中本晋輔  

1962年のDiet Lite Colaの発売により生まれた”カロリーコントロールコーラ”というコンセプトは、高まる健康志向を追い風に市場を2分するほどに成長した。しかし人工甘味料を使ったコーラは砂糖をつかったレギュラーに比べて味で劣り、いかにそのギャップを埋めるかが長年の課題であった。

その過程で生まれたのが砂糖と人工甘味料を併用した「低カロリーコーラ(Mid-Cal)」の概念である。

低カロリーを訴求しつつ、レギュラーに近い味と飲み応えが得られる。この中庸的なタイプのコーラにはコカ・コーラもペプシも強い関心を持ち、これまで幾つかの商品が上梓されてきた。しかしC2に代表されるこの種のコーラはその中途半端さが災いしてかブレイクすることはなく、クラスで一番目立たない奴みたいな扱いを受けてきた。

今回はそんな微妙な低カロリーコーラの歴史について考えてみたい。

なお本記事では混同を避けるため、人工甘味料100%のものを「カロリーゼロ」、糖と人工甘味料を併用したものを「低カロリー」と呼ぶことにする。

 

1. 始まりはペプシ

コーラの生んだのはコカ・コーラだが、育てたのはコカ・コーラではないと言われる。これはコカ・コーラ社がCokeを「絶対的な存在」とすることに固執するあまり、80年代まで派生品の開発を頑なに拒んできたからだ。

これに対して身軽なRoyal CrownやPEPSIは60年代からダイエット市場に新製品を投入、様々な新製品を投入して市場を開拓した(註1)。低カロリータイプのコーラについても、初めに製品化したのはPEPSIであったとされる。

1975年にペプシは米国で新しいペプシブランド「PEPSI Light」を試験的に立ち上げた。このPEPSI Lightは当時の代表的な甘味料であるサッカリンを使用し、なおかつレモンフレーバーを加えた当時としては画期的なコーラであった(註1)。

PEPSI Lightには、同じ名前でカロリーゼロと低カロリーの2種類があったことが確認されており、後者は(多分)世界で初めて市場に登場した「人工甘味料・糖併用」のコーラであった(テスト販売の時期や場所が異なる可能性が高いが、詳細は不明)。甘味料はサッカリンナトリウムと砂糖の組み合わせで、キャッチコピーは「Lemon Taste In, Half the Calorie Out」だった。

当時ペプシは大々的に本製品のプロモーションを行ったようで、この時代としては珍しく様々なノベルティが残されている。しかしこの意欲的なコーラに時代がついてこれなかったのか、数年の販売の後姿を消したとされる。

ちなみに同時期に日本でも低カロリーのペプシが発売されたが、これについては後述する。

2. カナダのMAXは一味違う

ペプシが北米で低カロリーコーラを復活させたのはその10年後。80年代後半よりPEPSIはダイエット(カロリーゼロ)タイプのペプシの新しいブランドとして、PEPSI MAXを立ち上げていた。このMAXはフォーミュレーションを人工甘味料に合わせて調整し、ダイエットを「レギュラーの派生品」ではなく一つのブランドとして確立させようとした試みであった。現在でもヨーロッパや一部東南アジアではDiet PEPSIに替わってこちらが販売されている。

DietのリニューアルであるMAXはあくまでカロリーゼロが前提だったが、カナダでは1993年より試験的に低カロリータイプのMAXが発売された。コーンシロップとアスパルテームの併用でカロリーを1/3に抑えたこのコーラは当時のダイエットペプシよりもずっと飲みやすかった(個人的感想)。

この低カロリーコーラはカナダではそれなりに人気があったようで、浮き沈みの激しい初期のダイエット市場において2002年まで販売された。

この成功に気を良くしてか、ペプシは米国でも再度低カロリーコーラのリリースに踏み切る。95年に発売されたPEPSI XLがそれだ。「EXCELLENT TASTE -- 50% LESS SUGER THAN REGULAR COLA」を謳い、コーンシロップとアスパルテームの併用でカロリーを50%に抑えた製品であったが、その意味不明な名前が災いしてか直ぐに姿を消してしまった。

ちなみにネットでPEPSI XLをググると大量のPEPSIのTシャツ(XLサイズ)が引っかかってきて、まともに調べることが出来ないことを追記しておく。

 

