コーラ白書
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2001年1月号
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中本 晋輔

前回のRED BARN 取材の際、私はオーナー・福田さんのある言葉に軽いショックを受けた。

「ヴィンテージは、例えばChicagoとか、あとSeattleのアンティークショップなんかで買ってますね」

Seattle? Seattleといえばカナダとの国境に程近い米西海岸の都市で、私のじいちゃんが住んでいるところである。私も幼いときから何度も訪れたことがあり、特に最近は2年連続で遊びに行っているのだ。しかしながらSeattleでアンティーク関係の店を見たことはこれまで一度もなかった。

福田さん曰く、シアトルには道沿いにアンティークモールが点在する夢のような場所があるらしい。ヴィンテージの本場・アメリカで、コーラのアンティークがどのように売られているのか、是非見てみたい。そしてあわよくば日本で入手できないようなレアアイテムをゲットしたい。

そう思った私がシアトル往復¥65000 (NorthWest 航空) のチケットを手に関空へ向かったのはその2ヶ月後、9月の終わりのことだった。というわけで今回の津々浦々は「シアトル・ヴィクトリア、Cola Antiqueを求めて」編である。


シアトルは、雨だった。その上ひどく寒い。迎えに来てくれたじいちゃんの話によると、昨日までは抜けるような晴天だったそうだ。霧雨に煙るダウンタウンを横目に、雨のシアトルもまたいいなどと負け惜しみをひとりごちる。

Lake Union を見下ろすマンションに到着したのが12時過ぎ。そこで荷解き、お土産渡し、じいちゃん特製ピーナツバターとジャムのサンドイッチを食べるといった儀式を一通りこなすと、早速街に出ることにした。いつもならここで昼寝でもということになるのだが、この日は機内で安ワインを空けて爆睡してきたので十分体力が残っていたのだ。

この日まず向かったのはSeattle の台所、Public Marketであった。古い歴史を持つこの市場は新鮮な魚や果物・花といったものだけでなく、レストランやカフェなどが集まったSeattleの名所の一つ。ここの名物だった魚屋の「魚投げオヤジ」は昨年で引退してしまったが、それでもこの市場は観光客や地元の買い物客でいつもに賑わっている。

このPublic Marketの下の階(斜面に作られているため多層構造になっている)にはアニメ系のおもちゃ屋やコインショップなど、コアな店が並ぶフロアがある。前回(四季報1999年10月号・津々浦々)ここは下水が破裂して大変な騒ぎになっていて、あまりの臭いに逃げ出した記憶がある。ここには必ず何かあると踏んでた私はまずここの攻略に向かった。?

ボトル1本$2.00

古い木製の階段を下ると、上の市場の喧騒とは対称的な落ち着いた雰囲気のフロアに行きつく。床や壁はすべて木造で、迷路のように入り組んだ廊下には小さな店がいくつも並んでいる。薄暗い廊下を道なりに歩いていくと、ほどなく「GREAT WESTERN TRADING」という店に行き当たった。どうやらアンティークを扱う店らしい。

中は廊下よりもさらに薄暗く、大量の雑貨や服・看板などが無造作に置かれている。壁にはLiteやBudweiserのネオンサインが輝き、店内を物憂げに照らしている。まるで映画のワンシーンのようないわくありげな雰囲気。いいぞ、いきなり期待できそうだ。

ヴィンテージの多くはビールものだったが、中にちらほらとCoca-ColaやPEPSIの看板が見られる。そして店の奥には木箱に入ったCoca-Colaのボトルが無造作に置かれているではないか。ボトルはほとんどが80年代から90年代前半のリターナブル瓶で、全て中身入り。通常のCoke 8オンス瓶からDiet Cokeのボトルの他、日本にはないPEPSIの1 Pint(16 オンス)の大型ボトル等、なかなか興味深いものが揃っている。そして何よりも驚いたのはその値段で、安いものなら一本2ドル!新品のたった三倍の値段で10年前のボトルが買えてしまうのである。

すごいぞアメリカ!?

Cola Antique No.1
Dite Coke 8 oz. Hobbleskirt Bottle
$2.00
1980年代に作られら(と思う)Diet Cokeの中身入りリターナブルボトル。当時一般的だった8オンスのホブルスカート・ボトルで、シンプルなロゴが新鮮だ。リターナブルボトルの中には何度も使用され状態が悪くなったものが多いが、本品の状態は非常に良かった。これで2ドルは安い。

すっかり気を良くした私は、さらにこのフロアの探索を続けた。?

