コーラ津々浦々「バンフ・バンクーバー編」

バンクーバー再び

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翌日もBanffを堪能し、その次の日の早朝のBanff AirporterでCalgaryへと戻る。前回より随分広くて快適なバンがお迎えにやってくるが、運転手は同じ陽気なおっさんだ。覚えていてくれるのはなんとはなく嬉しい。

CalgaryでJazzの小型機に乗り換えてVancouverへ。平日昼間だったためか、スーツ姿のビジネスマンの姿が多い。今ホットな石油の町だけあってビジネスの機会も多いのだろう。私的には折角忘れていた仕事を思い出して、ちょっと鬱な気分になる。

一時間半の飛行でVancouver国際空港に到着。余談だがVancouverとCalgaryには1時間の時差があるため、チケットには12:00、到着12:25と表記される。これを見て「Vancouver - Calgaryは大阪-徳島より近い」と得意げに妻に語ったことは、今となっては良い思いでである。

バゲッジクレームで友人Markとその息子のTerryが出迎えてくれた。カナダで彼らと会うのは我々の結婚式以来3年ぶりである。そのとき緊張しながらもリングボーイを務めてくれたTerryも今ではやんちゃ盛りで、英語と大阪弁で何かと話し掛けてくる。夏休みを日本で過ごして帰ってきたばかりなので、レイザーラモンHGなど旬な話題も我々以上に良く知っていた。

Blue Skyの衝撃

Markの家のゲストルームに荷物を置いて何気にテレビをつけると、何だか只ならぬ気配。どのチャンネルでも青い飛行機の旋回するライブの映像の上にアナウンサーが早口でまくし立てている。よく聞いてみると飛行機の脚が故障して着陸が出来ず、緊急着陸に備えて燃料を消費するため旋回を繰り返しているのだという。確かに、タイヤが90度横に向いている!

そうこうしているうちに飛行機は緊急着陸を開始。その場の全員が息を呑んでテレビに釘付けになる。脚が着地するとばっと煙が上がり、摩擦熱でタイヤが数秒で炎に包まれる。しかしタイヤが燃え尽き金属部が直接地面をガリガリと引っかきながらも、その細い脚は猛烈な圧力と速度に耐え機体を支え続ける。誰もが祈るような気持ちの中、激しい火花を散らせながらBlue Jetはスピードを落とし、やがてその動きを止めた。

全く、冷や汗の出る映像である。テレビではさっきまで悲観的だった専門家が、こぞってパイロットの素晴らしさを称えている。後から聞くところによると、このBleu Jetは北米で初めて機内で衛星放送を見れるサービスを導入した航空会社らしい。自分たちの乗る飛行機の故障のニュースと映像を機内で見ることになった乗客の心境はどのようなものだったのだろうか。

で、その日は昔Terryが釣ったサーモンのステーキを食べ、Google Earthで暫く遊んで早々にベッドに潜り込んだ。明日は旅行のハイライト、Vancouverダウンタウンでのコーラ探しだ。

ダウンタウン遠征

翌日。Terryを小学校に送った後、Markの買い物に付き合ってRichmondのコストコへ行く。

ご存知の方も多いと思うが、このコストコは危険である。なぜなら全ての缶ジュースが24本セットだからだ。いくら安いからといって、旅先でコーラを箱買いするのは余りにもリスクが高い。15年前に私がはじめてカリフォルニアでコストコを訪れた際、Vintage Colaという知らないコーラを不幸にも見つけてしまい、40℃の炎天下の中自転車で1時間かけて持って帰った辛い思い出がある。

幸い今回は命を削ってまで欲しいと思わせるコーラはなかったので、土産物屋の半額のスモークサーモンのみを購入。しかし、やはりコストコは何かが狂っている(褒め言葉)。

その後、Markの行きつけの中華料理屋で一杯150円の坦坦麺を食べて、昼過ぎにダウンタウンに到着。Pick Upまでタイムリミットは約4時間だ。進撃ルートは目抜き通りのRobson Street からDenman, Davis, Granville通りの「ゴールデンスクエア」である(今命名)。

新型ケースと青いコーラ

まず手始めに、Robson通りのスーパーやドラッグストアを見る。この手の大型店は一発こそ少ないが、コカ・コーラとペプシのラインナップをほぼ網羅しており、加え2流所やPB(プライベートブランド)を扱っているため軽視できない存在である。また稀にRCなど、2流どころが格安販売されているケースもある。

