中本晋輔

私の勤める会社ではアジア地域のメンバー全員が顔を揃えるミーティングが1年に1度開催される。外資とはいえ国内の営業担当である小職にとっては自腹を切らずに海外のコーラを買い付けに行ける唯一無二の機会であり、これまでPEPSI XやPEPSI ICE/Fireなど現地の最新コーラを入手してきた。(2004四月号「マレーシア PEPSI Xを求めて」参照)

ここ2年はマレーシアが続いたが、今年の開催地はタイのバンコク。また最終日は深夜フライトの時間まで自由行動という、なかなか気の利いた日程である。同僚達がマッサージや観光に繰り出す中、一人コーラを求めてバンコクの街を散策してきた。

 

0600 某ホテル

耳鳴りのような、単調な目覚ましの音で目が覚める。

今回の宿は、ラチャダムリ通りに面した大きくて古いホテルである。立派なフロントやガラス張りのレストランは以前一流であったことを偲ばせるが、時代について行けずに今はツアー客に甘んじているようなホテルだ。ベット脇の備え付けの目覚ましも破れたボタンカバーがささくれ立っていて、目覚ましを止めようとボタンを押すと指に刺さる仕様だった。

1時間ほど前に部屋に戻ってきた同僚を起こさないように顔を洗って、短パンとTシャツに着替える。この部屋には歯ブラシやスリッパなどアメニティらしきものは一切ないが、タオルとガラス瓶に入ったミネラルウォーターだけは支給される。文字が消えるほど年期の入ったボトルはかなりの重量感があり、居心地の悪い部屋でこれだけは気に入っていた。

昨晩の残りを飲み干して、フロントへ降りる。

1月はバンコクで最も過ごしやすい時期と言われるが、それでも気温はかなり高くなる。夜が明けたばかりなのに空気はすでに暖かく、熱帯特有の粘りを帯びている。軽くウォーミングアップをして、お気に入りのルンピニ公園までジョギングに出かける。

この時刻バンコクは既に活動を始めていて、ラチャダムリ通りはオレンジ色の袈裟姿の僧侶や通勤途中の人々で賑わっている。その中を短パンで縫うように走るのだから、きっとすごく邪魔だと思われているんだろうなぁ。

ルンピニ公園の前はちょっとした市場になっている。見慣れない野菜を大量に並べた露天とか、中華なべで大きな豚肉が盛大に揚がっているのを見ると、つくづくタイは豊な国だと思う。肉や野菜を炒める匂いが実に食欲を刺激し、肝炎に耐性のないわが身を呪いながら公園をゆっくり一周する。

真冬でも日差しの強いタイでは露天にパラソルは必須なようであちこちで目にするのだが、興味深いことにその殆どがコカ・コーラかペプシのロゴ入りだった。同じコカ・コーラでもロゴもグラフィックもばらばらで、中に判読不能なほど使い込まれたものもある。おそらくタイではパラソルは重要な広告媒体で、これまでコカ・コーラとペプシが大量のノベルティを配ってきたのだろう。

40分くらい走ってホテルに帰る。残念ながら朝食はビュッフェなので、走った分だけ食べてしまう。

 

0930 セブンイレブン

部屋で荷物を詰めながら、NHK海外版を見る。ちょっと目を離した隙にライブドアがえらいことになっていて、出発前あれだけ騒いでいた耐震偽装問題にはほとんど触れない。関係者は胸を撫で下ろしていることだろう。

海外版の内容は基本的に日本のそれと同じだが、時々海外安全情報などの特別プログラムが入る。タイ南部の三郡に非常事態宣言が出ていることを始めて知る。

ロビーでチェックアウトを済ませて、ようやくこのホテルから開放される。ゲストがホテルへ最も期待するものの一つが清潔さだといわれるが、全く同感である。ベルマンにダッフルを預けて身軽になった私は、まずは近くのセブンイレブンに向かった。

コンビニの飲料棚の品揃えはなかなか充実してたが、タイ産のものがほとんどなくオリジナリティに欠けた。タイの飲料メーカーが競争力をつけるにはもう少し時間が必要なのかもしれない。

日本のブランドが予想外に健闘しており、CALPICO (カルピスの海外ブランド)や旧ペプシコジャパンが販売していた懐かしの缶コーヒー「Birdy」などが並んでいた。

コーラ市場はやはりコカ・コーラとペプシの一騎打ち状態。コカ・コーラ陣営がレギュラーとコカ・コーラライトの2種類に対し、ペプシはレギュラーとPEPSI MAX, それに新発売のPEPSI Latteの3種類と数の上ではやや優勢だ。缶は各13バーツ(約40円)。

PEPSI Latteは昨年後半から世界的に盛り上がりをみせるコーヒーコーラの一種だ。隣国マレーシアのPEPSI Taric に続いてタイでも昨年発売されたらしい。パッケージから見るに間違いなく流行のコーヒーコーラなのだが、Latteって牛乳の意味じゃなかったっけ?

