特集 ミッドセンチュリーの缶コーラ

中本 晋輔

1950年代、コーラのパッケージに大きな変化が訪れた。缶の登場である。Royal Crown社を皮切りに各メーカーが挙って追従し、缶はグラスボトルに替わるコーラ容器のスタンダードとしての地位を築いた。

この半世紀に様々なデザインの缶が生み出されてきたが、その黎明期、すなわち1950年代から60年代にかけて独特のパッケージのコーラが作られたことはあまり知られていない。今回はそんなミッドセンチュリーのアートなコーラを集めてみた。

デザイン革命

ボトルから缶への移行はコーラのパッケージデザインに大きな変化をもたらした。成形してから曲面に印刷する必要のあったガラスボトルに対し、平らな金属板に印刷して組み立てる缶ではデザインの自由度が飛躍的に向上したのだ。これにより複雑なデザインのパッケージを大量生産することが可能となった。

折りしもこの時期は、モダンアートが大きな盛り上がりを見せていた。デザインとアートの垣根が取り払われ、タイポグラフィや幾何学的模様などが好んでパッケージに用いられた。黎明期のコーラ缶の多くはこの当時最新のデザイン様式の影響を色濃く受けている。

ダイヤモンドの流行

1954年、Royal Crown Colaは世界に先駆けて缶入りコーラを発売した(註1)。この初代缶は白を基調にダイヤモンド(菱形)を配した、それまでのコーラパッケージの概念を覆す美しいデザインであった。日本では代理店の壽屋(現サントリー)がこのデザインの缶を発売している。

初期のRoyal Crown Colaの缶

翌年には王者コカ・コーラがこれに追従する。1955年に発売された初代缶、通称「ダイヤモンド缶」には、大きな白いダイアモンドとロゴを配置しただけのシンプルなデザインが採用された。これまでボトルのイメージを全面的に押していた同社にとって、このパッケージは革新的なものであった。

1960年頃に発売された2代目ダイヤモンド缶は初代缶のデザインを踏襲しつつも、コカ・コーラの象徴であるホブルスカートボトルをダイヤモンドに組み込んでいる。これは需要の伸びる缶に従来のイメージを組み合わせようという試みだったのかもしれない。また一部では12oz.の表示が入ったものも作られた。

1966年代にコカ・コーラは、グラフィックを小さなダイアモンドを敷き詰めた通称「スモールダイヤモンド」に変更する。当時アメリカではIBMなどがデザインと企業を結びつける「デザイン・ポリシー」を積極的に導入しており、コカ・コーラもこの紅白のチェックパターンを自社のブランドの象徴に位置付けていたようだ。当時のノベルティにはこのパターンを用いたものが数多く見られる。

1960年製のコカ・コーラ・ダイヤモンド缶
1966年製のスモールダイヤモンド缶

 

ライバル達に遅れをとったPEPSIは、パターンではなくシンボルを重視して差別化を図る。1960年の初代缶では白とライトブルーのスパイラルパターンの上にロゴ入り王冠を配置した、訴求力の高いデザインを採用した。コカ・コーラが完全に新しいデザインを立ち上げたのに対し、PEPSIはあくまでボトルのイメージを残している。

1960年頃のPEPSIの缶

興味深いのは、当時の大手3社の缶はすべて白や赤・ライトブルーといった明るい色がベースになっている点である。これはそれまでのボトルで定着した「コーラ=黒」のイメージを払拭し、消費者にインパクトを与える目的であったのだろう。現在でも黒がコーラのパッケージに敬遠される傾向にあるのは、その名残なのかもしれない。

曲線と幾何学模様

60年代には様々な飲料メーカーが缶入りコーラを市場に投入する。コカ・コーラなどの先行組に影響を受けたのか、彼らの多くがシンプルな幾何学模様を組み合わせたアート的なデザインを採用している。中には明らかなパクリや、中途半端に捻ったためにコーラのパッケージとしての訴求力はどうよ?みたいな作品も数多く登場した。

 

■ afri Cola (初代缶?)

明らかにコカ・コーラのスモールダイヤモンドを意識した、というかコピーしたデザイン。しかしバックに黒を使用したため、禍々しささえ漂う妙なインパクトがある。同社のシンボルである椰子の木もちょっと生えすぎといった感じだ。

ちなみにその後、半円を使った微妙なデザインの缶も登場。こちらはラージダイヤモンドのイメージに近いが、曲線を取り入れたことでafriらしい不思議な印象を醸し出している。

■ Yukon Cola

2種類の赤い円が交互に並ぶ不思議なデザイン。一昔前のカルピスを連想させる。

■ Seven-Eleven Cola

米Seven-Elevenのオリジナルコーラ。当時の同社のロゴカラーである赤と紺の縦ストライプを大胆に使用した、とても飲料とは思えないグラフィックである。特に気になるのが缶の下にある不気味なスパイラル模様。何かサブリミナル的なものでも狙っていたのだろうか?

■ PEER Cola

「アート系」には珍しい、本当にアートっぽいデザインのコーラ。赤と白だけで描かれたと思えない、美しいパターンが印象的だ。ちなみにPEER Colaは「貴族のコーラ」の意味である。

 


 

このように黎明期のパッケージに多用された幾何学模様的なデザインは、モダン・アートが行き詰まりを見せはじめた60年代後半あたりから姿を消す。この頃に生まれたデザインは今日にほとんど残っていないが、これはコーラメーカーにとってこの時期がパッケージデザインの「研究の時代」であったからだろう。

試行錯誤を繰り返しノウハウを蓄積したメーカーは70年代に次々と新しいデザインを開発。中にはダイナミックリボンやペプシグローブなど、ブランドの象徴となる優れたデザインも現れた。一風替わったミッドセンチュリーのデザインが現在のコーラパッケージの礎となったといっても言い過ぎではあるまい。


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