コーラ!コーラ!コーラ!

この店の向かいに小さな食料品店があった。妙に薄暗い店内には香辛料の詰まったガラス瓶が並び、エキゾチックな香りが部屋に充満している。かなり不気味な雰囲気だ。しかし窓枠にはまった鉄格子越しにジュースの棚が見える以上後には引けない。勇気を鼓して入ってみる。

アメリカでは飲料棚のラインナップが店の雰囲気を直に反映することがままあるのだが、ここはその見本のような店であった。壁一面の棚にはCoca-ColaやPEPSIといった定番の姿はなく、SobeやArizonaといった個性の強いジュースの瓶が並んでいる。と、その中に、見たこともないコーラがあるではないか! 中国のハーブ入り「CHERRY CHINA COLA」、素材を熟成させた「NATURAL BREW COLA」そして缶のイラストがよくわからないSKY BLUE社の「Bluesky Cola」と、データベース未登録のコーラがいきなり3本も発見されてしまった。しかしこの濃ゆいラインナップはなんとかならないものか。

いきなりのコーララッシュにすっかり上機嫌になり、さらに探索を進める私。チーズやパンなどの店の集まるエリアを物色していると「PIKEPLACE CREAMERY」という不思議な看板の店に行き当たる。私の長年の勘が、ここに何かあると告げている(←バカ)

はたしてこの店は、まさにアメリカンジャンク飲料の宝庫であった。レジ横の小さな冷蔵棚にはアメリカの飲料通販サイトでしか見たことのないような個性派飲料達が揃っていたのだ。紺碧の瓶が印象的なガラナ飲料「BAWLS Guarana Energy」を筆頭に、Sobe, Jones, Natural Brewシリーズなど色とりどりのボトルが私の目を奪う。

そしてそんな瓶の最前列には見覚えあるコーラがあった。独特のフォルムと強烈なインパクト。間違いない。4年前にシアトルで初めて出会い、その後のコーラ白書に多大な影響を与えたドイツ最強コーラ、afri-colaである。本国ドイツでは afri cola本社がナビスコに買収され、このユニークなボトルはすでに廃止されている。この姿を店で見ることはもうないと思っていただけに再会の感動はあまりに大きかった。反射的に一本購入。嗚呼、涙で前がみえない・・(←大バカ)

この日の収穫はこれだけではなかった。Public Marketに程近いSmoke shopでついにRC EDGEの入手に成功したのだ。RC EDGEと言えばコーラ界のパイオニア・Royal Crown社が1999年に発表した大手初のニューエイジ・コーラ。カフェインやジンセン、タウリンといった強力な原料が(ごく一部で)話題を呼んでいた。実は昨年のアメリカ周遊の際血眼になってアトランタ中を探し回り、結局発見できなかったのだ。ちなみにこのSmoke Shopの上はポルノショップで、私の経験則が正しいことを裏付ける結果になった(註1)。

この日まさに絶好調、昨年のバンクーバー以来のコーラ・ラッシュであった。ただ時差ぼけのうえテンションを上げ過ぎたのがたたって夕方には電池切れとなり、本日のアンティーク探索はここで断念。帰路についた。?

真のアンティークを求めて

死んだ丸太のような爆睡(註2)ですっかり回復した私は、朝食のオートミールを半ば無理やり喉に押し込めながら作戦を練ることにした(註3)。Public Market周辺にもアンティークを扱う店は何件かあったが、コーラに関するアイテムは少なく安価なものがほとんどであった。RED BARNのオーナーの言葉を信じれば、もっとコーラを扱う店があってもおかしくない。

考えた末、シアトルのウォーターフロントへ赴くことにした。この場所は旧シアトル港跡に造られた海沿いの再開発地区で、メインストリートの西側には水族館やシーフードレストランなどが海に突き出すように並ぶ。シアトル屈指のレジャースポットだけに、コーラを扱うアンティークショップが在るかもしれない。けっして揚げたてのFish & Chips に釣られたわけではないので念のため。

この通りの街側には、Pacific Rail Wayの線路が道に並行して走っている。この路線は現在では貨物専用に使用されていて、ときおり貨物列車がカナダからの物資を積んでゆっくりと走っていく。これだけ聞くときっとのどかな光景を想像されるだろうが、問題はこの貨物列車が無限と思えるほど長く、そして遅いことにある。一度この列車がやってくると踏み切りは10分以上封鎖され、それが大渋滞を引き起こす。線路をまたぐ全ての道路が寸断され、この列車が通過するあいだウォーターフロントは陸の孤島と化すのである。

