コーラ白書
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知らない世界からのメール

人類の未来や幸せに特に貢献しないコーラ研究サイトである本白書は、ご縁があって何度かマスメディアで紹介いただいたことがある。社会評論社からの書籍化をはじめ、日経新聞の文化面、TBSラジオ「日曜天国」など。くだらない話しかできないことに恐縮しながらも、色々な方に助けられてコーラの世界についてお話させていただいた。

テレビへの出演は過去何度かお話を頂いたことはあったが、実現していなかった。個人的にあまり露出したくないという気持ちに加え、他のメディアに比べ演出の要素が強く自由な話ができないこともその一因だった。中には「貧乏でも熱意のある方を応援する番組に出ませんか」なんて対応に戸惑うようなオファーもあった。

10月の中旬ごろ、ある番組のスタッフからメールが来た。「マツコの知らない世界」という番組でコカ・コーラを取り上げるので協力して欲しいという内容だった。

私はこの時どんな番組か知らなかったが、ネットで調べてみてとても興味が湧いた。マツコデラックスというタレントの存在感もさることながら、そのスタイルがなかなか斬新だったのだ。毎回一つのテーマを取り上げ、そのテーマに詳しい人(=マニア)がスタジオでマツコと1対1でトークするという番組なのだ。

物事と正常な距離をとらない人間の話を、傍から聞くことは実に楽しい。そのホストに鋭いツッコミのマツコデラックスさんを配するあたりも実にツボを押さえている。でも協力って・・・もしかして私が出演って事?

コカ・コーラの特集であれば、私よりも詳しい研究家はたくさんいる。お断りしようかと思っていたところ、どうやらコカ・コーラだけでなく日本・世界全般のコーラを対象にしたいという。関西に住むこちらの事情も色々と考慮して頂いていて、過去のテレビ局のオファーとは違う印象を受けた。

何度かメールと電話でのやり取りが続いたあと、ディレクターさんが本当に大阪にやってきたのだった。


ディレクターさんとの初めての打合わせは、新大阪で夜7時から行われた。改札近くのカフェの四人席で、ICレコーダとビデオを回しながらコーラについて色々と質問を受ける。

準備された質問はA4数ページ分、私のコーラ研究のきっかけからコーラの歴史・市場に関するものまで多岐にわたる。この内容を元に、構成を組み立てていくのだろう。さすがに「一気飲みとかできますか?」の質問には「無理です」と即答した。こちとら文化系なもので。

2時間近いインタビューの後、ディレクターさんは大阪の旨いものを食べることなく新幹線の改札に消えていった。

命知元年

収録は赤坂のTBSで行われることになった。

二回目の打ち合わせは収録の3日前に京都で行われた。当日京都の研究会に参加していた私の予定に、ディレクターさんが合わせていただいたのだ。私は研究会の懇親会を早々に抜け出し、18時半にディレクターさんと改札で待ち合わせ。八条口近くのガストのテーブルを陣取った。

席に着いて一息つくと、ディレクターさんはこう尋ねてきた

「中本さんがマツコさんに一番伝えたいことは何ですか?」

この突然の質問に私は正直戸惑った。作製側には「こういうことを言って欲しい」があるだろうと思っていたので、私の意志を聞かれると思っていなかったのだ。しかしプレゼンや司会進行をゲストが担当するこの番組では、そこに本人の想いがなければストーリーが作れないという。

そしてこの質問は、コーラ白書が世界に何を発信したいか?という事と同じなのだ。15年やってきた白書の意義を改めて問われた気がした。

しばらく考えた後、たどり着いたのが「コーラの多様性」という言葉だった。

コーラ=コカ・コーラと思われがちだが、世界には様々なコーラが存在する。そしてその競争の歴史こそが豊かなコーラ文化を作り出したと私は考えている。ペプシやRCがいなければダイエットコーラもカフェインフリーコーラも、そしてスプライトさえも誕生しなかった。

そんな私の話を、ディレクターさんは満足そうに聞いていた。この対象に対する「熱さ」こそ、この番組の構成上で最も重要なものだという。

その後は具体的なプレゼン内容を決める作業に入る。ディレクターさんが用意した叩き台の台本を元に、様々なアイデアやネタでストーリーで肉付けする。机の上にはコーラに関する本や資料が散乱し、ちょっと異様な雰囲気に(ガストさんすみません)

ここで大変なのが、内容の整合性の確認。誤った情報を発信しないために、プレゼンの内容が正しいかどうか裏づけをしていくのだ。この作業は基本ディレクターさんがやってくれているのだが、シェアや消費量などはメーカーに問い合わせても開示されないものが多い。

これらはコカ・コーラ本社の株主向けannual reportや海外サイトのFAQ、ビジネス情報サイトのニュースなど情報ソースを探さなければならない。それでも分からないときは、シェア情報や市場指標などからえいやで計算。「コーラ白書調べ」というやつだ。

今回の打ち合わせも2時間以上に及び、その後ディレクターさんは京都の夜を楽しむことなく新幹線の改札に消えていった。