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コーラの歴史 / 「コーラの歴史」の歴史
中橋 一朗

前回までで8回にわたり、コーラ飲料の歴史について駆け足で紹介した。 内容の薄さにもかかわらず、少なからぬ読者に応援していただき、恐悦至極である。 日本国内でのコーラの歴史については全く手付かずであるし、 ロイヤルクラウンやシュエップスについてもほとんど触れることができなかった。 これら内容の不備はひとえに中橋の怠慢のせいであるが、 中橋が怠慢なのは多分丹原のせいなので、 多分私は悪くないと思う。

コーラの歴史についての資料は、実はとても少ない。 日本国内では5冊程度。しかも現在手に入るものはほぼ皆無である。 従って図書館で借りてきたりする訳だが、 いちいち返しに行ってたら連載なんかできないわけで、 かくして自宅には謎の図書館組織から謎の督促状が届き、電話が鳴りやまず、 手軽に多重債務者の気分が味わえるわけである。 この辺が、コーラの歴史の醍醐味のひとつであろうか。

しかしそれらの資料にも、 コカ・コーラとペプシ以外の記述が見られることはほとんどない。 そういう意味で、真のコーラの歴史への探求は、結構難しいのである。 それにいい加減にしないと履歴書に前科を記入することになりそうなので、 謎の図書館組織の横暴な脅迫に潔く屈して、本を返しに行った方が良いだろうと、 最近思うようになった。

★★★

そんなこんなで、コーラの歴史がコカ・コーラの歴史のようになってしまったことは、 非常に不本意である。 もちろんコカ・コーラこそが現在考えられているコーラの始祖であり、 現在まで続くその歴史がコーラの歴史の背骨を形成することは疑う余地もない。 けれども我々が多くのコーラを味わって感じるのは、 それだけではない、ということだ。

南米地方ではポピュラーな「インカコーラ」は、同じコーラという名を冠するが、 明らかにアメリカのコーラとはルーツを別にするものと思われる。 スーパーマーケットで安価に購入できるホームブランドのコーラも、 その味覚形成の過程や、OEM供給関係には興味深いものがありそうだ。 また日本国産の RC, ジョルト、シュエップスなどの登場と引退についても、 いつかは詳しく知りたいと思う。 これらの調査のためにはまだまだ時間も能力も不足しているが、 読者の皆さんのご協力がいただければ、少しでも速く進める事ができるだろう。

★★★

コーラの歴史のもっとも恐るべき敵は、やはり締め切りである。 いや、正確にはむしろ、締め切り後の中本である。 締め切り後の中本の横暴、いや、厳格さは、謎の図書館組織のその比ではない。 執筆者たるこの私が精神集中のために現実逃避していると、まず電話が鳴る。 出ると中本である。

「四季報どうなってんのん?」

いきなり問題の核心を突く、非常に的確な指摘である。 こうなってはもはや退く事叶わず、中橋、絶体絶命のピンチ。

「いや、もうすっかり秋だもんね。今日はツクツクボウシが鳴いてたよ。 しきしきほー、しきしきほー...」

持ち前の知性と教養に裏付けられた機転で当座の危機を乗りきっても、 次は恐怖のメールがやってくる。

「連絡くれ」

たった4文字を伝えるために、はるかデジタルの海を渡ってきたこのメール。 私は途中で活躍したであろう CISCO の 4000 とか、 最近お気に入りのチョコもなかとかに遠く思いを馳せ、 感無量の思いを堪えながら、そっと削除ボタンを押す。

...そして今日も、平和な逃亡生活が始まるのだ。


[四季報 1998年10月号] [コーラ白書] [HELP] - [English Top]
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