インド人の同僚曰く、インドの国内出張のフライトは夜の便に限るという。昼間は交通渋滞が酷くて空港までの時間が読めない上、午前中のフライトは霧や砂塵で頻繁に遅れるからだそうだ。その日も私がベンガルール空港に着いたのは夜8時を回った頃だった。 思ってたんと違うセキュリティチェックを済ませて、ゲート付近のスタバで少し時間を潰していた。ロゴ入りのカップに入ったチャイは一杯300ルピー(約500円)。マサラが効いて美味しいのだけど、露店で10ルピーで飲めるものとそれほど味は変わらない。これほど価格差があっても商売が成り立つのがインドの奥深さである。 ベンガルールから目的地のプネーまでは1時間半ほどのフライトだ。インドの国内線は短距離でも軽食が出る。それもしっかり量がある。搭乗前のヘビーな夕食は禁物だ。 プネー行きの搭乗時刻のアナウンスが流れ、IndiGo Airのカウンターに列ができ始める。そろそろかとカウンターに向かう途中、売店の棚に見知らぬコーラが並んでいるのが見えた。近づいて紫色のその缶を見たとき、思わずアッと声が出た。 CAMPA COLAだ!
私がこのコーラを知ったのは今から12年前。初めてインドに訪れたとき、車窓越しの露店の脇に積まれていた古いボトルケースにそのロゴを見つけた。 それ以降私はずっとこのCAMPA COLAの事が気になっていた。インドに行く度に色々な人に聞いてみるのだが、昔は有名だったが最近は見ていないという事以外は分からなかった。 12年以上探していたコーラにあっさり空港で出会えてしまって、私は激しく動揺した。ベンガルール空港はほぼ毎年使っているのだが、これまで見落としていたのだろうか?とりあえず2本買って鞄に突っ込み、飛行機の座席で改めて眺める。ボトルに入ったクラシックなコーラを勝手に想像していたのだが、これは最新の製缶技術で作られたピカピカ紫のアルミ缶。ロゴの上には「CEREBRATING 50 YEAES」書かれているので、探していた件のCAMPA COLAには間違いないのだろう。ただ何か思っていたのと違うのだ。
プネーの空港に降り立ち、現地の同僚と落ち合う。空港の前はピックアップを待つ車で渋滞し、夜の10時とは思えないほど熱気と喧噪が満ちている。群衆の中からピックアップの運転手を見つけ、ようやく車に乗り込んでホテルに向かう途中に同僚が思い出したように言った。 「シンさん、リライアンスが清涼飲料に参入したんですよ」 曰くインドの財閥企業リライアンス・インダストリーズが2022年にCAMPA COLAのブランドを買収し、翌年にコーラを含む3フレーバーで復活させたのだという。ようやく話が繋がった。確かに先ほど購入した缶の販売者はRELIANCE RETAILになっている。新しいオーナーのもとでリバイバルされたのなら、この近代的なデザインにも納得がいく。 このCAMPA COLA復活劇は、リライアンスグループが清涼飲料に参入という意外性と、誰もが知る過去のブランドを同社がリーズナブルに手に入れた事がインドのビジネスマンの心をくすぐるようで、その後色々なところで同じ話を聞いた。ただ今回の旅程ではてCAMPA COLAをベンガルール空港の売店以外でで見ることはなく、拡販に苦戦していることが伺える。
プネーのコーラの看板たちプネーはインド南西部のデカン高原に位置する古都で、近年は学園都市や自動車産業の中心地として発展している。街には緑が多く、どこかゆったりした雰囲気がある。デリーやアグラに比べ看板の更新頻度が低いようで、街角には新旧入り混じったコカ・コーラやペプシの看板が並んでいる。 それでもペプシは2023年にロゴが刷新された影響か、新しいロゴデザインの看板が目につく
一方コカ・コーラは年季の入った古い看板がまだ残り、これはこれで味わいがある。
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