中本 晋輔 駄菓子市場で根強い人気のあるフレーバー「コーラ味」。中身はオレンジのような柑橘系とクエン酸の組み合わせであり、飲み物のコーラの味と同じとは言いがたい。 にもかかわらずこのフレーバーは広く「コーラ味」として認識されていて、世界中どこのコーラ味のお菓子を食べてもほぼ同じ味がする摩訶不思議なフレーバーである。 コーラ味のお菓子は非常に種類が多く、キャンディやガムなど枚挙に暇がない。その中でもコーラ味の人気が高い商品として、エラスティックな食感で人気の「グミキャンディ」が挙げられる。今回はこの分野の商品を特集してみる。 コーラグミとは?グミとはドイツ語で「ゴム」の意味だ。子供たちに噛む習慣を広げようと1920年にドイツのHARIBO社が開発したのが始まりといわれる。ゼラチンをベースとした弾力のある独特の食感で子供から大人まで幅広い人気があるお菓子である。 そのグミとコーラがどのような形で出会ったのかは定かではないが、HARIBO社はかなり昔からコーラ味の「HARIBO happy cola」(後述)を発売していたようだ。歴史的にコーラの消費量の多いドイツでこの味は受け入れられやすかったのかもしれない。このhappy colaは現在世界中に広がり、「コーラグミ」というジャンルが確立されたと考えられる。この商品は日本でも輸入食料品店や一部コンビニで容易に入手することができる。 国内でのコーラグミの草分け的存在は1980年に発売された明治製菓の「コーラアップ」だ。粘弾性の高いお菓子といえばゼリーくらいしかなかった時代、この食感は子供たちに大きなインパクトを与えた。 初代コーラアップはHABIRO社のようなボトル型のグミではなく、ボトル型に凹ませたプラスチックのシートにグミを流し込んだものだった。食べる時にはシートから外して食べなければならないが、よりやわらかくプルプルした食感だったと記憶している。 ちなみにコーラアップは2008年5月にリバイバルされたが、形状や食感が昔と全然違ってがっかりした記憶がある。 魅惑の食感グミキャンディの弾性の大部分は原材料のゼラチンに由来しており、その量によって柔らかさを調整することができる。柔らかさの度合いはメーカーや商品の訴求市場によって異なり、 代表的なグミキャンディのゴム硬度(23℃)を下図に示す。 グミキャンディの多くはゴム硬度1〜8の範囲に分布する。ちなみにハイチュウのようなソフトキャンディが硬度40、普通の飴は硬度90以上である。一方でマシュマロや羊かんは0.1以下であり、グミキャンディが「硬くもなく柔らかくもない」絶妙な硬度であることがわかる。 HARIBOなど海外品は比較的硬く、国内の子供向けのお菓子などは柔らかい傾向がある。これは「噛む習慣をつける」という当初の崇高な目的が日本市場では希薄なためだろう。 また柔らかさだけでなく、弾性領域が大きいのも特徴だ。通常の柔らか系のお菓子は力をかけるとすぐに割れたり塑性変形(形状が変形して元に戻らなくなる事)したりする。それに対して高分子であるグミキャンディはかなり変形させない限りもとの形状に戻ってしまうのだ。このゴム的な弾性挙動が独特の食感をもたらすのである。 様々なコーラグミではここで、代表的なコーラ味のグミキャンディについて取り上げてみたい(一部は生産終了)。 HARIBO happy cola
コーラグミのグローバルスタンダードともいえる老舗HARIBO社製の逸品。 コーラのボトルを象ったグミで、下が茶色(コーラ色)で上が透明という手の込みよう。二色の境界は滲むことなくクッキリ分かれていて、なぜお菓子にここまでのディティールをと思うほどの手の込んだ作り。表面はややシボがかったマットな仕上がりで互いにくっつかない。ドイツのものづくり魂を感じる。 ゴム硬度は8とやや硬め。冬場などはかなりの歯ごたえになるが、むしろそれがクセになってついつい袋に手が伸びる。やや柑橘の勝った爽やかなコーラ味も高得点。コーラグミの最高峰といっても過言ではない。 国内では100グラム入りの袋が一般的だが、蓋のついたプラスチックケース入りの「HARIBOX」(200グラム)など大型のパッケージもある。これが気づいたら空になっているから危険だ。 HARIBO happy lemon-fresh cola