3. 新甘味料の登場

90年代前半までの人工甘味料といえばサッカリンやアスパルテームであったが、90年代後半より新たな甘味料が市場に現れる。アスパルテームに混ぜることで味質を改善するアセスルファムKや安定性の高いスクラロースなどの登場により、これまでアスパルテーム一辺倒だったダイエット飲料にも創意工夫する余地が出てきた。

ここでコカ・コーラがついに重い腰を上げた。01年ごろより同社は本格的な低カロリーコーラの開発に着手、02年後半より「Coke Ultra」という名称で市場テストを開始した。そして04年6月にグローバルブランド「Coca-Cola C2」をリリース、日本を皮切りに北米やアジアで展開した。

コカ・コーラが動けば、必ず追従するのがペプシの戦略だ。ペプシはC2発売前の3月に低カロリーコーラ「PEPSI Edge」の発売をアナウンス。実際に発売されたのは8月なので、明らかにコカ・コーラを意識したアクションであった。

同じ低カロリー路線を歩んだC2とEdgeだが、使用されている甘味料は異なる。C2は実績のあるアスパルテーム+アセサルファムKに、スクラロースを加えたかなり豪華な構成であった。これに対してEdgeは新甘味料のスクラロース一本という思い切りの良さ。それぞれの社風が表れているようで興味深い。

この2大コーラメーカーの激突で市場開拓が進むと期待された低カロリーコーラであったが、結局どちらもブレイクせず。C2は生産が続けられているが、北米では発見が困難なほどマイナー(カナダはちょっとマシな気がする)。Edgeに至っては2005年末に生産を終了してしまった。

4. “ダイエット”嫌いだった日本人

北米ではカロリーゼロタイプの後塵を拝した低カロリーコーラが、唯一受け入れられたのが日本であった。これには当時のアメリカと日本との健康についての考え方の違いが起因していると考えられる。

サッカリンやアスパルテームを使った初期のカロリーゼロタイプのコーラは、ぶっちゃけ不味かった。レギュラーに及ばぬばかりか後味に人工甘味料が尾を引き、清涼な飲料ではなかったと言っても過言ではない。

豊過ぎる食文化のアメリカでは、カロリーは健康を脅かす最大の要因であった。そのため北米の健康志向者には味が劣ってもカロリーがないことに価値を見出すような、ややストイックな風潮が生まれた。緑茶のような糖分を含まない飲料が広まっていなかったことも追い風となったことは想像に難くない。当初医療用に開発されたカロリーゼロコーラは瞬く間に一般の清涼飲料市場に広がった。

これに対して日本人は健康を天然の食べ物に求め、人工的な食べ物や味に抵抗感があったようだ。カロリーへの懸念はあったがアメリカほど切実ではなかったため、味に劣り人工の甘味料を100%使ったコーラの需要は少なかった。

この結果日本ではダイエット(カロリーゼロ)のコーラが定着せず、代わってある程度味がよくカロリーも低く抑えた低カロリーコーラが受け入れられた。中庸的なものを好む、日本人らしい傾向と言えるのかもしれない。

5. ペプシの試行錯誤

「ダイエットペプシ」が日本で発売されたのは1975年で、これは米ペプシが北米で上記の「PEPSI Light」をリリースした時期と重なる。この日本初の人工甘味料使用のコーラは、名称こそダイエットながら砂糖とサッカリンを併用した低カロリータイプであった。(当時アメリカのDiet PEPSIはカロリーゼロタイプ)

また80年代前半には甘味料にステビアを使った低カロリーコーラ「ペプシライト」を発売する。ステビアはサッカリンに比べて高価で、また味質も炭酸飲料には向かないと言われている。しかしサッカリンは再認可後も規制面やイメージでリスクが高かったことから、あえてステビアの採用に踏み切ったものと思われる(註3)。

ステビアを使ったコーラは世界的に見ても例がなく、同社のダイエットにかける意気込みが感じられる。

6. コカ・コーラのローカル戦略

一方の日本コカ・コーラは米国でのDiet Cokeの発売の2年後の84年に、カロリーゼロのコーラ「Coca-Cola Light」を発売する。商品名を変えたのは当時Dietという言葉に不健康な響きがあり、よりイメージの良いLightが採用されたとされる。甘味料には厚生省が83年に認可したばかりのアスパルテームが使用された。

