特集「コーラの缶の歴史」

III リシーラブルと新フォーマット

ボトル缶の登場

ステイオンタブの登場で清涼飲料容器の王者の座を確かなものにした缶容器にも、90年代に入ると新たなライバルが登場した。ポリエチレンテレフタレートの樹脂容器、PETボトルである。

この合成樹脂材料を使ったボトルの技術は1960年代にDupont社によって確立され、米国では70年代に清涼飲料容器に採用、徐々に勢力を拡大した。日本でも82年より飲料容器として認可され、当初は1リットル超の大型容器に限定されていたが、96年の全国清涼飲料工業会の小型PET自主規制を撤廃。これを機に500mlPETが急速に広まり、缶の地位を脅かすことになった。

PETボトルの利点はいくつかあるが、缶との最大の差別化点は一度開封してももう一度栓が出来る「リシーラブル(Re-sealable)性」にある。これはという清涼飲料容器史開闢以来の不文律「一度空けたら飲みきる(or 余ったら捨てる)」を覆す大きな変化だっだ(註)。この点を武器にPETボトルはその勢力を10年で倍に拡大し、清涼飲料容器の王座を脅かす存在となった。

このPETボトルの快進撃に対抗すべく開発されたのがボトル缶(ニューボトル缶)である。大和製罐によって実用化されたこの新しいタイプの缶は全アルミニウム製ながらスクリューキャップ機構を採用し、再栓を可能としたこれまでにない缶であった (註4)。これがいかに画期的であったかは、世界規模の金属容器展示会「Cannex 2000」がこの缶にグランプリ「Can of the Year」を与えたことからも伺える。

05年現在、同社とユニバーサル製缶の2社が微妙に違う方法でこのタイプの缶を製造している。

コカ・コーラの300mlボトル缶。このサイズは結構便利

このボトル缶が初めてコーラに採用されたのが2000年11月。サントリーがペプシの記念アートボトル缶「Good Bye the 20th Century & Hello the 21st Century」(500ml/4種類)を発売したのが始まりである。サントリーは翌年も500mlのアートボトル缶を発売、500mlPETの代替を視野に入れたアクションを取った。

これに対してコカ・コーラは2001年5月に400mlのボトル缶を通常缶として投入。これはPETボトルではなく350ml缶のリプレイスを目的としたものと考えられる。同社はその後もこの「小型ボトル缶路線」を貫き、ダイエットコークなどで300mlサイズを投入。05年発売のコカ・コーラレモンに至っては、300mlボトル缶しか見たことがないほどの力の入れようである。

今のところボトル缶は海外での採用例は聞かないが、同様のコンセプトの容器が登場した。Wet Planet社が独自に導入したジョルトのリシーラブル金属容器 "Battery Can" である。「エネルギーの源」である乾電池をモチーフにしたもので、プラス極に当たる部分がスクリューになっているのが特徴。北米で初めて商品化されたリシーラブル全金属容器である。

その他の缶

これまでは市場でリリースされた缶の歴史について述べたが、その変遷の裏には無数の試行錯誤があったことは想像に難くない。以下ではプロトタイプやテスト販売で終わってしまった缶を紹介したい。

1. SofTop缶

米国で80年代に開発されたリシーラブル缶。

コーントップのように絞った口の部分にヒンジつきの樹脂部品を取り付けたのもで、スナップフィットで再栓する機構になっている。

コカ・コーラ、ペプシが市場テストを行なったが、広まることなく消滅。

2. Plastic缶

米上記SofTop缶とは逆に、成形した樹脂胴体に金属の蓋を載せたもの。開封はステイオンタブを採用。透明な樹脂を使用しているため、缶なのに中身が見えてなんだかシュール。

85年にコカ・コーラが4種類のプロダクトでテストを行なったが、採用には至らず。

金属の蓋と樹脂胴体との接着に問題があるのか、現存する未開封品のほとんどの中身が半分くらいになっている。

3. ギザギザ缶

ステイオンタブの缶表面に加工を施したもの。制作年代は不明だが、表記から87年以降のものと考えられる。

缶の側面に縦方向に折り目を入れ、円筒ではなく多角柱にしたもの。チューハイ「氷結」のもっと原始的なものを想像されたい。

表面の拡大写真

4.コンツールボトル缶

コカ・コーラが97年に北米と欧州の一部地域でリリースした有名なテスト缶。コカ・コーラのボトルをイメージした表面の凹凸が特徴。

コスト高と自販機に入らない問題で生産中止。

詳しくはこちら

5. ニューコンツール缶

メキシコでテスト販売された最新型の容器。上記コンツールボトル缶と違い、コカ・コーラのボトルの形状そのものをアルミで再現しているのが凄い。

開封部は王冠なので開封には栓抜きが必要[王冠拡大]。

スタイリッシュでインパクトは抜群。イベントや記念缶として広がる可能性はあるが、不便なので一般用には普及しなさそう。

 

金属のコーラ缶が世に現れて約80年、その進化は今も続いている。これからどのような缶が開発されるのか、これからも目が話せない。

 

■参考文献

 

←I 黎明期・コーントップとフラットトップ

← II イージーオープンの時代


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