形状は上記happy colaとおなじボトル型2色グミだが、砂糖のフロストがまぶしてあり表面がザラザラしているのが特徴。ゴム硬度はやや高めなのは砂糖の影響と思われる。パッケージには同社のシンボル的存在のBummy bearが友情出演している。 レモンのフレーバーと砂糖の食感でオリジナルより華やかだが、そのぶん連続して食べると飽きやすい印象を受けた。また砂糖が指に手軽に食べにくい点も残念である。 オリジナルほどの常習性はないが、たまに食べてみたくなるコーラグミだ。 Trolli QUICK & FRESH COLA BOTTLE
HARIBOの競合であるドイツの菓子メーカー「トロリー」のコーラグミ。コーラの缶を模したオリジナルのパッケージが面白い。 グミの形状はやや小ぶりながら、ボトル形状の2色なのはHARIBO happy colaと同じ。硬さもほぼ同じレベルである。 コーラフレーバーにややクセがあるものの、酸味のバランスなどはHARIBOのものとよく似ている。単なる後追い商品なのか収斂進化なのかが気になるところ。 コーラアップ(2008年)
1980年に発売された日本のグミの草分け的存在「コーラアップ」。それを2008年にリバイバルさせたのが本品だ。プレスリリースによるとターゲット層は「発売当時にコーラアップを食べていた、20〜40代の成人男性」だそうで、新規市場開拓をする気はなさそう。 ゼラチンの他にこんにゃく粉やアラビアガムなどを組み合わせた独特の配合ながら、ゴム硬度は4.5と平均的。ゼラチンをコラーゲンの1種としてアピールしている(噛むコーラゲン5,200mg!)のがいかにも日本メーカーらしい。 初代コーラアップはシートつきだったが、リバイバルバージョンではシートなしのハードタイプになった。パッケージのキャラクターを模しているため、顔つきの曲がったボトルという妙な形状のグミになっている。 コーラ感が強く、酸味が少な目の大人向けフレーバー。食べた後に清涼感が残るのが面白い。ただ味が特徴的で食べ進むとクドくなってくるのが残念。 シゲキックス スーパーコーラ
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発売元 | UHA味覚党 |
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ゴム硬度 | 41.2 |
価格 | 105円 |
本品は他のコーラグミとは別格として扱ったほうがよいかもしれない。とにかくいろんな意味でスーパーなのだ。
三角錐形状のグミのゴム硬度は45。これはハイチュウすら超える、グミキャンディとしては前人未到のレベルである。
回りには「シゲキックス」の由来でもあるビタミンC粉末がまぶされていて、リンパが痛くなるほどの酸っぱさ。この強烈な酸味が去る頃には味覚が一時的に麻痺していて、コーラ味かどうかすら判別できない。
パッケージには「ハードな噛みごたえと強烈コーラ味」と謳う。形状・硬度・強烈な酸味の三拍子が揃ったハードなグミだが、純粋に噛むことを楽しむのには不向きな気がする。
発売元 | UHA味覚党 |
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ゴム硬度 | 3.5 |
価格 | 210円 |
妙なラッパー調キャラが「噛んでYO!」と訴求するパッケージが印象的なコーラグミ。
「噛む」コンセプトを前面に出した商品で、HARIBOのhappy colaを強く意識して開発されたと思われる。形状は一回り小さいボトル型の2色グミで、配色もほぼ同じ。境界線がぼやけてグラデーションみたいになっているのが残念だ。
原材料に乳酸菌飲料や濃縮りんご果汁を使用しており、甘みが強くフレーバーも爽やか。コーラかと言われると微妙なところだが、美味しいのでつい手が伸びてしまう。味と依存性でHARIBOに匹敵する国産の名品である。
このほかにも同社からはGABAを配合した「G Fresh コーラ味」も発売されている。
発売元 | ノーベル製菓 |
