コーラ白書
TOP 四季報 データベース 缶コレ 資料館 殿堂 検索 ヘルプ
コーラ津々浦々「鉄道とソーセージとビールとコーラ」

DBの旅

時差ボケで早朝覚醒。ドイツは9月末までサマータイムのため5時半でも外はまだ真っ暗だ。カポーティの短編集を読みながら夜が明けるのを待つ。

1階のレストランの朝食はビュッフェスタイルで、チーズとハムの種類がものすごく豊富で驚いた。サーディンの酢漬けやヨーグルトなどもあったが、生野菜はトマトと野菜ジュースのみ。これはここだけではなくドイツの朝ご飯に共通していた。個人的にはコーヒー味のヨーグルトがヒットだった。

駅のパン屋でサンドイッチを調達し、8時50分のICEでOffenburg へ向かう。ICEは日本の新幹線にあたる高速長距離鉄道で、予約した一等車はグリーン車に相当するようだった。1席-2席で並んだ革張りシートには全て電源かついていて、周りはノートPCで仕事をするビジネスマンがほとんど。携帯をデッキでかける習慣はないようで、いたるところでノキアの携帯の着信音が鳴っていた。

ICE1等車。座席はひっくり返らないので、後ろ向きに進むことも。

今回は日本からオンラインで予約を取ったので、こちらもチケットレス。2次元バーコードをプリントアウトして、車内で車掌に決済したクレジットカードといっしょに見せるシステムで、駅でチケットを受け取る必要がない。予約情報は座席の液晶に反映され、その座席がどの区間で予約されているのか表示されていた。列車の予約のシステムはドイツが一歩進んでいるように感じた。

車掌さんは売り子さんもかねているようで、検札が終わったらこんどはコーヒー売りに大忙し。日本ようにワゴン販売ではなく、トレーに白いマグカップに入ったコーヒーを載せて席を回るスタイルだ。他の飲み物も食堂車からもってきてくれるのだが、ここでのコーラは珍しくPEPSIだった。アメリカAmtrakのコーラもPEPSIだったし、彼らは鉄道業界に戦略的に注力しているのだろうか?

美しき湖畔の街

Offenbergにつく頃には、予報のとおりの大雨になっていた。寒々とした駅の鉄製のベンチに腰をおろして、乗り継ぎの間にサンドイッチを食す。夕暮れのような暗さの空を眺めながら、乗り継ぎ列車の来るのを待つ。

Konstanz行きの急行は対面式コンパートメント座席の、どこか懐かしい雰囲気の列車だった。予約出来ない車両だが乗客はまばらで、問題なくコンパートメントをひとつ占領できた。窓際の金属製のゴミ箱がノスタルジックだ(本号表紙参照)。

空調は乗客が勝手に調整できる仕組みで、温度を上げる客と下げる客とのさりげない攻防が面白かった。

列車は深いシュヴァルツヴァルトの森を抜け、いくつかの古城を臨みながら2時間半でKonstanzに到着。Konstanzはドイツとスイスの国境に位置するボーデン湖畔最大の街で、4世紀にローマ帝国によって基礎が築かれたと言われる。この場所を選んだのは特に歴史的な好奇心からなどではなく、なんとなく大きな湖を見ながらぼーっとしたかったからだ。

早速Steigenberger Inselhotel にチェックインしたものの、洗面所の照明を取替え工事中だったので傘を借りて街を散策することにした。このホテルの西側は旧市街にあたるところで、大聖堂やバロック様式の町並みが残る。曲がりくねった石畳の路地が霧雨に煙る姿はしっとりと美しく、この日ばかりは雨に感謝した。

雨のコンスタンツ旧市街。

ああ!奇跡の再会い

しかしコーラ探しは難航した。ここがアジアやアメリカと違うのは、コンビニ文化がないことである。また自販機も圧倒的に少なく、コーラを入手できるのはレストランやカフェに限られる。しかし飲食店は値段が高い上に売れ筋の商品しか扱わないので、種類が極端に限られてしまう。市場の全体像を掴むには小売店を探し出すしかない。

