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もともとコーラの甘味料は砂糖だった。 コーラ黎明期の19世紀後半より1960年代後半まで砂糖はコーラのパートナーであり続けた。しかし70年代、アメリカの清涼飲料メーカーはコストダウンのため当時開発されたばかりの甘味料「異性化糖」に手を出す。 果糖ブドウ糖液糖(註1)・コーンシロップなどとも呼ばれるこの甘味料は清涼飲料市場を席巻。国内でもコカ・コーラを筆頭にコーンシロップの採用が進み、砂糖のみを使用したコーラは絶滅寸前の状況であった。 しかし近年、その状況が少し変わりつつある。砂糖のみで仕上げたコーラが徐々に増え始めているのだ。今回はそんなちょっと懐かしい砂糖を使ったコーラを取り上げてみる。
異性化糖の壁先に述べたように、現在でもコーラの甘味料の主役は異性化糖の液糖である。国内でもコカ・コーラ、ペプシともに果糖ブドウ糖液糖と砂糖の混合甘味料を使用している。スーパーのPBブランドなどの廉価コーラではほとんどが異性化糖のみである。 異性化糖の液糖がコーラに使われるのには理由がある。ひとつは価格。トウモロコシなどのデンプンを酵素処理して大量生産する異性化糖は、砂糖に比べると低コストなのだ。 もう一つは、その甘みの性質。果糖を含む異性化糖は温度が低いほど甘さが強くなる性質がああり、清涼飲料用に使いやすい。さわやかな甘さも手伝って、異性化糖はコーラに向いた甘味料といえる。 では、なぜ今あえて砂糖をコーラの甘味料として使うのか。理由は2つある。 ひとつはプレミアムコーラの台頭。一部のメーカーは従来のコカ・コーラ追従型の製品からより高付加価値なコーラへと製品をシフトさせた。柔らかく豊かな風味を持つ砂糖はコーラに高級感を付与し、異性化糖を使うコカ・コーラ、ペプシと差別化する絶好の材料となった。 もう一つは、近年の異性化糖に対する風当たりである。北米ではカロリーの高い果糖を含むこの甘味料は肥満の原因として槍玉にあげられ、実際に動物実験から健康への悪影響が指摘されている。また酵素処理を経て作る異性化糖は「人工的」な甘味料とみなされ、健康意識の高い消費者からは敬遠されるケースがある。 この点天然素材で異性化糖よりカロリーの低い砂糖は健康面から消費者に受け入れられやすい。砂糖100%コーラの多くがサトウキビ糖(CANE SUGER)という表現を使うのも、出所を明確にして安全性をを訴求する狙いがあるとみられる。
砂糖100%コーラの歴史先述したとおり、1960年代まで清涼飲料に使う糖類といえば砂糖だった。第二次世界大戦中に砂糖が不足した際には、アメリカ政府が優先的にコカ・コーラに配給したためペプシが砂糖探しに奔走したという話が残る。 しかし70年代に登場した異性化糖は市場に急速に広がる。1980年に当時のコカ・コーラ社長ロベルト・ゴイズエタが甘味料を変更する頃には、ペプシを北米でのほとんどのコーラは既に移行を終えていた。 この砂糖コーラの暗黒時代に一条の光を投げ込んだのが、JOLT COLAであった。1985年に登場したこの攻撃的なコーラの売りは「カフェインX2」と「砂糖100%使用」だった。つまりこの頃には砂糖100%は立派な訴求ポイントになるほどコーラ市場では珍しくなっていたのだ(註2)。 また95年にはロイヤルクラウン社が「RC Draft」をリリース。天然素材にこだわったこの世界初のプレミアムコーラには、甘味料にCANE SUGAR(サトウキビから取った砂糖)が使用された。その後2000年ごろまで北米でドラフトコーラがブームとなり、その多くに砂糖が使用されたが、コーラ市場に対する影響は少なかった。 暫く動きを見せなかった砂糖入りコーラに注目が集まったのは08年頃。ペプシがイギリス、メキシコ、アメリカで地域限定のナチュラル系コーラを相次いで投入。これらのコーラの甘味料には砂糖が使用された。また北米の気鋭ソーダメーカー、JONEもサトウキビを使ったナチュラルコーラを発売。特に08年夏のアメリカ大統領候補バージョンは話題を集めた(後述)。 また国内でも地コーラやコンビニ限定品ではあるが、砂糖を使ったコーラが入手できるようになってきた。
最近発売された代表的な砂糖入りコーラを紹介する。
今回これらの砂糖コーラを飲んでみて思ったのは、異性化糖を使ったものより美味しいという事だった。同じ糖類とはいえ、風味や後味の点でやはり砂糖に一日の長がある。 近年増えつつある砂糖100%コーラ。しかしその多くが限定商品で、メーカーも手探りの状態が続いている。この動きが今後世界的なブームに発展するのか、注目していきたい。
(註1)正確には異性化糖のうち、果糖の含有量が50%以上90%未満のものを果糖ブドウ糖液糖と呼ぶ (註2)現在のバッテリー型JOLT COLAは砂糖と異性化糖の混合に変更されている |