コーラ白書
> 四季報
2001年1月号
特集
津々浦々
Collectibles
対決
お便り
バックナンバー
連載記事
小説募集中

中本 晋輔

いまでも食堂や駄菓子屋で見かける、ガラスのボトルに入ったコーラ。その主役は当然中身の黒い液体であって、ボトルはコーラを工場から店まで運ぶための「容器」に過ぎないはずである。しかしコーラを集める者の間ではそれらの立場は簡単に逆転してしまう。コレクターにとって空のボトルが数万円の価値を持つことも珍しくない。

さらに、世の中には「中身を飲むことを目的としない」、つまり完全な鑑賞・収集用のコーラのボトルが存在する。それは「ミニチュア・ボトル」と呼ばれ、名前のとおり通常の1/3ほどの背丈しかない小さなコーラである。この飲めないコーラは、しかしながら人気・種類ともにコレクションの一カテゴリーとして確固たる地位を築いているのだ。今回はそんな本末転倒な、コーラのミニチュア・ボトルにスポットを当ててみたい。

■ミニチュアボトルの定義

"Miniature" とは「そっくりに小さくつくったもの」の意で、つまりコーラの瓶を模したレプリカである。ただ今日「ミニチュア・ボトル」と言うと次の条件を満たすものを指す事が多いようだ。

(1) ガラス製である

(2) 高さが3.5インチ(約8cm)程度である

(3) 中に液体が入っている

(3)に関しては必要条件というわけではないが、よほどの理由が無い限り空のものは価値がずいぶん下がる。ちなみにミニチュアボトルはコーラに限らず、ジュースやウイスキー・ビールなどボトルに入ったものなら何でも存在する。

■ミニチュアボトルの歴史

コーラのミニチュア・ボトルがいつ頃から作られるようになったのかについては、1929年につくられたコカ・コーラのプロモーション用のものが始まりだといわれている。このガラス製のボトルは高さ5cm程度で、中には黒い液体が入っている。またロゴも当時流通していたものと同じエンボス加工されていて、非常に精密に作られている。これが24本セットで専用の木箱(これもちっちゃいのだ)が付属するとあって、このアイテムアは現在かなり高価なコーラ・アンティークとして知られている。

このように70年以上の歴史を持つミニチュアボトルだが、米コカ・コーラが本格的に製造を開始したのは1993年になってからのことである。このときコカ・コーラは現在のスタンダードである「高さ3.5インチ」を採用し、以来すべてこのサイズに統一されている。ただ1993年以前にも様々な国で似たボトルがすでに製造されており、このサイズがいつ頃できたのかはよく分からない。プライスガイドでも純製でないボトルを"Non-U.S. Bottle" と呼んで、その扱いには苦心しているようである。

■黒い液体の謎

ボトルの中に入っている黒い液体、これは一体何なのだろうか。大方は黒インクか何かだろうと思っていたのだが、最近になって大阪・天王寺のVillage Vangardで気になる情報を見つけた。

「中に入ってんのは、本物のコーラの原液です。飲もうと思えば飲めるかも。俺はイヤだ。」

な、なんたる無責任発言!さすがVVだ。店員さんに聞いてみても「さぁ・・、多分・・・」と要領を得ない。こうなれば実際に試してみるしかあるまい(かなり嫌だが)。

というわけで早速実験してみた。ミニチュア用の栓抜きがないので、ラジオペンチで直径5mmほどの王冠を何とかこじ開ける。王冠は裏にコルクが張ってある上、ちゃんと爪が3の倍数になっており、その完成度の高さに驚かされた。

で、肝心の中身だが、確かに粘りけがあって甘い。ただ酸味をはじめとするコカ・コーラ独特のフレーヴァーはなく、カラメルとシロップだけ入ったもののようである。さすがコカ・コーラ純正品だけあってかなりちゃんと作ってあるものだと少し感心した。

★ ★ ★

日本ではあまり知られていないミニチュア・ボトルだが、海外ではこれまでかなりの種類のものが作られている。ここではコーラに関するもののうち代表的なものを紹介しよう。またあわせて、日本での入手の難易度を「レア度」として5段階評価したてみた。こちらは独断と偏見によるものなので、参考までに。