コーラにたどり着いたのは、探索をはじめて小一時間ほど経った頃だった。Marketsatteという広い通りにあるデパートの地下に、地元のスーパーを発見。教会の地下に隠し部屋を見つけたような気分である。ドイツに来てはじめてのスーパーに、いやがうえにも期待は高まる。

圧倒的優勢のコカ・コーラ群に混じって姿を表したのは、ドイツの誉・afri-colaであった。その昔は世界最高レベルのカフェイン含有量を誇り、アメリカでもライセンス製造されるドイツを代表するコーラだ。

コーラ白書としても大いに注目していたコーラで、以前はafri-colaの営業(?)の人からボトルやノベルティを送ってもらったこともあったが、「ネッスルに買収されるので辞める」というメールを最後にその動向は分からなくなっていた。

寸胴の一リットルPETボトルではあるが、黒地に白い椰子の木のシンボリックなデザインは見まごう事なきafri-colaのものだ。どこか人を不安にさせるような、独特の雰囲気のあるグラフィックが健在で嬉しくなる。

買収のあとカフェイン量が減らされたと聞いていたが、ラベルには誇らしげに25mg/100mlの表記が・・・。って、350ml換算で87.5mgじゃん!Joltの71.2mgやRed Bullの82mg(12オンス換算)を凌駕する、ものすごいカフェイン量である。

後から調べてみるとafri-colaは2006年にレシピを変更し、オリジナルに近いものに戻したとのこと。前回の買収の際に「表記の必要のないレベル」まで落としたカフェインが、今は法定含有量ぎりぎりまで戻っているのだ。Afriはまさに復活していたのだ!ああ、涙で前が見えない・・・

感動の再会ではあるが、やっぱり一リットルは重いのでここでの購入はパスすることにした。

向こうの棚では嫁が1kgの巨大プリンを見つけて大喜びしていた。

混ぜるな危険

飲料コーナーを一回りして、ドイツのコーラ事情はおおよそ理解できた。しかしここで忘れてはいけないのは、お酒のコーナーである。近年アルコール系コーラがヨーロッパに進出し、思わぬ掘り出し物があったりするのだ。しかし今回のは、ちょっと予想外であった。

ワインコーナーを抜けてビールの棚へ。さすがドイツ、ビール多いなぁなんて思っていると、そこにColaの文字が!騎士の紋章に出てきそうな竜のエンブレムに、ポップなCabのロゴ。その上には間違いなく、COLA & BEERの文字が・・。そうですか、混ぜちゃいましたか。

このCab、どうやらビール50%にコーラとドラゴンフルーツのフレーバーを加えたなかなかチャレンジングな飲み物らしい。パッケージはどうみてもビールなんだけどなぁ。なぜかこいつだけばら売りがなく、頑丈なボール紙のシックスパックにちんまり収まっている。アメリカならカスタマーカウンターでばら売り交渉をするところなのだが、ドイツでは言葉が通じるかも分からない。仕方なく6本お買い上げ。3.67ユーロ也。

こいつだけが突然変異かと思いきやこのビールコーラはどうやら今ドイツでかなりホットな飲み物のようで、立て続けに3種類発見された。中にはKarlsbergの”Mixery”なんてものあり、語感から名門としてビールにコーラを混ぜなければならない惨めさ(Misery)が滲んでるのだろうかと勝手に思いを馳せてみる。

いきなりヘヴィになったリュックを何度も背負いなおしながら、なぜかマクドで晩御飯を食べてホテルに戻った。

出会いは突然に

次の日は妻の希望でボーデン湖に浮かぶ植物園の島・Mainauへ赴く。Konstanzの港から出る船は、対岸のMeersburgを経由してMainauへ向かう。昨日からの雨が上がった空には青空が覗き、凪いだ湖面からは爽やかな風が吹き抜ける。ああ、携帯とメールのない旅って最高。

