカーの大盤振る舞い。でもぬるいぞ,人肌だったぞ試飲缶。

ステージの回りに徐々に人垣ができはじめた。でも長い人たちが異様なので,真ん中はドーナツのように空いている。風船を受け取る中学生やら高校生も,やたらビビッている。そこにトドメのアナウンス。

「大丈夫ですからもっと近づいて下さいね〜!」

大丈夫ってあんた,長い人もえらい言われようだ。噛みつくんだろうか。いや,足踏まれると悲惨かも。

長い人はひとしきり愛想を振りまくと,舞台の袖に消えていった。だが私は見た。彼らが人目につかない物陰で,足を脱ぐのを。

俺様と同じくらい短足ではないか!

つまりイベントは,まだ始まったばかりなのだ。

■Richard 遂に登場

マスメディア 12時を目前にして,やたら足の長い人たちは舞台を降りてしまったが,入れ替わりに目立ちはじめたのは報道陣の姿であった。やたらでかいテレビカメラを担いだむさい男たちがどこからともなく現れて,人波をかき分けて一等地に割り込んでいく。

「植え込みの柵の中には入らないで下さい!」

叫ぶ警備員のお兄ちゃんに詰め寄る某10チャンネルのスタッフ。

「なんで駄目なの? どして駄目なの? どういう法律で駄目なの? も全然わかんない。どして? どして?」

報道とかいう社会的使命は,常識とか良識とかを持ち合わせた全うな人間では果たせぬものなのだ。テレビのニュースも彼らの尊い反社会的行動の上に成り立っているのであろう(こういう事件自体はニュースにならないんだけどね)。

とにかくもう,新宿ステーションスクエアは,取り残されたように無知な観客を除き,関係者一同熱く燃えていた。

ステージ上にDJノリの司会者が2名登場し,遂に謎のオブジェが除幕される。何と出現したのは「ギネスブック級(主催者側発表)」の自動販売機であった。さらにはポッカコーポレーションの谷田会長も登場して,ステージの上だけヒートアップ。

「ついに世界的な有名人が登場しますよ〜! 戦車や飛行機で現れるかもしれません!」

司会者の叫びも空しい。それは普通知らないネタだって。

戦車や飛行機
Richard Branson 会長はかつてアメリカで戦車に乗って登場し,何故か Virgin Cola をひたすら踏みつぶすというパフォーマンスを行ったことがある。確かに新宿は戦車が走るには狭過ぎるが。

谷田会長が巨大なコインを自動販売機に投入する。そしてボタンを押した。そして立ちこめるスモークの中から現れたのは・・・

なんと,着ぐるみ姿の Richard Branson 会長であった。さすがに新宿で戦車はまずかったのだろう。でも,とてもプリティで結構。

除幕1 除幕2 谷田会長 Richard

■巨大自販機パフォーマンス

で,その後巨大自販機からはブロンドの美女が数人出て来たりとか,一応お約束なので Virgin の Pammy ボトルも出て来てそれを Richard 会長が飲んだりその辺にまき散らしたり,谷田会長はとても影が薄かったりとか,そういうありきたりな展開が予想されたのだが,さすがは汗臭いぜ気球野郎,司会のおねえさんを突然持ち上げて振り回したりとか,なんだか意図はよく分からないがとても熱かったゼ。

配るRichard その後 Richard 会長自ら観客に試飲缶が配られ,Richard Branson なんてきっと知らないであろう一般の人々がなんか有り難そうにそれに群がっていた。後でニュース見て仰天すべし。

会長はその後30分程で退場した。このあと「笑っていいとも」に出演すると聞いたのだが,実はアルタには上映されないのでどうなったか知らない。

この自販機,実はルーレットになっていて,その後数回にわたってプレゼント大会が行われたようである。ちなみに賞品は Pammy ボトルや Virgin Record のオムニバス CD だったみたい。また各回1名に限りポータブル MD プレイヤーがプレゼントされた。

私はどうしたかというと,カメラ屋めぐりを楽しんだあと,秋葉で衝動買いをし,重たい荷物に歯を食いしばりながら大阪まで帰ったという噂である。


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