間一髪列車がくる前にウォーターフロントに滑り込んだ私は、徒歩より少し速い列車と並んで通りを南へ下る。コンテナや木材、チップなどを満載した列車を横目で見ながら数ブロック歩きつづけたあたりで、ようやく列車の最後の車両が私を追い抜かしていった。と、その線路の向こうに、古いコカ・コーラの看板の掛かった白い建物が姿を見せているではないか。

「ANTIQUE WAREHOUSE」という名のその店は線路の向こうの駐車場のさらに奥、高層ビルの狭間にひっそりとたたずんでいた。前を通るハイウェイ高架の影に隠れているため、注意していないと見過ごしてしまいそうだ(実際この前は何度も通っているのだが、今まで全く気づかなかった)。ブロック製の無愛想な外観や壁に直に書かれた店名の変なフォント、そして何より中央に掛けられたCoca-Colaの看板で私は確信した。ここには探しているものがある。私のコーラMEDが強く反応する(註4)。

店内は、私が想像していた以上に「アメリカンヴィンテージ」な雰囲気に満ちていた。昔は倉庫であっただろうその建物は天井がやたら高く、所々に吊るされた裸電球が店を薄暗く照らしている。体育館ほどの薄暗い店内にはファニチャーや日用品など、様々なアンティークが所狭しと並べられている。店の中央には台があり、そこに店主が陣取って店内を見まわしている。規模こそ違うが、どこか日本の古書店に似た初心者を圧倒する雰囲気がある。

そして何よりも私を驚かせたのは、飲料関係のヴィンテージが非常に豊富だったことだ。本でしか見たことのない昔のノヴェルティや古いTin (金属看板)などが古い家具に混じってそこらじゅうに置いてあるのだ。?

特に空瓶のコーナーの充実ぶりは素晴らしく、VESS COLA ・Sun-Drop ColaといったCOKE, PEPSI以外のボトルがずらりと棚に並んでいる。これらのコーラは30年代を中心にアメリカ飲料界を賑わせた「名脇役」達で、生産中止になった現在ではアンティークボトルとして高い人気を保っている。価格が$5-10と手ごろなのもうれしい。他にも旧Royal CrownのピラミッドボトルやSingle-DotロゴのPEPSI ボトル(註5)などの定番モノもあったが、こちらは$25.00と少々高価だった。

また最近日本でもブームになりつつあるヴィンテージ・アド(雑誌に掲載されたいた古い広告)の在庫も凄かった。コカ・コーラ関係だけでもでかいダンボールに3箱以上あり、全部見るだけでも一苦労だ。広告の多くはLife誌とNational Geographic誌からのもので、年代や価格によってきちんと分類されている。価格も$5-15とお手ごろだった。

店内で30分以上熟考したのち、次の2つのアイテムを購入した。?

Cola Antique No.2
Coca-Cola Ad 1943 Christmas
$ 5.00
National Geographic 1943年12月号に掲載されたコカ・コーラの広告。例年この時期はサンタの広告が使われるのだが、戦争が激化したこの年はGIをモチーフにしたものが用いられたようだ。リアリティあふれる作風がいかにもコカ・コーラの広告らしい。?
Cola Antique No.3
Sun-Drop Cola bottle
$8.00
50年代に販売された清涼飲料。「コーラ」とは言うものの、原料にココアを使用している不思議な一品だ。以前から興味があったので購入してみたが、実物のボトルを見ても謎は解けなかった。


ヴィクトリア、空振り!

シアトルですっかり勢いづいた私は、今度はアンティークの街・Victoriaへ矛先を向けた。Victoriaはカナダ・ブリティッシュコロンビア州の州都で、シアトル湾の北西に位置するバンクーバー島の南部にある。飛行機で一時間弱ぐらいなので、大阪-徳島ぐらいの感覚だ。

Victoriaといえば英国の雰囲気の色濃く残る町で、アンティークでも有名。ガイドブックによると"Antique Row" と呼ばれるアンティークショップの集まる通りがあり、週に1度公開オークションが開催されるという。FF9のトレノみたいなイメージを抱きつつ、地図に示された場所へと向かう。

ところが着いてみるとアンティークショップはほとんど見当たらず、たまにあっても家具や調度品を扱う「本物の」店ばかり。いくら探し回ってもSeattleのようなコーラを扱う店は一向に見つからない。そうこうしているうちに街の中心から離れてしまい、辺りの雰囲気が悪くなってきてしまった。仕方あるまい。後ろ髪引かれる思いで撤退する事にした。しょんぼりである。

後日港の近くでミリタリー・アンティーク専門店「COMMAND POST」を発見。そこで購入したロシア製PEPSI のラベルがVictoriaで唯一の収穫となった。?

