![]() なかはしいちろう 本書のテーマは「世界史において6つの飲料(ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラ)がいかなる役割を演じたか」である。曰く、「飲み物は一般に考えられているよりも密接に歴史と結びつき、人類の発展に大きな影響を与えている(プロローグ)」のだという。 例えばコーヒーがヨーロッパに科学・政治の革命をもたらした…と言えば大げさだろうか。本書によれば、そうでもない。 中世ヨーロッパでは水の衛生状態に問題があったため、代わりにビールやワインが飲まれていた。それらは度数の低いものではあったが、飲めば酔うことに違いはない。だが17世紀、コーヒーが登場する。コーヒーは煮沸したお湯を用いて調製するため衛生的な問題が生じないし、アルコールに酔うこともない。それどころか、飲むと頭がすっきりし、目が冴える。 そんなわけで、コーヒーは知識階級を中心に人気を集める。やがてヨーロッパには多くのカフェが開店し、そこで科学や経済、哲学や政治に関する議論が戦わされるようになる。かくして、カフェはヨーロッパにおける「言論の自由」の起源となったのである。 もしこの世にコーヒーが存在しなければ、産業革命も民主主義も生まれなかったのだろうか。恐らくそうではあるまい。要はアルコール以外のコミュニケーション手段でありさえすれば何でも構わなかったはずだ。けれども歴史にifはない。結果的にはコーヒーが確かに歴史を動かしたのである。 コカ・コーラについては、グローバル資本主義の発展という視点で述べられている。その内容に特に目新しいものはないが、コカ・コーラの歴史が読みやすくコンパクトにまとまっており、一読に値する。 最近イロモノが続いていた「今月の一冊」だが、久々に読み応えのある一冊であった。比較的最近の出版であり、入手も容易だろう。
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