コーラ白書
TOP 四季報 データベース 缶コレ 資料館 殿堂 検索 ヘルプ

中本 晋輔

ローカルメーカーによる地方色豊かなビールやサイダーは数多くあるが、コーラに関しては残念ながら日本ではほとんどないのが実情だ。その稀な例、それも地域の材料をつかった真の「地コーラ」が、沖縄県の離島・伊江島にある。

イエソーダトリプルエックス、ブラックケインコーラ。ちょっとワル乗りした名前だが、その中身はいたってマジメだ。この日本に数少ない地コーラについて深く知るべく取材を申し込んだところ、意外にも快諾して頂けた。

コーラ白書初となるメーカー直撃取材の先は碧い海に囲まれた南国の島になった。

 


 

イエソーダ発祥の地、伊江島は沖縄本島の北西に浮かぶ。人口約5000人、面積23km2ほどの自然に恵まれた美しい島で、スクーバダイビングの名所として有名だ。一方で沖縄戦の激戦地としても知られ、現在でも米軍基地イエジマサイトが残る。失礼ながら私はイエソーダとめぐり合うまでこの島のことをほとんど知らなかった。

伊江島には滑走路が4本もあるのに現在定期便がなく(註1)、アクセスは那覇空港から陸路とフェリーを使うのが一般的。ヘリのチャーターも可能だがこちらは26万円とちょっと手が出ない。

沖縄の一人旅ならバスが一番安いのは、前回の取材で学習済み(註2)。空港始発の111番高速バスで終点の名護バスターミナルまで行き、そこでバスを乗り換えて本部港へ。そこからフェリーで半時間ほどで目的地に到着する。111番バスは30分に1本出ているので、律速段階は1日4便のフェリーである。

那覇空港に降り立ったのは7月の最後の日。梅雨の明けきらない大阪から来くると夏本番の日差しが眩しい。早速チケットを買おうと案内所にいくと、「整理券をとってフリーな感じで乗ってください」とのこと。高速道路を使うだけで普通の路線バスとおなじ仕組みのようだ。

バスが来るまでの時間を自販機の限定飲料チェック(註3)でつぶして、10時45分発の高速バスに乗る。お客は一人でちょっと得した気分。バスは那覇バスターミナルや途中のインターチェンジで乗客を拾いながら高速道路を北上する。車窓からの亜熱帯の森や時折見える青い海を眺め、米軍演習場近くの「流れ弾に注意」の看板にツッコミを入れつつ2時間弱のバスの旅を楽しむ。

名護バスターミナルに到着したのが12時半。そこから今度は65番バスに乗り換える。本部港までは路線バスで35分程度、13時のフェリーにはちょっと間に合わない計算だ。では昼ごはんでも食べようと周りを見てもターミナルの周りにあるのは「まいどおおきに」チェーンのヤンバル食堂しかない。

地元で「まいどおおきに食堂」常連の私としては旅先で敢えて行く気にもなれず、ちょうどやってきた65番バスに乗ることにした。またしてもバスを一人で独占しながら、車窓から紺碧の海を眺める。この海は大阪港と繋がっているらしいが、未だに信じられない。

13時23分に本部港前で降りると、出発したはずのフェリーが埠頭でスタンバイしているではないか。後でわかったのだが、夏休みの期間は増便のため運行スケジュールが変更されるのだ。

慌ててチケットを買って客室に滑り込んだ。

この伊江フェリーの運賃は往復で1320円。内訳は本部港から伊江島港が700円で、逆ルートが620円という、珍しい非対称の往復券だった。

客室はけっこう混んでいて、夏休みの帰省だろうか子供の姿が目立つ。あちこちから「久しぶりねー」「どれくらい島におるの」という会話が聞こえてきて、このフェリーが人と人の架け橋であることを実感する。

売店で100円のコカ・コーラを頼み、ディスペンサーの写真を撮らせてほしいと伝えると「どうぞどうぞ」と店員さんが笑顔で応じてくれる。ジュースやおやつ、カメラなどが山積みのカウンターに「うみぶどう」の張り紙を見つけ、自分が沖縄に来たなぁという気分になる。

古き良きフェリーの売店
米軍も利用するためか、英語表記が目立つ

フェリーは穏やかな海を滑るように進み、やがてスピードを落とし始めた。デッキに出ると緑の島影が目前に迫り、イエソーダのラベルにも描かれた伊江島のシンボル「城山(ぐすくやま)」がその荒々しい姿を見せていた。

→ 美しい南の島の地コーラを訪ねて 中編 

 

(註1)通常の滑走路が1つ、昔B29が使ったといわれる滑走路後が1つ、米軍基地内に2つ。以前はセスナの定期便があったが現在は廃止されている。
(註2)コーラ四季報1999年4月号 津々浦々参照
(註3)沖縄は地域限定の飲料が多く、これを見つけるのが旅の楽しみの一つである。またポッカやUCCが強いなど、内地とは市場の勢力図が異なる点も要チェック。