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ゴム硬度 | 1.0 |
価格 | 105円 |
駄菓子においてコーラとラムネ(サイダー)はフレーバーが似ているためセット販売されることがある。このノーベル製菓の製品もラムネとコーラの混在パッケージだ。
青いラムネと茶色いコーラのグミキャンディだが、型は共用のようでコーラグミもラムネボトル型。造形がややあまく太ったプラナリアのようにも見える。シボの深いザラザラした表面には白いパウダーがまぶしてあり、これがシュワシュワした食感を演出するようだ。シゲキックスのような凶悪な粉末でなくて一安心。
酸味がやや強く、コーラのフレーバーは薄め。柔らかいので噛みしめる感じではないが、万人受けする爽やかなコーラグミである。
発売元 | 明治製菓 |
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ゴム硬度 | ? |
価格 | 42円 |
コーラとソーダの組み合わせでも、こちらは混在ではなく途中から味を変えてしまった力作。
名前のとおりのひも状のグミで、長さはなんと1mを超える。ソーダ味の青いグミとコーラ味の茶色いグミが交互につながっていて、グミらしからぬ艶は釣りのワームルアーを連想させる。これが袋にくしゃっと入っているのは、実はちょっと気持ち悪い。
子供向け商品のためか甘みが強く、コーラの風味は希薄。その形状のためゴム硬度は測定できなかったが、グミは歯ごたえがあり硬めの印象だ。
味がどうとかよりも、得体のしれないヒモみたいな物体を食べるというコンセプトを楽しむのが正解だろう。
発売元 | オリオン |
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ゴム硬度 | 1.0以下(測定不能) |
価格 | 105円 |
「Mini Cola」などコーラ味のお菓子を数多く揃えるオリオンのコーラグミ。タカラトミー「トミカ」とのコラボレーション企画で、極めて直球なネーミングが素敵。このハイパーレスキューシリーズにはややマニアック(失礼)な緊急車両のシールがついてくる。
グミは昔懐かしいトレータイプ。6種類の車の形に凹ませたプラスチックのトレーにグミが流し込んであり、裏のオブラートを剥がすとくっついて取れる仕組みだ。抜きテーパが大きく離型抵抗は少ない。
今回紹介する中ではもっとも甘く、柔らかいグミである。子供向けに作られたことは明らかだが、大きなお友達が大量摂取するのはちょっと厳しいかもしれない。
発売元 | 明治製菓 |
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ゴム硬度 | 1.8 |
価格 | 100円 |
グミの食感がイカのそれに似ていると感じることがあったとしても、それを企画にあげてラインに投資し商品化するのは並大抵のことではない。それを実行に移した明治製菓には惜しみない賞賛を贈りたい。
パッケージを空けた瞬間現れる、でろんとした斑模様の巨大なグミ。これに付属のプラスチック棒を通した時、その姿にイカの魂が宿る。
このイカ状物体はそのまま食べるのではなく、付属の「じゅーじゅーパウダー」を使わなければならない。このパウダーを水に溶くと重曹が発泡し、イカをつけ焼きするような聴覚的臨場感を味わえるのだ。また炭酸をまぶすことでコーラグミなのにシュワシュワするという斬新な食感も楽しめる。
さらにその上からピンク色の「すっぱいス」という粉末を加えて完成だ。この食べるまでの複雑な手順には茶の湯や「ねるねるねるね」に通じる形式の美が感じられる。
コーラグミ界の価値観を覆す問題作といっても過言ではあるまい。
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ボトルから烏賊まで形は違えど、その弾力と歯ごたえで我々を魅了するコーラグミ。惜しむらくはグミを作れるメーカーが以外と限られることだ。今後も様々な趣向を凝らしたコーラグミの登場を祈りたい。
でも意外とカロリーは高い。食べすぎにはご用心。