I. Miniature bottle (Returnable)

日常的に目にする機会が最も多いボトルとえいば、このリターナブルと呼ばれるタイプである。これらは回収・再使用を前提とするため、ロゴと必要最小限の情報だけが印刷されたシンプルなデザインが採用されている。ミニチュア・ボトルでもこのタイプは人気が高く、これまで様々な種類のものが作られている。

R-1. Coca-Cola (U.S.A 1993‐)

生産時期 現在

レア度  ★

現在最も代表的なミニチュアボトルのひとつ。コカ・コーラの純製品で、"Coke"のロゴ入りの赤い王冠が特徴。ロゴが胴体に直接プリントされただけの最もオーソドックスなバージョンである。ディスプレイ箱入りとキーホルダーになったものがあり、日本でもRed BarnやVillage Vanguardなどで比較的簡単に入手できる。値段はどちらも700-800円くらい。

R-2. Cola-Cola (中国 1993-)

生産時期 現在

レア度  ★★★

上記のミニチュアボトルの中国バージョン。ロゴが漢字になっている他は同じ部品が使用されている。こちらはあまり日本に入っていないようで、国内ではなかなか見つけられない。この他にもエジプトやイスラエル版が存在するが、こちらも入手は困難。

R-3. Coca-Cola (旧ロゴ)

生産時期 1980-1990年代前半

レア度  ★★

Coca-Colaの一世代前のボトルを模したタイプ。92年以前から存在しており、コカ・コーラの純正品かどうかは不明。赤い四角形の上にロゴが乗っているのが特徴で、日本でも1984-1997年にかけてこのタイプのものが生産されていた(現在は赤い部分がなくなっている)。こちらも世界各地のバージョンが作られていて、アメリカをはじめ中国・ロシア・インドなど種類が豊富なのが嬉しい(ロゴの横には国名が入っている)。現在は生産されていないようだが、数が多いのかeBayなどで比較的安価で買えたりする。

R-4. PEPSI Cola

生産時期 1980年以降

レア度  ★★★

PEPSI Colaのミニチュアボトルにも様々な種類があるが、これは80年代のボトルをモチーフにしたもの。他のボトルに比べてキャップが大きい。このボトルの出所は不明だが、製造技術が低く雑な部分が目立つ。最近は質の良いアルゼンチン製のボトルが主流になりつつある。

R-5. PEPSI Cola

生産時期 現在

レア度  ★

現在世界的に最も流通しているであろうPEPSIのミニチュア・ボトル。日本にも結構輸入されていて、Deliのような輸入雑貨店で入手できる。1900's, 30's, 50's, 60'sの4種類があり、ペーパーラベルまで精密に再現されている(写真は1900年代のもの)。米PEPSIは1998年に100周年を記念して4種のレプリカボトルのセットを発売していて、本品はそれらをミニチュア化したものである。値段は600円前後。この他、4つがセットになった"Revolution of PEPSI Cola"というのもある(後述S-3参照)

R-6. Royal Crown Cola

生産時期 不明

レア度  ★

コーラ界パイオニア、Royal Crown Cola (RC Cola)にもミニチュアボトルはある。ボトルのデザインは1950年代頃まで使用された「ピラミッドボトル」のものが採用されている。ただ本品の相場が$5前後なのを考えるとそれほど昔から作られていたとは思えない。入手はかなり容易。

R-7. Double Cola

生産時期 不明

レア度  ★★

現在では姿を消してしまった、Double Colaのミニチュアボトル。このコーラのボトルは表面にスクリューに溝が入っているのが特徴で、そのへんはミニチュアでもちゃんと再現されている。アメリカではアンティークショップなどでよく見かけるが、馴染みが薄いせいか日本にはほとんど入っていないようだ。ちなみにこのコーラは邦名「ダブルコーラ」で日本でも販売されたことがある。

R-8. Spur Cola

生産時期 不明

レア度  ★★★★★

シェアは少ないものの国際的に知名度の高いCANADA DRYのコーラ¢SPUR COLA£。そのミニチュア版がこれだ. Spur Colaはボトル自体が珍しく、そのミニチュアも目にする機会は少ない。ただ価格的には一番安い部類に入るので、単に人気がないだけかもしれない。

II Commemorative

イベントなどに記念ボトルがあるように、ミニチュア・ボトルにも特別につくられたCommemorativeバージョンがある。これらは製造数が少なく、その上種類の豊富なコレクター泣かせのアイテムである。そのぶんReturnableより高額で取り引きされることが多いようだ。