ただネックとなるのは基本的に箱売りであること。稀にあまりものをカゴに入れてばら売りしているケースもあるが、それがなければお客様窓口で交渉することになる。(レジの人は忙しいので取り合ってくれない)

興味深いのは、350ml缶マルチパックの箱形状が変ったということだ。以前までは3缶x4缶のずんぐりしたものがメインだったが、今ではコカ・コーラとペプシの箱は全て2缶x6缶の細長いタイプに置き換わっている。

このマルチパックはGraphic Packaging International 社が2000年に商品化した「Frige Vendor」と呼ばれるタイプ(註1)。先端を切り取ると1缶だけ取り出せるようになり、その名の通り冷蔵庫に箱ごと入れてベンダーとして使えるという優れモノだ。

今までだと箱から飲む分だけ取り出して冷やすので冷やし忘れたときはかなり鬱になったものだが、この箱は人類をその悲劇から救ってくれるだろう。ただしうちの冷蔵庫には奥行き的に入らない。

もう一つ興味深かったのが、プライベートブランドに「青い」コーラが登場していたこと。例えばIGA等で見かけるPresident's Choiceの「New Wave Cola」などがその典型だ。青はもちろんペプシのブランドカラー。つまりこの青いコーラはペプシのイミテーションなのだ。

これまでPBといえばコカ・コーラのミミックが一般的で、デザインも赤をベースにどことなくコークを連想させるものが多かった。しかしペプシのシェアが比較的高い北米ではペプシ派をターゲットにした戦略が必要なのだろう。まさに目から鱗。類似品が出回るということはペプシのブランド力の証明でもある。

とりあえずサービスカウンターでゴネて、ばらして売ってもらった。お店の人の面倒そうな表情が印象的だった。

裏切られた想い

前菜も終わり、いざメインディッシュへ。やや重くなったリュックを背に、意気揚揚とRobson通りをStanley公園に向かって進む。4年前の実地調査では、この付近の個人商店でDevil ColaやBrainwash Colaなど数々の伝説的なコーラを発見した。二匹目の泥鰌なんとやら、期待はいやがうえにも高まる。

しかし、歩いていくと何やら様子がおかしい。全くないのだ! コーラが、ではない。あれだけあった怪しげ(失礼)な個人商店が、 全てセブンイレブンとかスタバとかお洒落なショップに置き換わっている。Denman通りも昔の雰囲気はなく、こじゃれた通りに変貌していた。

あああ・・あの北米中の怪しいコーラを引き付けたあのVancouverの雰囲気は、もう過去のものになってしまったのか・・。

ややガラの悪いGranville通りの南で個人商店をいくつか発見したが、Simpson’s Colaを見つけるのが精一杯。コーラブームの去った後でそれほどの期待はしていなかったとはいえ、変なコーラを育んだ独特の雰囲気がなくなりつつあることにショックを隠せなかった。

コマーシャルドライブ掃討作戦

夕方になり、夕食を取りにスカイトレインのMetrotown駅でMark & Terryと待ち合わせする。Markにダウンタウンの雰囲気が変ってコーラの種類が激減していた旨を告げると、あそこならまだ残っているかもとCommercial Driveの名前を挙げた。

Commercial Driveはダウンタウンの東に位置する古い通りだ。名が残すようにかつてはVancouverの商業の中心として栄えたところで、中心が今のダウンタウンに移った後はヨーロッパ系の移民を多く受け入れた地域として知られる。現在はアジア圏の移民も増え、様々な文化の混じりあったエスニック色豊かな町並みを形成しているという。

なんとかリベンジを果たしたい私は矢も立てもたまらず、Commercial Driveでの夕食を強行に主張した。

薄暮の住宅街を抜けて、Markの運転する車はCommercial Driveへと向かう。近づくにつれて建物の高さが低くなり、古い様式の木造の家を散見するようになる。ダウンタウンにはない趣のある町並みだ。

