コーラ白書
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中本 晋輔

 

始まりは一通のメール

コラノキという植物がある。

コラノキはアフリカ原産のアオギリ科の植物で、学名「Cola nitida」。カフェインやアルカロイドを豊富に含むコーラナッツを実らせることで知られる。これを原料にしたの飲み物が黎明期のコーラであり、現在の「Cola」という清涼飲料の語源となった植物だ。

コーラを研究するものにとって、この母なる木に関心が向くのは当然の成り行きだった。コラノキがどのように育つのか見てみたい。そしてあわよくばコーラナッツを収穫して、オリジナルのコーラを作ってみたい。

昨年夏の引越しを期にいろいろとこの木について調べてみたが、そのハードルはかなり高そうだった。成長すると10mを超える巨木になり、また耐寒性が低く日本では地植えで育成できない。そもそも苗木の入手が非常に困難で、ネットを探しても過去に販売された例が数件あるだけ。

近所の植木屋さんに相談すると「うーん。うち息子がコカ・コーラ勤めてるから聞いとくわ」とのお返事。要するに、そんな変な木聞いたことないということらしい。

コラノキ育成と自家製コーラは叶わぬ夢なのか。でもいつかやってやろう、なんて思っていた6月のある週末、1通の携帯メールが届いた。

「ヤフオクにコーラの種が出てますよ」

夢が不意に現実味を帯びてしまった。

 

右往左往

日曜日の夜、無事にコーラの種を1個落札。久々に緊張感のあるオークションが終わり、やれやれと一息ついて改めてオークションの説明を読みかえす。「玄人向きの熱帯果樹です。初心者にはお勧めしません。」の文字でハタと我に返った。

どうやって育てるんだろう.・・・

私は植物の育成については小学校の夏休みの朝顔を枯らすほどの腕前なのだ。

ヤフオクの取引ナビで出品者とやり取りをしていると、入金完了を知らせる前に「種子の寿命が短いので、出来るだけ早く郵送したかったので、」とまさかの見切り発送。え、寿命?種ってほっといても大丈夫なものじゃないの?予想外の展開に戸惑う中本。

そして2日後、ついにそれはやってきた。

「第四種農産種苗」という見慣れない押印の茶封筒の中には、ビニールにくるまれた茶色いモケモケした塊が一つ入っていた。明らかに予想していたモノと違う物体を前に、途方にくれる中本。これが種?まわりのモケモケは何?無造作に開封してよいの?

とりあえずその日は寝ることにした。

助っ人現る

翌日。これからの作戦を練る。

今回のプロジェクトは自分で対応できる範疇を明らかに超えており、この分野の知識を持った人の助けが必要だ。そこでアドバイザとして、先のメールの主である同僚のひょうさん(仮名)を招聘することにした。奴は農学部出身であり、家でコーヒーをはじめたくさんの植物を育てた経験があり、そして週間少年ジャンプをこよなく愛する人物である。

昼休み、早速ひょうさん先生に種を見てもらうことにする。モケモケのものは保湿用のミズゴケで、水分を含んだ状態でも腐りにくいので種子の保湿に使われるものあることを初めて知る。それを丁寧にはがしていくとピスタチオ色の種がコロンと姿を現した。

でっか!

直径3cmを超える、ハート型の大きな種だ。見た目はゴツゴツしているが、保湿されているせいか表面はしっとりと柔らかい。ハートのくぼみの部分から発芽するのだろう。想像していたものと全然違うなぁ・・・さすがの先生もコーラの種を見るのは初めてのようで、心なしかテンションがあがっている。

 

ひょうさん先生によると、コラノキを育成するにあたって注意すべき点は2つ。

ひとつは種子が発芽するかどうか。種子の発芽には水分や温度などの環境が揃わなくてはいけないのだが、このコラノキに関しては情報がないためぶっつけでやるしかない。また仮に条件が揃っても種子が休眠期に入っていれば発芽しない可能性もあるらしい。うまく発芽させれるかどうかが最初の関門なのだ。芽が出なくても泣かない!

もうひとつは耐寒性。アフリカ原産のコラノキはおそらく寒さに弱い。仮にコーヒーの木と同じと考えると限界温度は5℃程度、すなわち屋外では日本の冬を乗り切れないのだ。だから地植えはもちろんNGで、環境を整えた室内で育成することになる。場合によっては冬場に設備投資も覚悟しなければならない。

予想を超えるハードルの高さ。しかしここまできた以上、不退転の決意で進むしかない。

 

植えてみる

6月13日。種まきのための準備をする。先生にもらったメモを片手にお店へ向かう姿は、さながら「はじめてのおつかい・大きなお友達編」だ。

コーナンその他を回って購入したのは次のとおり
・ 3号鉢
・ バーミキュライト
・ 土流出防止ネット
・ ジョウロ
・ スコップ

バーミキュライトというのは雲母のような鱗片状の成分を多く含む土。養分は少ないが保湿と水はけを両立したスグレモノで、種子の発芽に最適だという。これをネットを敷いた3号鉢に9割くらいまで入れ、大量の水で土を洗う。ゾウさんジョウロでの水の軌道のコントロールが予想外に難しいことを知る。

水が完全に抜けたら、ここで真打の登場。コラノキの種を取り出し、ハート型のくぼみが横になるようにそっと埋める。種が大きいため号鉢が手狭で、なんとか土に隠れたという感じだ。

3号鉢の底にネットをしく
バーミキュライトを9割くらい入れる
湿らせた後、種を植える

でかくて埋まらない

このから再度水をやり、種まきは無事終了。いや、無事かどうかはわからないんだけど、なんとか手順どおりにこなした。あとは鉢を温度変化の少ないリビングに置き、毎日欠かさず水をやるのみだ。

 

まさかの・・・

樹木の種子はすぐには芽が出ないことが多いので、気長に毎日水をやり続ける。「まぁ半年たって腐ったようなにおいがしてきたら失敗と思ってください」とは先生の弁。振動も発芽によろしくないとの事なので、洗面所に木箱で特等席を作ってやる。

はじめは夏休みの朝顔気分で毎日楽しみに水をやっていたが、1週間たっても2週間たっても植木鉢に変化は現れない。1ヶ月経過してもバーミキュライトの表面は相変わらず平坦なままだ。徐々にテンションが下がり水やりがルーチンワークになってきた7月の半ば、土の一部が盛り上がってるのに気づいた。

盛り上がった部分をよく見ると、薄緑の細い物体が・・・これはまさしく芽だ。

 

出芽きたー!

種に水をやって発芽させるのは小学校ぶりで、ちょっとした感動を覚える。学級菜園の様子が走馬灯のように駆け巡ったほどだ。とりあえず第一関門はクリアだ。

先生にメールすると「なめくじとか青虫じゃないですか」とのご回答。いや、芽ですって。

 



とりあえず発芽には成功したが、ここからが本当の勝負である。この芽はちゃんと木に育つのか?最適な育成環境は?そもそも本当にコラノキなのか?

 

コラノキ育成記?に続く

参考:コラノキ(コラの木)