C-1 Coca-Cola World of Coca-Cola Atlanta

生産時期 現在

レア度  ★★

Coca-Colaのオフィシャル・ミュージアム"World of Coca-Cola"でのみ販売されている「ご当地モノ」ボトル。 現在Atlanta, Las Vegas, Tokyoの3つマイナーバージョンがあり、Atlantaのもの[写真]はもちろんs はもちろんAtlantaでしか買えない。なんかHard Rock CafeのT-shirtみたい。

C-2 Coca-Cola Niagara Falls

生産時期 1996-

レア度  ★★★

米コカ・コーラが1996年から製造している"Dintination Miniature"シリーズの一つ。ロゴ入りのアイコン(赤い円盤)の下に"Niagara Falls"とプリントされているが、特にナイアガラで作られたものではない。この「地名シリーズ」は現在50種類以上が確認されていて、地名もアメリカの州や世界の都市などさまざま(最近では"Route 66"なんてのもある)。入手はやや困難だが、集めがいのあるシリーズと言えるだろう。

C-3 Coca-Cola Polar Bear

生産時期 現在

レア度  ★★★★

1997年限定で製造されたCoca-Colaのミニチュア・ボトル。スキージャンプをするポーラーベアが描かれているが、これは日本でも放送されたCoca-ColaのCMの1コマである。ディスプレイ用の箱付き。

C-4 Coca-Cola Christmas 97'

生産時期 現在

レア度  ★★★

こちらも97年限定で生産されたCoca-Colaのクリスマスボトル。こちらは金属めっきを施したゴールドボトルである。コカ・コーラはこれまでクリスマスやオリンピックといった特別な機会にこのタイプのミニチュアボトルを生産している。1993年には6本パックのゴールド・クリスマスボトルも発売されている。

III Set Bottles

中には複数のボトルがセットになったものがある。これらは一般的に付加価値が高く、ミニチュアボトルの中でも特に人気の高いアイテムである。特に最近は"Revolution of Coca-Cola"のように一つのテーマを持ったセットも多く見られるようになった。

S-1. Evolution of Coca-Cola

原産国  U.S.A.

生産時期 1986年-

レア度  ★

コカ・コーラ100周年を記念してつくられた(らしい)ミニチュアボトルセット。1900年代のハッチンソン・ボトル(左端)から現在のホブルスカート瓶まで、コカ・コーラのボトル変遷が一目でわかるようになっている。 日本にもかなり輸入されていて、東急ハンズなんかでも買えたりする。値段はアメリカで$35.00、日本では5000-6000円くらい。

S-2. Haddon Sundblom's Coca-Cola Santa (Series One)

生産時期 1999年-

レア度  ★★★

Coca-Colaの広告を通じて現在のサンタのイメージを築いた画家・H.Sundblom.その心温まる作風は現在でも多くの人に愛されている。彼の初期の作品をモチーフにしたのが本品である。6本のボトルにはそれぞれ1931-1936年に雑誌に掲載された彼の作品が年代とともにプリントされている。将来的には続編も発売されるだろうが、彼は1963年までサンタの絵を世に送り出しているのでコンプリートするのは大変そうだ。$35.00.

S-3. Evolution of PEPSI Cola

生産時期 1999年-

レア度  ★★★★

前述のアルゼンチン製PEPSI Bottleをセットにしたのがこの"Evolution of PEPSI Cola"である。1900年から1960年代までの4種類のボトルが年代順に並んで固定されている。ケースは木製で、裏に"Made in Argentina"の印が入っている。若干の安っぽさは否めないが、なかなか見栄えのするアイテムである。

★ ★ ★

Miniature Bottleの魅力は、なんと言ってもそのサイズである。これは可愛いだけでなく、場所を取らないのでアパート暮らしの方でも心置きなくコレクションを楽しむ事ができるのだ(集めてみると分かるのだが、正規のボトルや缶はやたらかさばる)。何かコレクションを始めようかと思っている方は御一考あれ。


[コーラ四季報 2001年1月号] [コーラ白書] [HELP] - [English Top]
Copyright (C) 1997-2001 Shinsuke Nakamoto, Ichiro Nakahashi.