プロローグ
ウェイトレスを呼ぼうとしたが、結局何も頼まずに席を立った。 騒がしすぎるのだ。おそらく何処かの大学サークルであろうか、団体がバーの中央を占拠して、とても静かにカクテルを飲む雰囲気ではない。 カクテルに心を残しながらエレベーターを待っていると、バーから出てきた男が「団体予約とるようになったらここのバーもおしまいやね」と苦笑いで言った。 相づちを打ちながら、そういえば自分は旨いキューバ・リブレを飲んだことがないな、と思った。コーラの運は悪くないだろうから、ラムの神様に嫌われているのだろうか。そんなつまらない事を考えていると、最高のキューバ・リブレを探してみたくなった。味だけじゃなく、雰囲気も含めた最高の一杯を。
今月のキューバ・リブレ 第一回 東京 日本橋 エレベーターの蛍光灯に目が慣れていたためか、どこにラウンジがあるのかと少し戸惑ってしまった。店の中には最小限のランプがあるだけで、あとは明かりは夜景に任せてある。 窓際の席をと頼むと、あいにく西側は満席だという。西の席はオレンジ色の東京タワーを真正面に臨む、このバーの特等席だ。私たちが案内された南側からは箱崎のIBMビルと隅田川、そして遠くにどこかの観覧車のイルミネーションが見えた。 ほんの数ヶ月前まで、私はこのすぐ近くに住んでいた。会社の帰りに水天宮や箱崎の辺りを歩いたものだが、ここから見る風景は随分と印象が違う。
褐色のラムコークのストレートグラスに厚切りのライムを添えたシンプルなキューバ・リブレには武骨な印象さえ覚えた。ライムを絞ってから飲むように、ナフキンとマドラーが用意されている。最近安いカクテルを飲む機会の多かったから、分厚いライムを自分で絞ってキューバリブレを完成させるという作業が嬉しかった。 キューバ・リブレといえば何処か重いイメージがあるが、ここのはクセがなくスッと流れ込んでくる。ライムを絞りすぎたのだろうか、どこか爽やかでさえある。コーラとラムの主張がうまい具合いに溶け合い、シンプルながらなかなか味わい深い。 口当たりの良さに気を良くしてウェイターにコーラの種類を尋ねた。質問を口にしてすぐに、面白くない質問をしてしまったなと後悔した。キューバ・リブレはただのラムコーラではなく、コカ・コーラを使ったカクテルじゃないか。 コーラを聞かれるとは思っていなかったのか彼は少し戸惑った様子だったが、すぐにこのカクテルが本物であることを教えてくれた。 グラスが空になった頃、またステージで演奏がはじまった。どこかで聞いたことのあるバラードを聞きながら、オルフェウスがギリシャ神話の詩人であることを思い出した。
今月のキューバ・リブレ
1200円 Total 4570円 (2名) |
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