しかし米国で大ヒットしたカロリーゼロのコカ・コーラも、日本では甘味料の味が敬遠された。そのため同社は日本人の嗜好に合わせてフォーミュレーションを変更、89年にアスパルテームと果糖を併用した日本オリジナルの”Coca-Cola Light”を発売した。この製品は途中何度かリニューアルを経るものの、99年の新Diet Coke発売までCokeの一員として活躍した。

余談ながら、当初低カロリーコーラを発売していたペプシ陣営は84年からカロリーゼロタイプのDiet PEPSIを市場に投入。「コカ・コーラライトはペプシの12倍のカロリー」と謳った比較広告が話題を呼んだ。(12倍という微妙な数字になるのは、人工甘味料100%でも実際は数キロカロリーの熱量が残るとされるため。)

既に伝説となったタブクリア(92年、カロリーゼロタイプ)の発売の際には、売れ行きが伸びない同製品への梃入れとして一部地域で「タブクリア・かわってしまった」という改良版(?)が販売された。これはタブクリアに果糖を加えたて低カロリーコーラで、名前に製造側の「いまさら」感の漂う秀作(個人的評価)だが、コンセプトで倒れた透明コーラを救う事は出来なかった。

7. C2の挫折と低カロリーコーラの将来

このような独特の傾向のある日本は、米コカ・コーラ本社には「低カロリーコーラの先進国」と映ったのかもしれない。先述の同社の低カロリーコーラの「Coca-Cola C2」の立ち上げに際し、日本は先行発売地に選ばれた。同社がグローバルブランドをアメリカ以外で先行発売するのは例がなく、日本市場への期待感が窺える。

東京タワーまで動員した華々しいデビューとは裏腹に、現在に到るまでC2がブレイクする兆しは残念ながら見られない。前述の北米の状況と同じく、C2が入っている自販機を見つけるのが難しいような状況が続いている。今のところ生産終了の話はないようだが、私には時間の問題であるように思われてならない。頑張れ。


美味しくてカロリーの少ないコーラに対するニーズは今後さらに増加していくことだろう。しかし人工甘味料と糖を併用した低カロリーコーラがその答えとなる可能性は、C2やEdgeを見る限り低いように思われる。

その理由として、人工甘味料の発達が挙げられる。サッカリンやアスパルテームに頼っていた頃に比べ、現在はアセサルファムKやスクラロースなど優れた甘味料が登場している。それらをうまく使うことで、カロリーゼロでもレギュラーに近い味わいやボディ感を出すことが出来るようになったからだ。

コカ・コーラの新製品Coca-Cola Blakが「甘さ控えめ」を謳っているように、甘いコーラを敬遠する傾向も見られ始めている。現在のトレンドから判断する限りでは、ダイエットとレギュラーに挟まれた低カロリーコーラが復権する可能性はあまり高いとは言えないだろう。

最後に、これまで発売された低カロリーコーラについて以下にまとめてみる。

名称
発売年
カロリー%*
甘味料
PEPSI Light
1975
50%
砂糖・サッカリンナトリウム
Diet PEPSI
1975
40%
砂糖・サッカリンナトリウム
PEPSI Light
1983?
40%
果糖・ステビア
Coca-Cola Light
1984
27%
果糖・アスパルテーム
PEPSI MAX
カナダ
1993
33%
砂糖/FG*2・アスパルテーム
Tab Clear かわってしまった
1993
--
果糖・アスパルテーム
PEPSI XL
1995
50%
HFCS/砂糖*3・アスパルテーム
Coca-Cola C2
日・北米
2004
50%
砂糖/FG*2・アスパルテーム・アセサルファムK・スクラロース
PEPSI Edge
2004
44%
HFCS/砂糖*3・スクラロース
*1: レギュラーに対するカロリー、または砂糖の割合
*2: 果糖ブドウ糖液糖
*3: 高果糖液糖

 

 

(註1)当時のペプシにどれほど先見の明があったかは、30年後に開発されたPEPSI NEXに同じ組み合わせが使われていることからも明らかである。

(註2) コカ・コーラはペプシに先んじて新しいダイエット用ブランド「Tab」を立ち上げたが,ブランドイメージの不足により売上が伸びなかった。その数年後にダイエットペプシの登場によりさらに低迷した。

(註3) ステビア使用の背景についてサントリーに問い合わせてみたところ「他社の製品についてはコメントできません」という回答だった。当時の製造元はペプシコインク日本支社なので、他社っていえば他社だけどね・・・。

 

 


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