タイのペプシはこの新製品のプロモーションに注力しており、バス停などあちこちでPEPSI Latteの看板を目にした。

タイ名物のグラス壜も健在。コカ・コーラが日本と同じホブルスカートボトルなのに対して、ペプシはダルマ型のボトルを採用しているのが興味深い。価格は4年前から1バーツ値上げされてそれぞれ9バーツ。量の多いペプシのほうがお得感がある。

移動に差し支える重いビンを除いて、とりあえず缶5本を購入。缶にストローを挿して飲むのがタイ式で、買うと必ず袋に缶の数のストローがついてくる。ここの店員はいつもニコニコしながらタイ語で話しかけてくるのだが、そろそろしゃべれないと意思表示したほうが良いのだろうか?

 

1030 伊勢丹

陸橋を渡って対面の伊勢丹へと赴く。コーラ探しは勿論だが、大学時代にお世話になった先生とお昼を食べる約束をしていたので、その手土産の調達も兼ねる。アジアの伊勢丹は日本の食品コーナーを最上階付近に設置する傾向にあるが、ここでも婦人服フロアのさらに上という落ち着かない仕様になっていた。

アジアの日本人をターゲットにしているだけあって、伊勢丹食料品売り場の品揃えは素晴らしい。比率で言えば現地のものが多いが、「海外に代替品のない日本の食材」はおおよそ全て揃っている印象だ。

ただ日本からの輸入品は総じて値段が高めで、特に冷凍食品のインフレが凄い。タイで雪見大福はハーゲンダッツと並ぶ高級アイスだと聞いていたが、ここでの値段は80バーツ(240円)。暴騰といっても過言ではあるまい。

マレーシアの伊勢丹との違いは、ペプシを含め多くのメーカーの商品を扱っている点だ(KLの伊勢丹にはペプシがなかった)。コカ・コーラはコンビニと同じ顔ぶれだが、ペプシはLatteがなく、替わりにコンビニで絶滅したTwistが一列だけ並んでいた。きっと伊勢丹の購買担当者は実績重視で仕入れるため、品揃えにタイムラグが発生するのだろう。崖っぷちのTwistを買い物カゴに保護する。

コーラ以外で興味を引いたのが即席麺のコーナーで、日本メーカーのタイ市場向け商品がいくつか見かけられた。日清カップヌードルのチリとトムヤム味、サッポロ一番激辛など、タイで好まれる唐辛子を使った味のものが目立つ。パッケージも全て真っ赤だ。現在修行中の中橋にカプサイシンの禁断症状が出ているようなので、とりあえず土産にする。

困ったのは大学へのお土産だった。日本の百貨店にあるような洋菓子の専門店を期待していたが、あるのはパン屋くらい。まさかメロンパン買っていくわけにもいかないのでスーパーをうろうろしていると、「日本の高級お菓子」コーナーで文明堂のカステラを発見。一函800バーツ(2400円)のカステラが、今回の旅で最も高価な買い物となる。

 

11:30 チュラロンコン大学

約束まで少し時間があったので、チュラロンコン大学まで歩いていくことにする。ラマ1世通りを西にしばらく歩くと、スカイトレインに添って近代的なショッピングモールが並ぶサイアムに出る。さらにMBKを南に折れると、目指すチュラロンコン大学のキャンパスが見えてくる。

11階建ての研究棟のピロティに座っている守衛らしきオジサンに用件を伝えると、カードでドアを開けてくれる。「Fifth Floor」と言うだけで、案内したり連絡したりはしてくれないらしい。以前来たときは犬が昼寝をしていたのが印象に残っているが、今日は2匹だった。

4年ぶりに再会するS先生の印象は全く変っていなかった。あまりに変らなすぎて、不安になるほどだ。読みかけの学生の論文を脇において、「最近コーヒーに凝ってるんですよ」といいながらエスプレッソメーカーでコーヒーを入れてくれる。カステラは思ったより美味だったが、800バーツの価値があるかは微妙なところだ。

私の仕事の話やS先生の研究の話などでひとしきり盛り上がった後、キャンパスの食堂でお昼を食べる。トムヤンクンの小さくて緑色の殺人的に辛い唐辛子は香り付けだけで実際は食べないとか、パクチーは彩りを添えるのが主な目的であるとか、タイ料理について色々と教えてもらう。新鮮なソムタムがとても美味しかった。

私がローカルのスーパーマーケットに行きたい言うと、サイアムのParagonというモールにバンコク最大のものが入っていると教えてくれた。別れ際にS先生の論文の別刷りとなぜかミカン1個もらって、研究室を後にした。

 

→「バンコクコーラレポート2006」後編へ

 


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