TerryがCommercial Driveについて「新今宮みたいやで」と日本語で教えてくれる。西成か。上等だ。

かくしてCommercial Driveは、2階建てのやや古風な建物が並ぶ趣のある通りだった。すこし速度を落として、Markが運転しながらレストランの名前を読み上げてくれる。イタリア、韓国、ギリシャ、ベトナム、トルコ、バングラディッシュ・・・ありとあらゆる国のレストランが軒を連ねている。それも誰かが企画して集めたものではなく、其々の国の人が自発的に集まって一大エスニック街を作り上げているのが凄い。

優柔不断の我々がたどり着いたのは、通りの一番外れの古いイタリアンレストランだった。この地域ががLittle Italyと呼ばれていたころから営業しているというこの店は、ホームメイドのパスタとパンが自慢の人気レストランだという。この日も店は満員で、巨大なミートボールの乗ったミートソースパスタが厨房から次々と運ばれてゆく。

パスタはとびきり美味しいというわけではないが、何処か懐かしく飽きの来ない味わい。ボリュームも満点だ。自家製のパンはほど良く酸味が利いていて、ミートソースととても相性がよい。全ての料理を平らげたのは、とっぷりと日の暮れた頃だった。

Commercial Driveの夜は早い。急がねば。

Markが通りの中心に車をとめる。ざっと見回した感じだと、周囲2ブロックに15件くらい食料品店がある。このダウンタウンでは考えられない密度は、特色のある様々な国の食料品店が集まっているからだ。その中でこの時間まで営業しているのは10件程度だろうか。

さっそく通りの東側の店から作戦開始。夜8時過ぎに東洋人とカナダ人親子の4人組が入ってくるなり飲料棚に直行し、食い入るように見回した後すぐに出て行く様子は店員にはどう映っていたのであろうか。コーラだけを眼中において、次から次へと店を回る。

大きな飲料棚は両端から分かれて。途中Markから「Shin! Do you have this?」の声が飛び、駆けつけることもしばしば。既に持っているコーラも多かったが、中にはCott BeverageのChubby Colaなどの掘り出し物が見つかった。

約30分でほぼ全ての店をチェックし終わる。移動を含め、一店あたりの所要時間は約3分だ。これだけ効率よく回れたのは小さな商店のひしめくCommercial Driveという土地柄に加え、私のコーラを探すことだけに専念してくれたMarkと嫁の協力があってこそ。持つべきものは理解のある友人である。

今回購入出来たコーラは2つだけであったが、どちらも特徴のある「当たり」コーラ。状況を考えれば十分すぎる戦果だ。しかし何より、6年前に我々を魅了したあの雑然とした雰囲気ががまだVancouverに残っていたことが今回の最大の収穫であった。

最後になにも分からぬままコーラ探索に付き合ってくれたTerryのために、トルコカフェのバクラバで〆る。ぱりぱりとした独特の食感とピスタチオの風味を楽しみながら、今度は昼間のCommercial Drivenを思う存分探索しようと心に決めた。

カナダの日は暮れて

カナダを覆う好景気の波は、ダウンタウンを数年でより洗練された美しい街に変えた。ちょっと入るのに勇気の要った小さな個人商店は見覚えのあるフランチャイズショップに替わり、見慣れたロゴがとおりを賑わす。街角を歩いているとふと自分がどの国にいるのか分からなくなる。

グローバル化が蔓延する中で、しかしVancouverはCommercial Driveというアンチテーゼを作った。そこには様々な「異文化」が疎水結合のように集い、新しい文化的ムーヴメントの中心としてその輝きを増している。この異なる文化に対する懐の深さこそが、隣国アメリカにはないこの国の魅力なのだろう。

これからもこの国がマイナーコーラの育む、多様性に富んだ文化の土壌を持ちつづけてくれることを期待したい。

 

おまけ

その1。今回の旅で一番高かったコーラは、Banff・Sulfur Mountain頂上のPEPSI Lime (591ml PET)。標高2285mとはいえ、ゴンドラで行けるところで$3.00はちょっとボりすぎだ。

その2。秋から冬のBanffは寒く、道路の凍結などによる事故が多発する。そのため、いろいろな所で転倒注意を呼びかける標識がある。転倒の様子が場所によって違って興味深い。

普通の横断歩道 やや滑りやすそう かなり滑りそう。危険。

 

(註1) レンゴー・リバーウッド・パッケージング株式会社 AsiaBev配布資料 (Beverage Japan No. 276より抜粋)による


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