広大な植物園を1時間くらいかけて回った後、休憩のためカフェテリアに立ち寄った。何気なく飲料の棚を見ると、afri-colaの500mlPETボトルが並んでいるではないか。値段は3ユーロ、スーパーの一リットルが0.89ユーロだったことを考えると釈然としないが、重さが半分になると思えば差額は安いものだ。結局売店でafri-colaを見たのは後にも先にもこれだけだった。

Konstanzで一泊以上すると、観光税の還元として公共交通のフリーチケットがもらえる。折角なのでバスでダウンタウンまで帰ることにした。バス停の自爆スイッチのようなボタンを押して待っていると、しばらくして2車両連結のバスがやってくる。ドイツで感心するのは、日常のちょっとした機械や道具に工業デザインが生きている点である。さすがバウハウスの国だ。20分ちょっとでダウンタウンまで無事帰ってこれた。

この街に限らずドイツではトルコの人の姿を良く見かけた。彼らの持ち込んだケバプと呼ばれる肉料理は既にドイツの食文化の一部となっており、トルコの食材を扱うスーパーもある。Konstanzの旧市街の外れで見つけた店も、どこか異国の匂いがするところだった。

薄暗い中に食材が無造作に並べられた店内は、例えるなら照明を消したスーパー玉出のよう(鮮度はもう少しよさそうだったけど)。ちょっと入りにくい雰囲気だが、過去の経験からこういうところには未知のコーラが潜んでいる可能性が高いことを知っている。ちょっぴり勇気を出して、店員さんの視線を感じながら散策してみると・・あった。

冷蔵棚の中に、赤と白のシンプルなデザインのコーラが鎮座していた。Cola Turkaだ。このコーラは名前の通りトルコのメーカーの、アメリカ帝国主義(?)の清涼飲料メーカーに対して作られた国粋主義的コーラである。表記は4ヶ国語で、バーコードの上二桁「86」はトルコ製品であることを物語る。このコーラについては噂には聞いていたが、まさかドイツで入手できるとは思っていなかった。

ぬるい国境

思わぬ収穫に大変機嫌をよくした私は、ショッピングセンターのレストランでこの旅行中最も高い晩御飯を食べたあと(といっても二人で30ユーロだが)、スイスに行くことにした。Konstanzの街はスイスと国境を接していて、地図上だとレストランから100mほどで隣国にいけるようだった。折角ヨーロッパに来たのだから、ふらっと別の国に行く経験をするのも面白い。

南へ続く比較的大きな道を選んでしばらく歩いていると、なにやら国境らしき建物が見えてきた。国境といってもゲートがあるわけではなく、道路の両脇に事務所のような建物があるだけだ。パスポートを用意して準備万端にして近づいてみたが、係員がどこにもいない。あまりにも何もなくて困っているように見えたのか、車道で車の運転手と話していたおじさんがやってきて一応パスポートだけ確認してくれたが、スタンプも手続きも何も無し。スイスって非EUだよね?

後から知ったのだが、歩道などで越境するところには監視カメラ1台だけというのもあるらしい。島国育ちの私にはちょっとしたカルチャーショックであった。

ドイツ側は観光地なのだが、スイスに入ると突然普通の街になるのがKonstanzの面白いところだ。特に見るものもないし、お金もない(ユーロは使えない)ので3ブロックほど歩いて引き返すことにした。ひとつ興味深かったのは、ドイツではほとんど見ないコカ・コーラの看板がスイスに入った瞬間あちこちに現れるところ。コーラのものに限らずドイツでは看板自体が非常に少ない。何か法的な規制があるのかもしれない。

コカ・コーラロゴまみれのスイス側Konstanzのピザ屋

 

→「鉄道とソーセージとコーラ」後編へ

←「鉄道とソーセージとコーラ」前編へ