Cola Antique No.4
ロシア製PEPSI ボトル紙ラベル
$15.00 (Canada)
キリル文字で書かれたPEPSI の紙ラベル。ガラスのボトルに直接貼りつけられていたもので、上手に剥がしてある。これが何故軍事アンティーク店にあるのかは謎。仮想敵国のアイテムだから?


ニューエイジの終焉とVirginの復権

Victoriaですっかり当てが外れた私は、挽回を期してVancouverへと向かった。ここから対岸に位置するVancouverはバスとフェリーで2時間程度の距離であるが、今回は思い切って水上飛行機を使うことにした。料金は割高だが、約30分でダウンタウンの真横まで連れて行ってくれるのは大きな魅力である。

25名ほどの乗客を乗せたHarbor Airの真っ赤な飛行機は、かなり長い時間水面を滑走した後離陸した。あまりの機体の小ささとプロペラ特有の振動に始めは若干びびってものの、窓からの景色が素晴かったこともあり到着する頃にはすっかり水上飛行機のファンになってしまった。ちなみにこれと同型機がDowntownに墜落したのは約1ヶ月後のことである。

私はこのVancouverという街が、北米の飲料文化の中心地であると思っている。アジアやインドからの移民が多いこの町には、その彼らが営む個人商店(Smoke Shop)が数多く存在する。仕入れに小回りの利くこれらの店はスーパーやコンビニが大規模に仕入れにくいもの、すなわち新発売の未知数の商品をいち早く入荷することができる。こういう下地があって、Vancouverには北米中の変なコーラが集まるのである(と思う)。

昨年はこの地でBrainwash ColaやJolt Cherry Bombといった個性の強いコーラが数多く発見され(津々浦々1999/10)、コーラ白書史上最も実りある一日となった。今年も2匹目の泥鰌を狙って同じコースでコーラ探索に赴いたのだが、1年という月日が飲料棚の情勢をすっかり変えてしまっていた。昨年まであれほど幅を利かせていた炭酸・ニューエイジ系の飲料が影を潜め、主役はエナジードリンクや緑茶(!)といった非炭酸のコアな飲料に取って代わられている。Robson通りのほとんどのSmoke Shopを当たってみたが、結局成果はなし。私は寂しい半面、ここ数年コーラ界を席巻したニューエイジブームがようやく下火になったことを確認して、何だかホッとした。

これと対照的に見事復活を遂げていたのがVirgin Colaである。昨年来たときは街のどこにも姿はなく、同じ系列のVirgin Recored のカフェでさえJONES VANILLA COLAに乗っ取られるというかなり寒い状況であった。ところが今年かなり大規模な攻勢をかけたようで、コンビニやVirgin カフェのシェア回復に成功。ラインナップもRED(Cola), White(Diet Cola)のほか Blue, Pink, Goldなど全7種類になっていた。Virgin Record の入り口の自販機にずらりと並んだPammy Bottleの姿がなによりもVirgin の復活を雄弁に物語っていた。


ヴィンテージの国・アメリカ

私がこの旅で垣間見ることのできたアメリカのAntiqueは、日本のそれとは全く異なるものだった。この国ではヴィクトリア調の家具から空き瓶まで、どんなものでもAntiqueになる可能性を与えられている。「骨董品」という響きの持つ格式ばった雰囲気はなく、人は自分が良いと思うものを探し、選び、そして買っていく。

アメリカに「温故知新」という言葉は似合わないと思っていたが、その認識は改めねばなるまい。何故ならこの国ほど過去のものに愛着を持った国はそうそう在りはしないからだ。日本が失った何かをアメリカは大切に持ちつづけている、そんな気にさせられた今回の旅であった。??


(註1)「エロ本屋に隣接または併設するSmoke Shopにはレアなコーラがある」。ちなみに北米限定。

(註2)sleep like a died log.

(註3)スキムミルクのかかったオートミールはすでに拷問である。

(註4)モニター下のゲージで、コーラがあるとオレンジに光る(最近GUNGRIFFON BLAZEやってるもんで)

(註5)1930-50にかけてのPEPSIロゴは、"PEPSI"と"COLA"との間の点の数によってsingle-dot (PEPSI-Cola)とdouble-dot (PEPSI:COLA)の2種類に分けられる。?


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